3Dで学ぶ電磁気学
F-3 Hodge star
Hodge starは、計量を使って $k$-formを相補的な $(n-k)$-formへ対応させます。ただし電磁気学では次数だけでなく、空間の向きを反転したときの振る舞いも重要です。この回ではBossavitのstraight/twisted formをintrinsicな分類として学んだうえで、本教材では各領域を右手系に固定し、ordinary formだけで計算する規約へ落とし込みます。
まず30秒でつかむ
- 0-formは点で読み、1-formは線、2-formは面、3-formは体積へ積分します。次数と積分領域の次元が違う組合せは「ゼロ」ではなく、そもそもそのままでは積分を定義しません。
- $d$ は「どこがどこにつながるか」という保存則を表し、$\star$ は「長さ・角度・材料」を表します。Maxwell方程式をこの二層へ分けるのが狙いです。
- straight/twistedはformの次数とは別の分類です。向きを反転する写像で右手系代表の符号を替えるかどうかを決めます。
式を読む順番
1. まず「線で積分する1-formか、面で積分する2-formか」を判定します。これはformの次数です。
2. 次にHodge starで線量と面量を結びます。ここで初めて長さ、角度、材料定数が入ります。
3. さらにstraight/twistedを判定します。これは次数とは別で、向きを反転する写像をまたぐときの符号を決めます。
4. エネルギーでは、空間上の密度3-form、体積密度を選んだ後の係数0-form、積分後の実数を混同しないようにします。
この回の到達点
1. 3次元で1-formと2-formをHodge starによって対応させられる。
2. 外微分 $d$ とHodge starからgrad・rot・div・Laplacianを読み替えられる。
3. 位相的な方程式と、計量・材料を含む構成則を分けて説明できる。
4. straight/twistedの別を判定し、向きを反転する引き戻しの符号を説明できる。
5. 一つの静電場で $V\to\mathcal E\to\widetilde{\mathcal D}\to\widetilde\varrho$ を追い、電位差とGauss則を点・線・面・体積の積分として検算できる。
6. 一般化Stokes、$\partial^2=0$、$d^2=0$を一つの向き付き単体で対応させ、Maxwell方程式から電荷保存を導ける。
修士課程の電磁気学演習
同じ1-formから、計量と材料が異なる磁束を作る
電磁気の問い: 磁界1-form $\mathcal H$ の係数を固定したまま、要素を斜交させるか透磁率を変えると、磁束2-form $\mathcal B=\widetilde\star_\mu\mathcal H$ とエネルギーはどう変わるか。
観察ポイント: 接続や外微分を一切変えず、計量のせん断だけを増やしたとき、Hodge行列の成分、物理的直交性、正値性のどれが保存されるかを答える。
操作と観測: 可視化F-3-7でせん断量と1-formの向きを変え、Hodge行列、対応する面量、二本の物理ベクトルの角度、エネルギー、$\star^2$ の残差を見る。
判定基準と微分幾何による説明
Hodge starは次数を対応させるだけでなく、計量と材料を使って $\mathcal H\mapsto\mathcal B$ を定める。座標行列の成分は変化してよいが、正定値材料なら $\int_\Omega\mathcal H\wedge\widetilde\star_\mu\mathcal H\gt0$ であり、2次元の向き付き接空間では $\star^2=-1$ が保たれる。
診断: せん断で $\boldsymbol C\boldsymbol G$ のような接続恒等式まで変わるなら、Hodgeと外微分を混同している。正の $\mu$ でエネルギーが負になるなら、向き、Jacobian、行列組立のいずれかが不整合である。
研究へ: 第7・8回で、接続行列を固定したまま材料Hodgeだけを更新する有限要素実装へ進む。
1-formと向き付き面要素
右手系の直交座標で体積形式を
とすると、基底1-formのHodge starは
です。一般に同じ次数の微分形式 $\alpha,\beta$ に対して
が成り立ちます。
