3Dで学ぶ電磁気学

F-6 3次元Clebschポテンシャル

Clebschポテンシャルでは、2つのスカラー場 $\alpha,\beta$ の等値面を使って、発散のないベクトル場を局所的に表します。磁力線は $\alpha=\mathrm{const.}$ と $\beta=\mathrm{const.}$ の2曲面が交わる曲線です。

まず30秒でつかむ

式を読む順番

1. $\alpha=\text{一定}$ と $\beta=\text{一定}$ の二組の曲面を作ります。

2. 二曲面の法線は $\nabla\alpha$ と $\nabla\beta$、交線の接方向はその外積です。

3. したがって $\vec B=\nabla\alpha\times\nabla\beta$ は両曲面に接し、磁束線は二曲面の交線になります。

4. この表示が自動的に保証するのは主に $\nabla\cdot\vec B=0$ です。大きさ、源、境界条件まで自動で決まるわけではありません。

この回の到達点

1. $\vec{B}=\nabla\alpha\times\nabla\beta$ から発散のない場が得られることを示せる。

2. 2つの等値面の交線として磁束線を読める。

3. 軸対称磁場、偏向電磁石、端部磁場でClebsch表現の局所性と限界を説明できる。

修士課程の電磁気学演習

二つのスカラーで、発散のない3次元磁束線を追えるか

電磁気の問い: $\vec B=\nabla\alpha\times\nabla\beta$ で作った磁束線に沿って、$\alpha$ と $\beta$ はなぜ一定になり、どのような場では一組のClebschポテンシャルが大域的に破綻するのか。

観察ポイント: らせん率 $\kappa$、積分分割数 $N$、Clebschゲージ係数 $\lambda$ を変えたとき、磁束線、終点誤差、$\alpha,\beta$ の不変量誤差のどれが変わるかを分ける。

操作と観測: 可視化F-6-8で磁束線を数値積分し、厳密らせんとの距離と二つの不変量残差を追う。可視化F-6-7ではゲージを変え、ポテンシャル面の表示と物理的な $\vec B$ を区別する。

判定基準と微分幾何による説明

$\vec B\cdot\nabla\alpha=\vec B\cdot\nabla\beta=0$ なので磁束線は二つの等値面の交線であり、$\nabla\cdot(\nabla\alpha\times\nabla\beta)=0$ も恒等的に成り立つ。正準変換で $d\alpha\wedge d\beta$ が保たれれば、表示を変えても磁束2-formは同じである。

診断: $N$ を増やして終点誤差だけ減り不変量残差が減らないなら積分器と場評価が不整合である。非零ヘリシティや複雑な磁束管を一組で覆えない場合は、局所chartの貼り合わせか別表現が必要になる。

研究へ: 磁束面座標を使った軸対称機器、偏向磁石端部、磁力線追跡で、局所表現の有効範囲を数値診断する。

2つの等値面から磁界を作る

磁束密度を

\[ \vec{B}=\nabla\alpha\times\nabla\beta \]

と定義すると、ベクトル解析の恒等式から

\[ \nabla\cdot\vec{B} =\nabla\cdot(\nabla\alpha\times\nabla\beta)=0 \]

となります。また、

\[ \vec{B}\cdot\nabla\alpha=0,\qquad \vec{B}\cdot\nabla\beta=0 \]

なので、$\vec{B}$ は両方の等値面に接します。

微分形式で見ると1行になる

同じ内容を磁束密度2-form(F-3)で書くと、性質が全部1行から読めます。

\[ \mathcal{B}=d\alpha\wedge d\beta=d(\alpha\,d\beta) \qquad\Longrightarrow\qquad d\mathcal{B}=0 \]

$d\mathcal{B}=dd(\alpha\,d\beta)=0$ なので、$\mathrm{div}\,\vec{B}=0$ は近似でも条件でもなく $dd=0$ による恒等式です。しかも同じ局所パッチでは $\mathcal{B}=d(\alpha\,d\beta)$ からベクトルポテンシャルも得られます。$\alpha,\beta$ が大域的に一価でない場合、$\mathcal A$ もパッチごとに接続する必要があります。

\[ \mathcal{A}=\alpha\,d\beta \quad\Longleftrightarrow\quad \vec{A}=\alpha\nabla\beta, \qquad \vec{B}=\nabla\times\vec{A}=\nabla\alpha\times\nabla\beta \]

