3Dで学ぶ電磁気学

F-7 Pullback formulaとKelvin変換

学部向けの第1回から第14回で場のイメージを学んだ後、その場を座標変換や微分形式で表現する続編です。

引き戻しは、物理空間にある微分形式を、曲線や曲面を記述する媒介変数の空間へ移す操作です。積分したい対象を座標表示へ無理に押し込むのではなく、写像に沿って微分形式を手元の領域へ「引き戻す」と考えます。

まず30秒でつかむ

式を読む順番

1. まず写像 $g$ の向きと、どちらの領域からどちらへ引き戻すかを決めます。

2. 通常の $p$-form pullback $g^*$ で成分を変換します。ここにはJacobianによる動径・接線成分の変化が入ります。

3. 次にintrinsicな量がtwistedなら、右手系代表へ戻す追加係数 $s_g=\operatorname{sgn}(\det\boldsymbol Dg)$ を掛けます。

4. 最後に積分する線・面・体積の向きと正の測度を対応させます。場の代表に負号が付いても、電流、電荷、全エネルギーという測定量は保存されます。

この回の到達点

1. 1-form・2-formのPullback formulaを写像のJacobianから計算できる。

2. $g^*(d\omega)=d(g^*\omega)$ が積分形Maxwell方程式を保つ理由を説明できる。

3. Kelvin変換で無限遠を有限領域へ写すとき、場・材料・源・SIBCがどう変換されるか追跡できる。

修士課程の電磁気学演習

向き反転の負号を、負の材料へ逃がさず扱えるか

電磁気の問い: Kelvin反転で外部領域を球内へ写し、外側と内側をどちらも右手系の同じFEMソルバーで解く。磁束、起磁力、材料定数、エネルギーのどこへ向き反転の符号を置けばよいだろうか。

観察ポイント: straight 2-formで表す $\mathcal B$、twisted 1-formである $\widetilde{\mathcal H}$ の右手系代表、正の透磁率、積分後の磁気エネルギーについて、符号反転の有無を表にする。

操作と観測: 可視化F-7-7で反転半径と界面上の点を動かし、外部・変換領域の基底、法線、接線、$\mathcal B$ と $\mathcal H$ の界面対応を一つずつ追う。

判定基準と微分幾何による説明

通常のformは $g^*$ で引き戻し、twisted formを右手系のordinary formだけで代表するときは $s_g=\operatorname{sgn}(\det\boldsymbol Dg)$ を追加する。向きを反転するKelvin写像では、$\mathcal B=g^*\mathcal B'$ に対し、右手系代表の磁界は $\mathcal H=s_g g^*\widetilde{\mathcal H}'$ と読む。材料定数と $W_m=\tfrac12\int\mathcal H\wedge\mathcal B$ は正の物理量として保つ。

診断: 変換領域を左手系の軸で表示したり、負号を透磁率へ押し込んだりして見かけだけを合わせない。界面の接線積分、法線磁束、エネルギーを独立に比較し、一つでも不連続ならpullback・向き・代表の対応を見直す。

研究へ: 局在コイルの減衰場は源磁界として変換し、一様外場は背景場と反作用場に分けて反作用場だけを変換する。外部場、源磁界、SIBCを含むKelvin FEMで、未知ベクトルの符号変換表と界面結合行列を単体試験へ落とす。

1-formの一般式

曲線$g:I\to\mathbb{R}^2$を$g(t)=(x(t),y(t))$とし、物理空間上の1-formを$\omega=P(x,y)\,dx+Q(x,y)\,dy$とします。$dx=x'(t)dt$、$dy=y'(t)dt$を代入すると、引き戻しは$I$上の1-formになります。

\[ g^*\omega =P(g(t))\,d(x(t))+Q(g(t))\,d(y(t)) \]
\[ g^*\omega =\left\{P(g(t))\dfrac{dx}{dt}+Q(g(t))\dfrac{dy}{dt}\right\}dt \]

この式は、接ベクトル$g'(t)$を1-form $\omega$へ入力して得た値を、媒介変数方向の微小量$dt$に掛けていると読めます。

可視化 F-7-1 円周上で引き戻しを確かめる

$0\le t\le2\pi$から単位円への写像$g(t)=(\cos t,\sin t)$と、1-form $\omega=-y\,dx+x\,dy$を考えます。スライダーを動かすと、左の媒介変数$t$と右の点$g(t)$、接ベクトル$g'(t)$が同時に動きます。