straight form、twisted form、右手系代表
straight $p$-formを $\Lambda^p$、twisted $p$-formを $\widetilde{\Lambda}^p$ と書きます。Bossavitの定義では、twisted form $\widetilde\omega$ はordinary form $\omega$ と空間の向き $\mathrm{Or}$ の組を、向きと符号を同時に反転した組と同一視したものです。
どちらの代表を選んでもouter-orientedな対象への積分値は同じです。この同値類を保ったまま議論すれば、左手系を含む座標表示や向きを選べない多様体でも、電流・電荷・エネルギーをorientation-freeに記述できます。理論的には最も筋の良い定式化です。3次元電磁気学のintrinsicな分類は次の二系列です。
| 次数 | intrinsicなstraight form | intrinsicなtwisted form |
|---|---|---|
| 0-form | 電位 $V$ | 磁気スカラーポテンシャル $\widetilde\Phi_m$ |
| 1-form | 電界 $\mathcal E$、磁気ベクトルポテンシャル $\mathcal A$ | 磁界 $\widetilde{\mathcal H}$ |
| 2-form | 磁束密度 $\mathcal B$ | 電束密度 $\widetilde{\mathcal D}$、電流密度 $\widetilde{\mathcal J}$ |
| 3-form | 向きを選んだ体積形式 | 電荷密度 $\widetilde\varrho$、エネルギー密度 $\widetilde{\mathcal U}_m$ |
一方、実務の解析領域と有限要素メッシュはほぼ常に右手系で扱います。本教材と我々の手法では、各領域の右手系 $\mathrm{Or}_+$ を一度選び、同値類から $(\omega,\mathrm{Or}_+)$ だけを取り出します。以後はtildeを省略し、$\Phi_m,\mathcal H,\mathcal D,\mathcal J,\varrho,u$ をすべてordinary formとして計算します。領域内部にいる限り同値類を毎回書く必要はありません。
この簡略化の代償は、異なる領域を写像 $g$ で結ぶ瞬間だけ支払います。intrinsicにstraightな量 $\eta$ と、intrinsicにはtwistedだが右手系代表として保存した量 $\omega$ の変換則は
です。$s_g=+1$ の通常の座標変換では追加の仕事はありません。向きを反転するKelvin変換では、intrinsicにtwistedな量の右手系代表だけに負号が現れます。この負号は左手系を使う印ではなく、両側を右手系で表したままtwisted parityを保持する符号表です。Bossavitのorientation-freeな理論を参照点に保ちながら、通常の式変形をordinary formだけで進めるための妥協です。
計量が本質的に定めるHodge作用素は、parityを入れ替える写像として
と捉えられます。右手系を一つ選んでtwisted formをordinary formへ代表させると、tildeを外した通常の $\star$ として計算できます。
可視化 F-3-1 電磁気学でのHodge starの役割
intrinsicな等方媒質の構成則は、straight 1-formの電界をtwisted 2-formの電束密度へ、twisted 1-formの磁界をstraight 2-formの磁束密度へ移します。
右手系代表に移った後は、同じ関係をordinary formだけで
と書きます。Hodge starが計量と材料に依存するため、媒質・座標変換とMaxwell方程式の位相構造を分けて考えられます。異なる領域へ移るときだけ、上の $s_g$ をintrinsicな分類に従って適用します。
1-formと2-formの対応
矢印で1-formの法線方向を、金色の平面で対応する向き付き面要素を表示します。選択を変え、$dx,dy,dz$ と各2-formの向きが右手系に従うことを確かめてください。
⋆は向きを保つ回転と可換する