F-5の2次元磁場は $\alpha=A(x,y)$、$\beta=z$ と選ぶClebsch表現の特別な場合で、F-4の曲面上の流れ関数は $T$ が $\alpha$ の役を演じる低次元版です。ここまでの恒等式には計量も材料も使っていません。ただし $\alpha,\beta$ の尺度は $|\vec B|$ にも影響するため、Clebsch表現だけで物理解の強さが決まるわけではありません。材料則、境界条件、エネルギーを通じて物理解を選ぶ段階で $\star$ が登場します。

可視化 F-6-1 円筒面と螺旋面の交線

$z$ 軸を除く局所領域で、$\phi=\operatorname{atan2}(y,x)$ として

\[ \alpha=\dfrac{x^2+y^2}{2},\qquad \beta=h\phi-z \]

を選びます。このとき

\[ \nabla\alpha=(x,y,0),\qquad \nabla\beta=\left(-\dfrac{hy}{x^2+y^2}, \dfrac{hx}{x^2+y^2},-1\right) \]
\[ \vec{B}=(-y,x,h) \]

となり、磁力線は半径一定の螺旋になります。

2つの等値面と磁力線の交わり

α₀=0.72, β₀=0.10
等値面の値を変えることと、ポテンシャル関数を変えることを区別してください。

青い円筒が $\alpha=\alpha_0$、橙色の螺旋面が $\beta=\beta_0$、緑の曲線が両者の交線です。初期状態では $\alpha_0=0.72,\beta_0=0.10$ に固定します。操作後は灰色の基準交線を残して操作を開き、$\alpha_0$ が半径を、$\beta_0$ が同じ形の螺旋の高さを選ぶことを比較できます。

同じ角度 $\phi$ で二つの等値線を比べると、選択値と螺旋の幾何は

\[ r=\sqrt{2\alpha_0},\qquad z(\phi)=h\phi-\beta_0,qquad \Delta z=-\Delta\beta_0,qquad p_z=z(\phi+2\pi)-z(\phi)=2\pi h \]

です。また交線の接ベクトルは

\[ \dfrac{d\vec r}{d\phi}=(-y,x,h)=\vec B,qquad \dfrac{d\alpha}{d\phi}=\dfrac{d\beta}{d\phi}=0 \]

となります。したがって $\beta_0$ の変更はポテンシャル関数 $\beta=h\phi-z$ やその勾配を変更せず、同じ磁場の別の磁力線を選びます。関数そのものを変えても場が不変となるゲージ変換は、後のF-6-7で別に扱います。

この $\beta$ は角度 $\phi$ を含むため、$z$ 軸と角度の枝切りを避けた局所表現です。Clebschポテンシャルは一般に局所的には構成できますが、磁気ヘリシティを持つ場などでは単一の組による大域表現ができない場合があります。

可視化 F-6-2 軸対称磁場と磁束関数

円筒座標 $(\rho,\phi,z)$ で軸対称なポロイダル磁場を考えます。磁束関数を $\psi(\rho,z)$ とし、Clebschポテンシャルを

\[ \alpha=\psi(\rho,z),\qquad \beta=\phi, \qquad \nabla\phi=\dfrac{1}{\rho}\vec{e}_{\phi} \]

と選ぶと、

\[ \vec{B}=\nabla\psi\times\nabla\phi =-\dfrac{1}{\rho}\dfrac{\partial\psi}{\partial z}\vec{e}_{\rho} +\dfrac{1}{\rho}\dfrac{\partial\psi}{\partial\rho}\vec{e}_{z} \]

となります。したがって $\psi=\mathrm{const.}$ は回転対称な磁束面、$\phi=\mathrm{const.}$ は子午面であり、その交線が磁力線です。磁気双極子モーメントを $m$ とすると、SI単位系で磁束関数は

\[ \psi(\rho,z) =C_m\dfrac{\rho^2}{\left(\rho^2+z^2\right)^{3/2}}, \qquad C_m=\dfrac{\mu_0m}{4\pi} \]

です。下の図では基準長さ $r_{\mathrm{ref}}$ を使い、座標と磁束関数を

\[ \widehat r=\dfrac{r}{r_{\mathrm{ref}}},\qquad \widehat\psi=\dfrac{\psi\,r_{\mathrm{ref}}}{C_m} \]