媒介変数と物理空間の対応

t = 0.80
物理空間の点
g(t) = (0.697, 0.717)
接ベクトル
g'(t) = (-0.717, 0.697)
引き戻した係数
(g*omega)(d/dt) = 1.000

円周上では$dx=-\sin t\,dt$、$dy=\cos t\,dt$です。したがって、$\omega$の引き戻しは一定の1-form $dt$になります。

\[ g^*\omega =-\sin t\,(-\sin t\,dt)+\cos t\,(\cos t\,dt) =dt \]
\[ \int_{g(I)}\omega =\int_I g^*\omega =\int_0^{2\pi}dt =2\pi \]

電界の線積分として読む

ユークリッド空間の計量を用いると、電界ベクトル$\vec{E}$に対応する1-form $\mathcal{E}=\vec{E}^{\flat}$を考えられます。経路$g$に沿う仕事は、接ベクトルとの組合せを積分する量です。

\[ \mathcal{E}=E_x\,dx+E_y\,dy+E_z\,dz \]
\[ \int_g\mathcal{E} =\int_I g^*\mathcal{E} =\int_I\mathcal{E}_{g(t)}\!\left(g'(t)\right)dt \]

ここで$\flat$は、計量を使ってベクトルを1-formへ対応させる記号です。ベクトルと1-formを同じものとして扱っている箇所を明示できることも、微分幾何で書く利点です。

外微分との両立

引き戻しは外微分と両立します。座標変換や媒介変数表示を行ってから外微分しても、先に外微分した微分形式を引き戻しても結果は同じです。

\[ g^*(d\omega)=d(g^*\omega) \]

さらに、引き戻しはformの次数とwedge積を保ちます。

\[ \deg(g^*\omega)=\deg\omega, \qquad g^*(\alpha\wedge\beta)=g^*\alpha\wedge g^*\beta \]

これらの関係は、後の回でMaxwell方程式を微分形式で表し、曲線・曲面上の積分式へつなぐ際の基礎になります。

理論はtwisted、計算は右手系のordinary form

微分形式の次数を保つだけでは、Kelvin反転の符号は決まりません。F-3で見たBossavitのorientation-freeな定式化では、例えば磁界は

\[ \widetilde{\mathcal H} =\left[(\mathcal H,\mathrm{Or})\right] =\left\{(\mathcal H,\mathrm{Or}),(-\mathcal H,-\mathrm{Or})\right\} \]

というtwisted 1-formの同値類です。これは理論的に最も素直ですが、実務で各領域を右手系に固定するなら、式変形のたびに同値類を展開する必要はありません。本研究では外部領域と変換領域にそれぞれ右手系を選び、その向きに対応するordinary formだけを $\mathcal H,\mathcal D,\mathcal J,\varrho,\Phi_m,\mathcal U_m$ と書きます。各領域の内部では、すべて通常の微分形式として計算します。

ここで最も重要なのは、formの次数 $p$ とorientation parity(straightかtwistedか)は独立な二つの分類軸だという点です。twistedだから1-formという意味ではありません。磁気スカラーポテンシャル $\widetilde\Phi_m$ はtwisted 0-form、磁界 $\widetilde{\mathcal H}$ はtwisted 1-form、電束密度と電流密度はtwisted 2-form、電荷密度とエネルギー密度はtwisted 3-formです。

外微分 $d$ は次数を一つ上げますが、straight/twistedの別は変えません。

\[ d:\Lambda^p\longrightarrow\Lambda^{p+1}, \qquad d:\widetilde{\Lambda}^p\longrightarrow\widetilde{\Lambda}^{p+1}, \qquad \widetilde{\mathcal H}=-d\widetilde\Phi_m \]