基底の $dx,dy,dz$ だけを見ると「⋆は座標に依存する操作」に見えますが、等方な計量と選んだ向きを保つ回転に対しては⋆は回転と可換します。鏡映のような向き反転変換では同じ主張は成り立たず、straight/twistedのparity符号が必要です。単位ベクトル $\vec{n}=(n_x,n_y,n_z)$ 方向の1-form $\alpha=n_x\,dx+n_y\,dy+n_z\,dz$ に対して
と、成分がそのままコピーされます。⋆αは「$\vec{n}$ に垂直で、$\vec{n}$ まわりに右ねじの向きを持つ単位面要素」。下の図で向きを連続的に回して、矢印と面がいつも直交したまま一緒に回ることを確認してください。
可視化 F-3-2 ⋆は回転と一緒に回る
青い矢印が $\alpha^{\sharp}=\vec{n}$、金色の円板が $\star\alpha$(縁の矢印が右ねじの向き)です。どの向きでも $\star\alpha$ の3成分は $\vec{n}$ の3成分と同じ数字——等方な⋆は「成分をコピーして次数だけ変える」演算です。この対称性を壊すのが異方性材料(G-2)で、そこでは方向ごとに違う倍率が掛かります。
grad・rot・div は1つの $d$ になる
外微分 $d$ は次数を1つ上げる操作で、微分形式の階段を一方向に進みます。
ベクトル解析の3つの微分は、この1つの $d$ と、Hodge star・$\flat$・$\sharp$ の組合せで全部書けます。
$d$ には計量が要りません。計量(と後で見る材料)は $\star$ だけが担ぎます。さらに「$d$ を2回続けるとゼロ」という1つの恒等式が、ベクトル解析の2大恒等式を同時に含みます。
F-6で磁力線を2つの等値面から作るときも、F-7でKelvin変換を導くときも、根拠はこの「$d$ は計量いらず、$\star$ が計量係」という分業です。
3D橋渡し F-3-T2 一般化Stokesと「境界の境界は空」
外微分 $d$ を局所的な微分公式としてだけ見ると、なぜ積分形のMaxwell方程式へ直結するのかが見えません。そこで向き付き領域 $K$ とその境界 $\partial K$ を一組にして読みます。任意の $(k-1)$-form $\omega$ に対する一般化Stokesの定理は
です。左辺は領域内部で測った局所的な生成量、右辺はその境界を通して測った総量です。$d$ と $\partial$ は別々の世界の演算ですが、積分によるpairingを挟むと互いに対応します。
まず $xy$ 平面の向き付き三角形 $S_L=[012]$ と1-form
を選びます。反時計回りの境界 $\partial S_L=[12]-[02]+[01]$ では、斜辺 $[12]$ だけが非零に寄与し、
となります。次に正向きの四面体 $T_L=[0123]$ と2-form
を選べば、誘導される境界の向きは
です。向きを反転すると両辺は同時に符号反転し、等式は変わりません。これはHodge starや長さを一度も使わない、純粋に向きと接続の法則です。
操作して答える問い。 標準状態では三角形の面積 $1/2$ と境界線積分 $1/2$ が一致します。「2→3」へ替えると四面体体積 $1/6$ と境界面積分 $1/6$ が一致します。向きを逆にすると、図の矢印と両積分の符号が一緒に反転します。最後に「$d^2=0$」と段階2を選び、同じ辺が二つの隣接面から逆向きに現れて消えることを確認してください。
1-form $\eta=xy\,dz$ へ $d$ を二回作用させると、この符号相殺を式でも直接見られます。
つまり $d^2=0$ は記号操作だけではなく、$\partial^2K=\varnothing$、すなわち境界をもう一度たどると、中間次元の向き付き要素が必ず対になって消えることの双対です。
Maxwell方程式は同じStokes機械を使う
空間上の微分形式で書けば、四つのMaxwell方程式は同じ $d$ の階段に並びます。本節では各領域を右手系に固定したordinary form代表を使い、intrinsicには $\mathcal E,\mathcal B$ をstraight、$\widetilde{\mathcal H},\widetilde{\mathcal D},\widetilde{\mathcal J},\widetilde\varrho$ をtwistedとして読みます。