と無次元化します。選択した $\widehat\psi_0$ に対する磁力線は、球座標の極角 $\theta$ を用いて

\[ \widehat r=\widehat L\sin^2\theta, \qquad \widehat L=\dfrac{L}{r_{\mathrm{ref}}}=\dfrac{1}{\widehat\psi_0} \]

と表せます。したがって $\widehat\psi_0$ を大きくすると、別の強い場へ切り替わるのではなく、同じ双極子場の内側の磁束面を選びます。ただし内側はもともと磁場が強いため、選んだ面上の $|\vec B|$ は大きくなります。「場の関数が変わる」ことと「同じ場の別の位置を読む」ことを区別してください。

さらに、$z=0$ の赤道面で二つの磁束面に挟まれた環帯 $S_{12}$ を通る磁束は

\[ \mathit{\Phi}_{12} =\int_{S_{12}}\vec B\cdot\vec e_z\,dS =2\pi\left(\psi_2-\psi_1\right), \qquad \left|\widehat{\mathit{\Phi}}_{12}\right| =\dfrac{|\mathit{\Phi}_{12}|\,r_{\mathrm{ref}}}{C_m} =2\pi|\widehat\psi_2-\widehat\psi_1| \]

です。これが $\psi$ を磁束関数と呼ぶ直接の理由です。

と表せます。

軸対称磁場: $\psi$ 面と子午面の交線

$\widehat\psi_0=0.56$, $\phi_0=36^\circ$
磁束面の選択値と、空間全体の磁場関数を区別してください。

初期状態では $\widehat\psi_0=0.56$ と $\phi_0=36^\circ$ に固定します。青い回転面が $\widehat\psi=\widehat\psi_0$、橙色の半平面が $\phi=\phi_0$、太い青線が両者の交線です。操作後は灰色の基準面を残し、青い現在面との間の赤道環帯を金色で示します。$\phi_0$ の変更は子午面と強調する交線を回転するだけで、磁束面も磁場も変えません。

可視化 F-6-3 偏向電磁石の一様磁場

偏向電磁石のギャップ内を一様磁場 $\vec{B}=B_0\vec{e}_z$ で近似します。この場合は

\[ \alpha=B_0x,\qquad \beta=y \]

と選べば、

\[ \nabla\alpha\times\nabla\beta =B_0\vec{e}_x\times\vec{e}_y =B_0\vec{e}_z=\vec{B} \]

です。$\alpha=\mathrm{const.}$ と $\beta=\mathrm{const.}$ は互いに直交する2枚の平面で、その交線が $z$ 方向の磁力線になります。正電荷の運動量を $\vec{p}$ とすると、ローレンツ力と曲率半径は

\[ \vec{F}=q\vec{v}\times\vec{B},\qquad R=\dfrac{p}{|q|B_0} \]

で与えられ、粒子軌道は磁場に垂直な $xy$ 平面内で曲がります。この $R$ は、F-2でフレネ・セレ標構から導いた曲率半径 $\rho=1/\kappa$(磁気剛性の大きさ $B\rho=p/|q|$)そのものです。偏向方向は電荷の符号と磁場の向きで別に決まります。

偏向電磁石: 2平面の交線と粒子軌道

$(x_0,y_0)=(0.55,-0.45)$

赤い面が $\alpha=\alpha_0$、橙色の面が $\beta=\beta_0$、青い交線が磁力線です。灰色の磁極間では磁場を $+z$ 方向に揃え、黄色の線で正電荷の軌道を示します。

端部磁場(フリンジ)とそのClebsch表現

一様磁場 $\vec{B}=B_0\vec{e}_z$ は磁石の内部だけの近似です。実際の電磁石にはがあり、ビーム進行方向 $y$ に沿って磁場は $B_0$ から $0$ へなめらかに落ちます。この落ち方を関数 $g(y)$(内部で $1$、外部で $0$)で表すと、中面 $z=0$ 上で $B_z=B_0\,g(y)$ です。