領域間を写像 $g$ で対応させるときだけ、intrinsicな分類に基づく符号表を参照します。

\[ \eta=g^*\eta' \quad(\text{straight}), \qquad \omega=s_g\,g^*\omega' \quad(\text{twisted量の右手系代表}), \qquad s_g=\operatorname{sgn}\!\left(\det\boldsymbol Dg\right) \]
次数straight form
Kelvinの追加符号 $+1$
twisted formの右手系代表
Kelvinの追加符号 $-1$
0-form電位 $V$磁気スカラーポテンシャル $\Phi_m$
1-form電界 $\mathcal E$、磁気ベクトルポテンシャル $\mathcal A$磁界 $\mathcal H$
2-form磁束密度 $\mathcal B$電束密度 $\mathcal D$、電流密度 $\mathcal J$
3-form$d\mathcal B=0$電荷密度 $\varrho$、エネルギー密度 $\mathcal U_m$

表の $\pm1$ は、通常の $p$-form pullbackがJacobianから受ける成分変換とは別に掛かるparityの追加符号です。例えばKelvin反転では1-formの動径成分と接線成分がJacobianによって別々に変換され、その上でtwisted量の右手系代表全体に $s_k=-1$ を掛けます。

球Kelvin写像 $k$ は $s_k=-1$ なので、今回の最重要な検算は

\[ \boxed{\mathcal B=k^*\mathcal B'}, \qquad \boxed{\mathcal H=-k^*\mathcal H'}, \qquad \boxed{\Phi_m=-k^*\Phi'_m} \]

です。$\mathcal D,\mathcal J,\varrho,\mathcal U_m$ にも同じ負号が付きます。この負号は座標軸を左手系にする操作ではなく、両方の領域を右手系で保つため、twisted formの同値類をordinary formへ畳み込んだ代償です。領域内部ではordinary formだけを使い、変換時だけこの表を見る、というのが本研究の運用規約です。

Kelvin反転の負号表

球Kelvin写像は向きを反転するので $s_k=-1$ です。以下の負号は、通常の $p$-form pullbackに加えるparity符号だけを示します。動径・接線成分がJacobianから受ける符号変化は、この表とは別に計算します。

次数straight量twisted量の右手系代表対応する積分・総量
0-form$V=k^*V'$$\Phi_m=-k^*\Phi'_m$点で読むポテンシャル値
1-form$\mathcal E=k^*\mathcal E'$
$\mathcal A=k^*\mathcal A'$
$\mathcal H=-k^*\mathcal H'$
$\mathcal H_s=-k^*\mathcal H'_s$
起電力、起磁力、ベクトルポテンシャルの線積分
2-form$\mathcal B=k^*\mathcal B'$$\mathcal D=-k^*\mathcal D'$
$\mathcal J=-k^*\mathcal J'$
磁束、電束、面を横切る電流
3-form$d\mathcal B=k^*(d\mathcal B')=0$$\varrho=-k^*\varrho'$
$\mathcal U_m=-k^*\mathcal U'_m$
全電荷 $Q$、全エネルギー $W_m$

この表は物理量ごとの暗記表ではなく、一般式 $\omega=s_k k^*\omega'$ を次数ごとに展開したものです。積分する曲線・面・体積の向きも写像と一緒に運ぶため、起磁力、電流、電荷、全エネルギーなどの測定可能な総量は同じです。表で負になるのは、各領域で右手系を選び直したときのordinary代表の係数です。

一方、$\mu,\varepsilon,\sigma$ は単独の0-formとしてこの表へ入れる量ではなく、straightとtwistedの系列を結ぶ構成写像です。本教材の右手系規約では、parity符号を場の対応へ置き、材料Hodgeを正定値に保ちます。

この規約では、変換領域の材料Hodgeを正定値のまま使えます。球反転の等方材料なら

\[ \nu'_{\mathrm{RH}}=\left(\dfrac{r'}{R}\right)^2\nu>0, \qquad \mu'_{\mathrm{RH}}=\left(\dfrac{R}{r'}\right)^2\mu>0, \qquad \int_{\Omega'} \mathcal B'\wedge\widetilde{\star}_{\nu'}\mathcal B'>0 \]

です。ここで「RH」は、外部領域と変換領域の両方で右手系を選び、intrinsicなtwisted量をその右手系代表で保存する本教材の規約を表します。右手系を選ぶだけでは不十分で、twisted量の $s_k=-1$ と正の体積測度 $|\det\boldsymbol Dk|\,dV'$ も同じ規約で使う必要があります。