| 局所形 | 一般化Stokesで得る積分形 | 単体実験 |
|---|---|---|
| $d\mathcal E=-\partial_t\mathcal B$ | $\displaystyle\oint_{\partial S}\mathcal E=-\dfrac{d}{dt}\int_S\mathcal B$ | 1→2:面と境界線 |
| $d\widetilde{\mathcal H}=\widetilde{\mathcal J}+\partial_t\widetilde{\mathcal D}$ | $\displaystyle\oint_{\partial S}\widetilde{\mathcal H}=\int_S\widetilde{\mathcal J}+\dfrac{d}{dt}\int_S\widetilde{\mathcal D}$ | 1→2:面と境界線 |
| $d\mathcal B=0$ | $\displaystyle\int_{\partial\Omega}\mathcal B=0$ | 2→3:体積と境界面 |
| $d\widetilde{\mathcal D}=\widetilde\varrho$ | $\displaystyle\int_{\partial\Omega}\widetilde{\mathcal D}=\int_\Omega\widetilde\varrho$ | 2→3:体積と境界面 |
さらにAmpère--Maxwell則へ $d$ を作用させ、$d\widetilde{\mathcal D}=\widetilde\varrho$ と空間微分 $d$ が時間微分と可換することを使うと、
が得られます。これは電荷保存の連続の式です。Maxwell方程式が互いに矛盾せず電荷を保存できる理由の一部が、$d^2=0$ に埋め込まれているわけです。
閉形式なら必ずポテンシャルを持つのか
穴のない十分小さな領域、より正確には星状領域では、局所Poincaréの補題により $d\omega=0$ なら $\omega=d\eta$ と書けます。しかし穴を囲む領域では大域的には成り立たないことがあります。その差はF-6 Clebsch表示・大域位相とG-6 離散de Rham複体で扱います。
曲がった座標でのHodge star
F-1で測った計量がここで効きます。球座標の正規直交コフレーム $e^{r}=dr$、$e^{\theta}=r\,d\theta$、$e^{\phi}=r\sin\theta\,d\phi$ を使えば、$\star$ は直交座標とまったく同じ形です。
これを座標1-formに書き戻した瞬間、F-1の尺度因子が現れます。
「$\star$ とは、F-1の線素・面積要素の帳簿をひとつの演算子に束ねたもの」と言えます。
Laplacianを組み立てる:$\star d\star d$
御利益を1つ見せます。球対称な電位 $u(r)$ に $d$ と $\star$ を交互に当てるだけで、球座標のLaplacianが機械的に出てきます。
暗記していた $\dfrac{1}{r^{2}}\partial_r(r^{2}\partial_r)$ は、$\star$ を2回通ると勝手に出てくる帳簿の結果でした。静電界・静磁界の支配方程式そのものも
と書けます。これは有限要素解析の弱形式の骨格であり、材料を離散Hodgeへ組み込むこと(G-3)、Kelvin変換が材料Hodgeを写し替えること(F-7)への伏線になります。
4つの物理が同じ演算子に住む
$d(k\,\star\,du)=(\text{源})$ という形は、静電界だけのものではありません。$\star$ の隣に座る材料 $k$ を差し替えるだけで、工学の主要な定常場が1つの演算子にまとまります。
| 物理 | ポテンシャル $u$ | 材料 $k$ | 支配方程式 |
|---|---|---|---|
| 静電界 | 電位 $\varphi$ | 誘電率 $\varepsilon$ | $d(\varepsilon\star d\varphi)=-\rho_e\,\mathrm{vol}_g$ |
| 静磁界 | 磁位 $\psi$ | 透磁率 $\mu$ | $d(\mu\star d\psi)=0$ |
| 定常電流 | 電位 $V$ | 導電率 $\sigma$ | $d(\sigma\star dV)=0$ |