ここで $\nabla\cdot\vec{B}=0$ が本質的に効きます。$B_z$ が $y$ 方向に変化するなら、それを打ち消す成分が生じます。電流のない二次元領域で $\nabla\cdot\vec B=0$ と $\nabla\times\vec B=0$ をともに満たす場を中面まわりに展開すると、

\[ B_z=B_0\!\left[g(y)-\dfrac{z^2}{2}g''(y)+O(z^4)\right], \qquad B_y=B_0\!\left[z\,g'(y)-\dfrac{z^3}{6}g'''(y)+O(z^5)\right], \qquad B_x=0 \]

$g'(y)\neq0$ の端部で縦方向成分 $B_y$ が現れます。表示した級数を同じ次数まで保てば、div-freeとcurl-freeが次数ごとに両立します。この2次元($y$-$z$)の端部磁場は、Clebschポテンシャルで1枚の磁束関数にまとめられます。$\beta=x$、$\alpha=A(y,z)$ と置いて $\vec{B}=\nabla A\times\nabla x$ とすれば

\[ \alpha=A(y,z)=B_0\!\left[-G(y)+\dfrac{z^2}{2}g'(y)-\dfrac{z^4}{24}g'''(y)+O(z^6)\right], \qquad G'(y)=g(y) \]

が得られます。$A=\mathrm{const.}$ が磁束線です。内部($g=1,\ g'=0$)では $A=-B_0\,y$ となり、磁束線は $z$ 方向の直線です。端部では磁束線がギャップの外へ膨らみます。落ち方の実用モデルは Enge 関数やtanh型

\[ g(y)=\dfrac{1}{2}\left[1-\tanh\!\dfrac{y-y_{\mathrm{edge}}}{\lambda}\right] \]

で、$\lambda$ が端部の「なまり」の幅です。

端部磁場は粒子光学でエッジ収束を生みます。磁極の端をビームに対して角度 $\beta_{\mathrm{edge}}$ だけ傾けると、上式に $x$ 依存($B_x\neq0$)が加わり、中面から外れた粒子に縦方向の収束キックが働きます。その強さは $\tan\beta_{\mathrm{edge}}$ に比例し、偏向磁石の縦収束設計の要になります。研究室でも、この傾斜エッジ(EFB, effective field boundary)のフリンジ場を有限要素とHDiv-VIMの両方で解き、エッジ収束を評価しています。

可視化 F-6-4 偏向電磁石の端部で膨らむ磁束線

λ=0.20(3断面) 同じ2本の磁束線で囲まれた管を追うことが要点です。そのまま図を動かしてください。 磁束管の断面は、結果を確かめた後に表示します。

磁極の内側では磁束線が $z$ 方向へほぼ平行となり、磁極端から外へ膨らみます。3D表示は同じ $y$-$z$ 追跡場を五つの $x$ 断面へ置き、二次元断面だけでは見落としやすい磁極幅との位置関係を示します。なまり幅 $\lambda$ を大きくすると端部変化がゆるやかになります。図の追跡場は $B_y=B_0z g'(y)$、$B_z=B_0[g(y)-z^2g''(y)/2]$ までを残したdiv-freeな最低次Clebsch近似です。この打切りでは $\nabla\times\vec B=-B_0z^2g'''(y)\vec e_x/2$ が残るため、電流のない厳密場として読む場合は上の高次項まで含めます。傾斜エッジではさらに $B_x$ を伴い、エッジ収束が生じます。

橙色の2本の断面は、同じ2本の $A=\mathrm{const.}$ の磁束線を結びます。断面の幅が変わっても、単位 $x$ 幅当たりの流束は

\[ \dfrac{\Phi_B}{L_x} =\int_{y_1(z)}^{y_2(z)}B_z(y,z)\,dy =A_1-A_2 \]

と一定です。灰色の破線は位置と幅を固定した比較窓で、端部では別の磁束線を切るため、その積分値は保存量ではありません。「見た目が広がるから固定窓の流束も一定」と考えず、同じ磁束管を追うことが保存則の条件です。

保存則・検算と次への接続

Clebsch表現 $\mathcal B=d\alpha\wedge d\beta$ は、磁束保存を恒等的に満たします。

\[ d\mathcal B =d(d\alpha\wedge d\beta) =0, \qquad \mathit{\Phi}_B(S)=\int_S\mathcal B =\int_S d\alpha\wedge d\beta \]