負号をどこへ置くかを比較すると、次のようになります。

表現規約磁界の領域間対応変換後の磁気抵抗率解釈
twistedを考慮し、両領域を右手系にする
本教材の規約
$\mathcal H=-k^*\mathcal H'$$\nu'_{\mathrm{RH}}=+(r'/R)^2\nu$材料HodgeとFEM行列を正定値に保つ
$\mathcal H$ もstraightとして通常のpullbackだけを使う$\mathcal H=+k^*\mathcal H'$$\nu'_{\mathrm{plain}}=-\left(\dfrac{r'}{R}\right)^2\nu$同じ負号を材料側へ移した表現。物理的な負透磁率を意味しない

したがって「材料定数を正にする」とは、単に軸を右手系で描くことではなく、右手系の場の代表、twistedのparity符号、正のエネルギー測度を一組として採用することです。

研究での実例:Kelvin変換

長嶺英明先生、山口忠先生、菅原賢悟によるCEFC 2026関連研究 A Pullback-Based Formulation of Kelvin Transformation in Electromagnetic Field Analysis では、無限に広がる外部領域を有限な変換領域へ移すKelvin変換を、微分形式の引き戻しで記述しています。

解析領域を内部領域$\Omega^{\mathrm{I}}$と外部領域$\Omega^{\mathrm{E}}$に分け、外部領域から変換領域$\Omega'$への滑らかな写像を$k$とします。関数$f'$の引き戻しは、変換後の関数へ$k(x)$を代入して物理側の関数を再構成する操作です。

\[ k:\Omega^{\mathrm{E}}\to\Omega', \qquad k^*f'(x)=f'(k(x)) \]
\[ k^*:\Lambda^p(\Omega')\to\Lambda^p(\Omega^{\mathrm{E}}), \qquad p=0,1,2,3 \]
Kelvin変換の解析領域、変換領域、写像k、引き戻しk*の関係
解析領域$\Omega=\Omega^{\mathrm{I}}\cup\Omega^{\mathrm{E}}$、変換領域$\Omega'$、写像$k$と引き戻し$k^*$。長嶺・山口・菅原によるCEFC 2026関連原稿の図を使用。

引き戻しは微分形式の次数を保ち、外微分とも両立します。そのため、変換領域で得た磁気ベクトルポテンシャルや磁束密度を、元の外部領域へ一貫した規則で再構成できます。

\[ k^*(df')=d(k^*f') \]

同研究では、変換前後の磁気エネルギーを表す双線形汎関数が等しくなるように、変換後の磁気抵抗率$\nu'$を定めます。ここは磁気ベクトルポテンシャルのA形式なので、straight 1-formの試験関数と未知数を $w=k^*w'$、$A=k^*A'$ とすると、基本となる関係は次の形です。

\[ \int_{\Omega^{\mathrm{E}}} \left\langle dw,\nu\,dA\right\rangle d\Omega = \int_{\Omega'} \left\langle dw',\nu'\,dA'\right\rangle' d\Omega' \]

ここでは、引き戻しが単なる座標変換の記号ではなく、変換領域の計算結果を元の物理領域へ戻し、有限要素解析のエネルギーを対応させる実用的な道具になっています。

可視化 F-7-2 球Kelvin変換と磁束線

磁気双極子を$z$軸方向に置くと、その磁束線は球座標で$r=r_0\sin^2\theta$と表せます。解析領域では半径$R$の球より外側にある部分だけを描き、その各点を球Kelvin変換$k$で変換領域へ移します。

\[ \vec{r}'=k(\vec{r}) =\dfrac{R^2}{\lVert\vec{r}\rVert^2}\vec{r}, \qquad r'=\dfrac{R^2}{r} \]
\[ r=r_0\sin^2\theta \quad\Longrightarrow\quad r'=\dfrac{R^2}{r_0\sin^2\theta} \]

青い磁束線は元の外部領域$\Omega^{\mathrm{E}}$、赤い磁束線は変換領域$\Omega'$にあります。磁束線の形は写像$k$で対応しますが、球反転は向きを反転するため、変換領域では矢印の進む向きが反転します。原稿で示された磁束密度成分の関係は次のとおりです。

\[ B_r=\dfrac{r'^4}{R^4}B'_{r'}, \qquad B_\theta=-\dfrac{r'^4}{R^4}B'_{\theta'}, \qquad B_\phi=-\dfrac{r'^4}{R^4}B'_{\phi'} \]
\[ \mathcal{B}=B_x\,dy\wedge dz+B_y\,dz\wedge dx+B_z\,dx\wedge dy, \qquad \mathcal{B}=k^*\mathcal{B}' \]