| 定常熱伝導 | 温度 $\Theta$ | 熱伝導率 $\kappa$ | $d(\kappa\star d\Theta)=-q_v\,\mathrm{vol}_g$ |
ここで $\rho_e$ は体積電荷密度、$q_v$ は体積発熱密度、$\mathrm{vol}_g$ は計量 $g$ が定める体積3-formです。4つとも「0-formを $d$ で1-formにし、$k\star$ で2-formに変え、もう一度 $d$ で3-form(源)に閉じる」——まったく同じ帳簿です。$d$ の部分(つなぎ方=位相)は共通で、違うのは $\star$ に何の材料が乗るかだけ。研究室の1つの有限要素コードが静電・静磁・電流・熱をすべて解けるのは、この統一があるからです。$\star$ を通した符号も1つの規則にまとまり、$n$ 次元Euclid空間の $k$-formでは
です。3次元ではどの次数でも $\star\star=+1$、2次元では1-formに対して $\star\star=-1$——これがF-4の曲面Hodge starが複素構造($i^2=-1$)になる理由です。
エネルギー密度はtwisted 3-form、全エネルギーは実数
ここでは「密度」「密度の係数」「総量」を分けます。intrinsicな磁界 $\widetilde{\mathcal H}$ はtwisted 1-form、磁束密度 $\mathcal B$ はstraight 2-formなので、空間上の磁気エネルギー密度はtwisted 3-formです。
正の体積密度 $\widetilde{\mathrm{vol}}_g$ を一つ選べば、3-formを「単位体積当たりの値」$w_m$ と体積密度の積へ分けられます。
$w_m$ は物理空間上の0-form、すなわち各点のエネルギー密度の係数です。これを体積密度なしで積分することはできません。領域全体の磁気エネルギーは
という実数です。したがって「エネルギーは0-formか3-formか」への答えは、何を指しているかで異なる、です。
| 呼び分け | 属する場所 | 数学的な型 |
|---|---|---|
| 空間上のエネルギー密度 | 物理領域 $\Omega$ | twisted 3-form $\widetilde{\mathcal U}_m$ |
| 単位体積当たりの係数 | 物理領域 $\Omega$ の各点 | 0-form $w_m$ |
| 全エネルギー | 領域積分の結果 | 実数 $W_m\in\mathbb R$ |
| 形状に依存する全エネルギー | 配置空間 | スカラー関数 $W_m(q)$ |
本教材の右手系代表ではtildeを外して $\mathcal U_m=\mathcal B\wedge\mathcal H/2$ と計算します。向きを反転する写像 $g$ の両側をそれぞれ右手系に固定すると、このordinary 3-form代表にはparity符号が働きます。
向き反転時の負号は、$w_m$ や $W_m$ が負になるという意味ではありません。ordinary 3-formの積分向きが受ける負号と相殺し、正の測度で書けば
です。F-7のKelvin変換では、この「領域内部はordinary form、領域間ではparity符号、積分は正の測度」という規約で追跡します。
可視化 F-3-3 流束の帳簿:$\star E^{\flat}$ は $r$ によらない
点電荷の電界 $\vec{E}=\vec{e}_r/r^{2}$(規格化)を1-formにして $\star$ を通すと、$r$ 依存が消えます。
「どの半径の球でも流束は同じ」というガウスの法則が、電荷を除いた領域 $r>0$ では $d(\star E^{\flat})=0$ という帳簿になります。原点では電荷を表す特異な源があり、分布の意味で $d(\star E^{\flat})=4\pi\delta_0\,\mathrm{vol}$ です。下の図では、同じ有限の座標窓 $(\Delta\theta,\Delta\phi)$ を2つの半径で見ます。中心値 $r^2\sin\theta_0\Delta\theta\Delta\phi$ で近似せず、球面パッチの面積と立体角を正確に積分すると