ただしポテンシャルの組は一意ではありません。$(\widetilde\alpha,\widetilde\beta)=(f(\alpha,\beta),g(\alpha,\beta))$ と置くと

\[ \nabla\widetilde\alpha\times\nabla\widetilde\beta =\det\dfrac{\partial(f,g)}{\partial(\alpha,\beta)} \,\nabla\alpha\times\nabla\beta \]

であり、Jacobianが1のポテンシャル変換は同じ $\vec B$ を表します。このゲージ自由度と、閉じた磁束管を一組の大域的な $(\alpha,\beta)$ で覆えるかは別問題です。F-5 Hodograph変換の2次元場座標を3次元へ拡張したものとして読み、G-2 微分形式による弱形式では、この連続な場を有限要素方程式へ渡します。

F-6-D1 閉形式が大域的なポテンシャルを持たないとき

F-3の局所Poincareの補題は、十分小さな星状領域で $d\omega=0$ なら $\omega=d\eta$ と書けることを保証します。しかし穴のある領域では、閉形式と完全形式の差が大域的に残ります。第1 de Rham cohomologyは、その差を

\[ H^1_{\mathrm{dR}}(D) =\dfrac{\ker\!\left(d:\Lambda^1(D)\to\Lambda^2(D)\right)} {\operatorname{im}\!\left(d:\Lambda^0(D)\to\Lambda^1(D)\right)} \]

として分類します。閉路 $\gamma$ に沿う周期

\[ \left\langle[\omega],[\gamma]\right\rangle =\oint_\gamma\omega \]

は、局所的な微分では見えない大域障害を測ります。電流を除いた空気領域で $d\mathcal H=0$ でも、電流を一周する閉路では $\oint_\gamma\mathcal H=I$ となり、一価の磁気スカラーポテンシャルだけでは表せません。ここまでは連続幾何です。G-6 位相・切断面とゲージでは同じclassを、メッシュのcycle、切断面、cohomology基底、tree--cotree自由度として実装します。

可視化 F-6-5 Clebsch表示の大域的な障害

局所的には

\[ \mathcal B=d\alpha\wedge d\beta \]

と書けても、リンクした磁束管では一組の一価なClebschポテンシャルだけで全領域を覆えない場合があります。二本の向き付き閉曲線 $C_1,C_2$ の絡み数はGauss積分

\[ \operatorname{Lk}(C_1,C_2) =\dfrac{1}{4\pi} \oint_{C_1}\!\oint_{C_2} \dfrac{(\vec r_1-\vec r_2)\cdot \left(d\vec r_1\times d\vec r_2\right)} {|\vec r_1-\vec r_2|^3} \]

で測れます。二曲線が交差しない滑らかな変形では、この値は整数のまま変わりません。下の実験では二本を同じ体積保存せん断

\[ F_s(x,y,z)= \left(x+0.45sz,\ y+0.22sx,\ z\right), \qquad 0\le s\le1, \qquad \det \boldsymbol D F_s=1 \]

で変形します。$F_s$ はすべての $s$ で一対一なので、二本の中心線は交差せず、Hopf linkをほどけません。

自己ねじれとwritheを無視した二本の細い閉磁束管の相互ヘリシティ

\[ \mathcal H_{\mathrm{mut}} =2\,\operatorname{Lk}(C_1,C_2)\, \mathit{\Phi}_1\mathit{\Phi}_2 \]

です。一般の全ヘリシティには各管の自己項も加わります。図では規格化流束を $\widehat{\mathit{\Phi}}_1=1.20$、$\widehat{\mathit{\Phi}}_2=0.80$ に固定し、相互項だけを比較します。

二本の中心線が交差するかどうかに注目してください。

初期状態ではHopf linkと $s=0$ に固定します。水色の面 $S_1$ を赤い $C_2$ が一度だけ貫くことが、$|\operatorname{Lk}|=1$ の幾何学的な手掛かりです。操作後は灰色の基準曲線を残し、せん断しても最小中心線距離が正、Gauss積分が1、規格化相互ヘリシティが1.920のままであることを数値で照合できます。

「非連結の別位相」は、連続変形の到達点ではなく比較用の別初期条件です。連結から非連結へ移るには、中心線の交差、磁力線の再結合、磁束管の切断、または開いた端を許す必要があります。選択メニューの切替を物理的な連続運動と読まないでください。