強調線が赤道面を通る点を $P$、その像を $P'=k(P)$ とします。青側の半径は $r_0$、赤側の最小半径は $r'_{\min}=R^2/r_0$ なので、左右で変化の向きは逆ですが、次の積は常に1です。境界球上の点 $Q$ は $r=R$ だから $k(Q)=Q$ のまま動きません。操作する前に、$r_0/R$ を2.20から3.00へ増やしたとき $P'$ が中心・境界・外側のどちらへ動くかを確認し、左右を比べて理由を説明してください。

\[ \left(\dfrac{r_0}{R}\right) \left(\dfrac{r'_{\min}}{R}\right)=1, \qquad r_0/R:2.20\longrightarrow3.00 \qquad\Longrightarrow\qquad r'_{\min}/R:0.455\longrightarrow0.333 \]
r₀/R=2.20 r′min/R=0.455 積=1.000
紫の $P\leftrightarrow P'$ と、両側の半径矢印を先に見てください。

外部領域 $\Omega^{\mathrm{E}}$

青い磁束線の最遠点 $P$ と半径 $r_0$。回転・拡大すると右図も同じ向きへ同期します。

内部の変換領域 $\Omega'$

赤い像の最近点 $P'$ と半径 $r'_{\min}=R^2/r_0$。左図と同じ視線で対応を追います。
外部領域の磁束線 内部の変換領域の磁束線 電流ループ ◆ 紫:対応点 $P\leftrightarrow P'$ と境界固定点 $Q$

操作して答える問い。 まず $r_0/R:2.20\to3.00$ で像 $P'$ が中心・境界・外側のどちらへ動くかを確認し、固定比較で確かめます。左右の視点は同期するので、紫の $P\leftrightarrow P'$、灰色の基準半径、動かない境界点 $Q$ を同じ向きから追ってください。操作後にスライダーを自由に動かし、外側半径と内側半径は逆向きに変わっても $(r_0/R)(r'_{\min}/R)=1$ が保たれる理由を $r'=R^2/r$ から説明します。最後に $r_0/R\to\infty$ なら $r'_{\min}/R\to0$ となることから、無限遠を有限領域の中心へ移せることがKelvin変換を開境界問題に利用する理由だと結び付けてください。

変換則を最後まで計算する

上の磁気エネルギーの等式は「変換後の材料 $\nu'$ を、エネルギーが一致するように定める」という宣言でした。ここでは球反転について、その計算を基底1-formの引き戻しから最後まで実行します。

\[ k^*(e^{r'})=-\dfrac{R^2}{r^2}\,e^{r},\qquad k^*(e^{\theta'})=+\dfrac{R^2}{r^2}\,e^{\theta},\qquad k^*(e^{\phi'})=+\dfrac{R^2}{r^2}\,e^{\phi} \]

3成分がすべて同じ倍率 $(R/r)^2$ で写るのは、球反転が共形写像(角度を保つ写像)だからです。動径成分だけ向きが反転するのは、反転が「内と外」を裏返すからです。この3式から、1-formの内積と体積形式の変換が機械的に従います。

\[ g\!\left(k^*w'_1,\,k^*w'_2\right)=\left(\dfrac{R}{r}\right)^{4}g'\!\left(w'_1,\,w'_2\right),\qquad k^*(d\Omega')=-\left(\dfrac{R}{r}\right)^{6}d\Omega \]

あとは数え上げです。A形式(未知数が1-form $A$ で、エネルギーには2-form $dA$ の内積が現れる)は $(R/r)^{8}$ を拾い、スカラー形式(未知数が0-formで、1-form の内積が現れる)は $(R/r)^{4}$ を拾います。体積形式の符号と積分の向きの反転 $\mathrm{sgn}(k)=-1$ が打ち消し合うことに注意して整理すると、変換後の材料が決まります。

\[ \nu'=\left(\dfrac{r'}{R}\right)^{2}\nu\quad(\text{A形式}),\qquad \mu'=\left(\dfrac{R}{r'}\right)^{2}\mu\quad(\text{スカラー形式}) \]