となります。半径を変えても同じ角度窓の流束は保存されますが、極角を変えると立体角 $\Delta\Omega$ 自体は変わります。この二つを分けて図を動かして確かめてください。
赤い点が電荷 $q$、青い $\Delta S_1$ が半径 $r_1=0.8$、赤い $\Delta S_2$ が半径 $r_2$ の同じ角度窓です。緑の $E_1,E_2$ は電界で、$1/r^2$ に比例する長さで表示します。半径を変えると面積と電界が逆向きに変わり、$\Delta\mathit{\Phi}_2/\Delta\mathit{\Phi}_1=1$ のままです。一方、$\theta_0$ を極へ動かすと同じ $\Delta\theta\Delta\phi$ でも立体角 $\Delta\Omega$ が小さくなり、両パッチの流束は等しいまま一緒に減ります。半径方向の保存と、角度窓そのものの大きさを混同しないでください。
保存則・検算と次への接続
3次元ユークリッド空間で $p$-form $\omega$ にHodge starを2回作用させると
となります。向きや基底変換を実装した後にこの恒等式が崩れるなら、座標系の handedness または面の向きが不整合です。また、本教材の右手系代表では、受動材料のordinary Hodgeによるエネルギーが
でなければなりません。この正値性に加え、領域間を向き反転写像で結ぶときは、元の量がintrinsicにstraightかtwistedかを符号表で検査します。この二重の検算は、異方性材料を扱うG-3とKelvin変換を扱うF-7で重要になります。F-2で曲線へ引き戻した1-formを、次のF-4では曲面内で90度回し、保存電流を作ります。
可視化 F-3-4 非直交計量で変わるHodge star
斜交座標の基底を
とすると、計量は $g_{ij}=\vec g_i\cdot\vec g_j$ です。1-formのHodge starは単なる90度回転ではなく、
として計量を通じて双対面を選びます。せん断 $s$ を変え、1-formに対応する面の形と向きが変わる様子を見てください。ただし、面が置かれる場所と面に与える向きは別です。$\alpha$ の符号だけを反転すると、双対面の支持面は動かず、紫の法線と2-formの向きだけが反転します。
操作して答える問い。 「符号を反転」を押して、変化を確かめます。水色の平行四辺形が同じ場所に残り、紫の法線だけが逆を向くことを確認してください。出力では $\star_g\alpha$ の符号が反転する一方、$\alpha$ と $\star_g\alpha$ が同時に反転するため $\alpha\wedge\star_g\alpha=(1+s^2)\,\mathrm{vol}_g$ は正のままです。次に $s$ を正負に動かし、計量による傾きの変化と、formの符号による向きの反転を区別して説明してください。
可視化 F-3-5 0/1/2/3-formは、何に積分する量なのか
橋渡し可視化 F-3-T1。 形式の次数を、静電場の点・曲線・面・体積積分からFEMの節点・辺・面・セル自由度へつなぎます。
微分形式は、その次数と同じ次元の幾何要素へ引き戻して積分します。0-formは点 $P$ で評価し、1-formは曲線 $C$、2-formは面 $S$、3-formは体積 $\Omega$ へ積分します。たとえば2-formを曲線へ直接積分することは「値が0になる」のではなく、次数が合わないため未定義です。
同じ立方体 $\Omega_L=[0,L]^3$ に、静電ポテンシャル
を置きます。右手系領域で選んだordinary form代表を使えば、点から体積までの鎖は
となります。intrinsicには $V,\mathcal E$ がstraight、$\widetilde{\mathcal D},\widetilde\varrho$ がtwistedです。Canvas内では右手系を固定してtildeを省略しています。$P=(L,L/4,L/4)$、$C:0\le x\le L$、出口面 $S_L=\{x=L\}$ を選ぶと、独立な二つの保存則は
です。ほかの五面の流束は0なので、出口面だけで閉曲面流束を代表できます。$-d$ と $d$ は隣の次数へ移す位相的な演算で、$\star_{\varepsilon}$ だけが計量と材料を使います。