可視化 F-6-6 二つの勾配が平行になるとClebsch場は消える

Clebsch表示の磁束密度は

\[ \vec B=\nabla\alpha\times\nabla\beta \]

です。二つの勾配がなす角を $\vartheta$ とすると、その大きさは

\[ |\vec B|=|\nabla\alpha|\,|\nabla\beta|\sin\vartheta \]

となります。角度を0度へ近づけると、二つの等値面が独立でなくなり、その交線として定まる磁束線も消えます。外積の向きと大きさを同時に確認してください。

可視化 F-6-7 Clebschゲージを変えて場の不変性を見る

$\beta$ に $\alpha$ だけの関数を加えると等値面は曲がりますが、交線が表す磁束密度は変わりません。

\[ \alpha'=\alpha,\qquad \beta'=\beta+f(\alpha) \]
\[ \nabla\alpha'\times\nabla\beta'=\nabla\alpha\times\nabla\beta \]

可視化 F-6-8 修士演習:Clebsch不変量を保つ磁束線を数値積分する

最初のイメージ。 透明な二枚の等値面を空間に置くと、その交線だけが両方の面から逃げずに進めます。Clebsch表示では、一枚が $\alpha=\mathrm{const.}$、もう一枚が $\beta=\mathrm{const.}$ の面で、その交線の接線が $\nabla\alpha\times\nabla\beta$ です。Canvasの円筒面とらせん面を動かしながら、「二つの目盛が一定のまま進む線」が磁束線になる様子を見ます。

Clebsch表示が磁束線を本当に記述しているかを、等値面の絵だけでなく常微分方程式として検算します。次の非線形なポテンシャルを使います。

\[ \alpha=x^2+y^2, \qquad \beta=z+\kappa\operatorname{atan2}(y,x), \qquad \beta'=\beta+\lambda\alpha^2 \]

このときゲージ係数 $\lambda$ によらず

\[ \vec B =\nabla\alpha\times\nabla\beta =\nabla\alpha\times\nabla\beta' =(2y,-2x,2\kappa) \]

です。磁束線を

\[ \dfrac{d\vec X}{ds}=\vec B(\vec X), \qquad \vec X(0)=(r_0,0,0) \]

として4次Runge--Kutta法で1周分積分します。Clebschポテンシャルは磁束線に沿って

\[ \dfrac{d\alpha}{ds} =\nabla\alpha\cdot\vec B=0, \qquad \dfrac{d\beta'}{ds} =\nabla\beta'\cdot\vec B=0 \]

を満たすため、数値解でも $\alpha$ と $\beta'$ の変化は離散化誤差だけになるはずです。この例の厳密解は

\[ \vec X(s) =\bigl(r_0\cos 2s,-r_0\sin 2s,2\kappa s\bigr), \qquad 0\le s\le\pi \]

で、$\alpha=r_0^2$ の円筒面と $\beta'=\mathrm{const.}$ のらせん面の交線になります。分割数を増やして終点誤差と不変量誤差が減ること、$\lambda$ を変えても磁束線が変わらないこと、$\kappa$ がらせんのピッチだけを変えることを確認してください。atan2 の枝切りは角度を連続にほどいて評価しています。

動かして確かめる順序。 まず分割数 $N$ を最小にして、数値磁束線が厳密ならせんからどれだけ外れるかを見ます。次に $N$ を増やし、終点誤差だけでなく $\alpha$ と $\beta'$ の不変量誤差も同時に減るかを確認します。$\kappa$ の大きさと符号を変え、らせんのピッチと進行方向が式 $z=2\kappa s$ に従うかを図を動かして観察します。最後に $\lambda$ を大きく変え、$\beta'$ の等値面表示は変わっても磁束線が変わらないことを確かめ、「ポテンシャル表示」と「物理場」を区別してください。

理解の確認

1. $\vec{B}=\nabla\alpha\times\nabla\beta$ が $\nabla\cdot\vec{B}=0$ を自動的に満たすのはなぜでしょうか。

2. 磁束線が $\alpha$ と $\beta$ の両方の等値面に沿うことを内積から示してください。

3. Clebschポテンシャルが局所的には有効でも、大域的に一価な表現が難しい場があるのはなぜでしょうか。

参考資料