操作して答える問い。 まず1-formと曲線の標準状態で、青い $\mathcal E^\sharp$ の表示矢印と橙色の経路 $C$ を確認します。形式を2-formへ変え、積分領域を曲線のままにすると、図に面要素と曲線が同居しても積分値は未定義です。次に面 $S_L$ へ合わせると電束が得られ、3-formと体積へ進むと同じ電荷になります。一辺 $L$ と $\varepsilon_r$ を変え、電位差残差とGauss残差が丸め誤差内に残ることを確認してください。
3Dの矢印は1-formそのものなのか
青い矢印はEuclid計量で $\mathcal E$ を $\mathcal E^\sharp$ へ移した描画用ベクトルです。1-formそのものは接ベクトルを数へ写す共変量であり、ベクトルとの同一視には計量が必要です。水色の小面は2-formの向き付き面要素、橙の半透明セルは3-formの体積密度を表します。
straight/twistedとform次数は同じ分類か
別です。次数は積分する幾何要素の次元を決めます。straight/twistedは向きを反転する領域写像をまたぐときのparityを決めます。この例では $V,\mathcal E$ はstraight、$\widetilde{\mathcal D},\widetilde\varrho$ はtwistedです。各領域を右手系へ固定した内部計算ではordinary form代表を使い、向き反転写像をまたぐ瞬間だけtwisted代表へ符号を一度加えます。
FEMではどこへつながるか
0/1/2/3-formを点・辺・面・体積へ対応させる発想は、節点、辺、面、セルの積分自由度へつながります。ただしF-3は連続な型と保存則が主題です。有限要素空間、自由度、incidence行列、離散Hodgeの実装はG-1 有限要素法の基礎とG-2 微分形式による弱形式で扱います。
可視化 F-3-6 Hodge starを2回作用させる
$n$ 次元の $k$-formへHodge starを2回作用させた符号を、次数を切り替えて確認します。
操作して一般式を読む。 次元 $n$ と次数 $k$ を決めたら、まず指数 $k(n-k)$ が偶数か奇数かを計算し、結果の符号を図を動かして確認します。3次元だけでは全次数で $+\alpha$ になるため、「Hodge starを2回作用させれば常に元へ戻る」と誤解しやすい点に注意してください。2次元の1-formでは指数が奇数となり、$\star\star\alpha=-\alpha$ です。ここでは向きを固定した正定値Riemann計量を仮定しており、擬Riemann計量では計量の符号数に応じた因子が加わります。
可視化 F-3-7 修士演習:非直交計量のHodge行列を組み立てる
最初のイメージ。 方眼紙を横へずらして、正方形を平行四辺形にした場面を考えます。物理空間で直角な二本の矢印も、斜めの座標目盛で成分を読めば、係数だけを見て直角とは判断できません。Hodge starは「係数を機械的に90度回す演算」ではなく、計量 $\boldsymbol g$ を使って、線に沿う量を物理的に直交する流束へ読み替える演算です。Canvasでは、斜交格子、元の1-form、Hodge star後の方向、そして実際に組み立てた行列を同時に表示します。
Hodge starを「90度回転」とだけ覚えると、斜交座標や曲線要素で破綻します。2次元の斜交基底
を考えます。向きを $dq^1\wedge dq^2>0$ とし、1-formの係数ベクトルを $\boldsymbol\alpha=(\alpha_1,\alpha_2)^{\mathsf T}$ とすると、Hodge starは
という計量依存の行列になります。Canvasでは $\boldsymbol g$ を作り、逆行列と $\boldsymbol S_g$ を毎回組み立てています。正しく組めていれば
であり、エネルギー密度は
です。せん断を変えると行列成分と座標係数は変わりますが、物理空間での直交性、二重Hodgeの符号、正値性は保たれます。これはG-3の材料Hodge行列を要素ごとに組み立てる前の、最小の局所モデルです。
動かして確かめる順序。 まず $s=0$ にして、通常の直交座標では $\boldsymbol S_g$ が90度回転の行列になることを確認します。次に1-form係数の角度を固定したまま $s$ を変え、行列成分と座標係数は変わっても、物理空間の二本の矢印が直交し続けるかを観察します。さらに角度を一周させ、$\boldsymbol S_g^2=-\boldsymbol I$ とエネルギーの正値性が方向に依存せず保たれることを数値欄で確かめます。最後に「変わった量は座標表示、変わらなかった量は物理的な関係」と言葉で分けてください。
可視化 F-3-8 Lagrangianとエネルギーを混同しない
荷電粒子の軌道 $\gamma(t)$ に沿う作用は、電磁ポテンシャル1-form $a$ と電位 $V$ を使って
と書けます。正準運動量は単なる機械運動量ではなく
です。$a$ は線へ作用する1-formなので、$a(\dot\gamma)$ が軌道に沿う結合になります。
場の側では、時空上のポテンシャル1-form $\mathcal A$ から電磁場2-form $\mathcal F=d\mathcal A$ を作ります。本ページの符号規約では
です。$d\mathcal F=0$ は $\mathcal F=d\mathcal A$ から恒等的に成り立ち、$d\mathcal G=\mathcal J$ は境界項を固定した作用の変分から得られます。straight/twistedを明示する流儀では $\mathcal G$ と $\mathcal J$ をtwisted formとして扱います。本教材のように各領域を右手系へ固定してordinary formで計算するときは、向きを反転する領域写像の境界で負号表を適用します。
ここで特に区別したいのが、エネルギー密度の係数、エネルギー密度form、全エネルギーです。線形等方媒質では
は単位体積当たりの値を表す0-formの係数です。体積form $\mathrm{vol}$ を掛けた
が積分可能なエネルギー密度3-formで、$U$ がスカラーの全エネルギーです。一方、空間分解したLagrangian密度は
であり、磁気項の符号が異なります。Canvasで電界と磁束密度を別々に動かし、$u$ は常に和、$\ell$ は差になることを確認してください。
動かして確かめる順序。 まず $|\vec B|=0$ にして $u=\ell$ を確認します。次に $|\vec E|=0$ にして $u=-\ell$ を確認します。最後に両者を動かし、$u$ が0-formではなく3-formの係数と体積formの積であること、積分後の $U$ がスカラーであることを説明してください。
理解の確認
1. 3次元で $\star dx=dy\wedge dz$ となるとき、計量と向きはそれぞれ何を決めているでしょうか。
2. $d$ だけで書けるMaxwell方程式と、Hodge starを含む構成則の役割を分けてください。
3. $\mathcal B$ と $\mathcal H$、$\mathcal D$ と $\mathcal E$ は、次数とstraight/twistedのどちらが異なるでしょうか。
4. $\widetilde{\mathcal U}_m$、$w_m$、$W_m$ はそれぞれ何-formまたは何という型でしょうか。
5. 2-form $\mathcal D$ と1次元曲線 $C$ を選んだとき、$\int_C\mathcal D=0$ と書いてはいけないのはなぜでしょうか。また、$\int_{S_L}\mathcal D=\int_{\Omega_L}\varrho$ はどの保存則を表しますか。
6. $\partial^2=0$ と $d^2=0$ は積分を通してどう対応しますか。また、Ampère--Maxwell則へ $d$ を作用させると、なぜ電荷保存則が得られるのでしょうか。
参考資料
- Alain Bossavit, “On the geometry of electromagnetism (4): Maxwell's house”, *日本AEM学会誌*, 6(4), 318--326 (1998).
- Yakov Itin, Yuri N. Obukhov, and Friedrich W. Hehl, “An electric charge has no screw sense: a comment on the twist-free formulation of electrodynamics”, *Physics Letters A* 374 (2010).