2つは互いに逆数($\mu'\nu'=\mu\nu$)で、同じ材料を2つの定式化で書いただけです。前回(G-3)の言葉で言えば、Kelvin変換で変わるのはHodge starが担う計量と材料の部分だけであり、その変わり方がこの式です。変換領域の中心 $r'=0$ は物理の無限遠の像なので $\mu'$ はそこで発散しますが、体積要素の $r'^2$ が打ち消すため有限要素の行列は有限に収まります。

ここで、右手系表示のHodge starと向きを反転する引き戻しの順序を交換すると負号が現れます。著者原稿の基底計算をstraightな磁束密度2-formへ適用すると

\[ \star\!\left(k^*\mathcal B'\right) =-\left(\dfrac{R}{r}\right)^2 k^*\!\left(\star'\mathcal B'\right) \]

です。$\mathcal H'=\nu'\star'\mathcal B'$ と $k^*\nu'=(R/r)^2\nu$ を使えば

\[ \begin{aligned} k^*\mathcal H' &=k^*\!\left(\nu'\star'\mathcal B'\right) \\ &=-\nu\,\star\!\left(k^*\mathcal B'\right) =-\mathcal H \end{aligned} \qquad\Longrightarrow\qquad \boxed{\mathcal H=-k^*\mathcal H'} \]

となります。$\mathcal B=k^*\mathcal B'$ には負号がなく、intrinsicにはtwistedな磁界の右手系代表 $\mathcal H$ にだけ負号が付くことが、手書き導出の結論です。

外場(源磁界)を含むreduced定式化のKelvin変換

ここからは、研究で実際に使っている2つの定式化を引き戻しで最後まで導きます。まずコイル(電流源)を含む問題です。コイルの磁界はBiot–Savartの法則(学部編第7回)で解析的に厳密計算できるので、これを源磁界 $\vec{H}_s$ として既知にし、未知数を補正分のスカラーポテンシャル $\psi$ だけにするのがreduced(縮約磁位)定式化です(工学文献では $\Omega$ と書くことの多い量ですが、領域の記号と衝突しないためここでは $\psi$ とします)。intrinsicには $\psi$ とテスト関数 $w$ は磁位と同じtwisted 0-formですが、各領域では右手系代表であるordinary 0-formとして計算します。

\[ \mathcal{H}=\mathcal{H}_s-d\psi,\qquad d\mathcal{H}_s=\mathcal{J}\ \text{(コイル電流を厳密に担う)} \]

$\mathcal{H}_s$ は $\vec{H}_s$ に対応する1-formです。$\mathrm{div}\,\vec{B}=0$ の弱形式は、全空間で次の形になります。

\[ \int_{\Omega}\mu\left\langle dw,\,d\psi\right\rangle d\Omega =\int_{\Omega}\mu\left\langle dw,\,\mathcal{H}_s\right\rangle d\Omega \]

外部領域 $\Omega^{\mathrm{E}}$ の寄与を変換領域 $\Omega'$ に書き換えます。ここで初めて領域をまたぐため符号表を参照します。$s_k=-1$ なので、テスト関数、未知数、源磁界の右手系代表はすべて同じ規則で対応させます。

\[ w=s_k k^*w'=-k^*w', \qquad \psi=s_k k^*\psi'=-k^*\psi', \qquad \mathcal{H}_s=s_k k^*(\mathcal{H}'_s)=-k^*(\mathcal{H}'_s) \]

これが「外場のKelvin変換」のparityを含む定義です。剛性項では $dw$ と $d\psi$、源項では $dw$ と $\mathcal H_s$ がそれぞれ同じ負号を持つため、積では符号が相殺します。どちらも「1-formの内積×正の体積測度」として同じ因子で変換され、弱形式の形は変わりません。

\[ \int_{\Omega^{\mathrm{E}}}\mu_0\left\langle dw,\,d\psi\right\rangle d\Omega =\int_{\Omega'}\mu'\left\langle dw',\,d\psi'\right\rangle' d\Omega',\qquad \int_{\Omega^{\mathrm{E}}}\mu_0\left\langle dw,\,\mathcal{H}_s\right\rangle d\Omega =\int_{\Omega'}\mu'\left\langle dw',\,\mathcal{H}'_s\right\rangle' d\Omega' \]

材料は先ほど導いた $\mu'=(R/r')^2\mu_0$ です。残る仕事は $\mathcal{H}'_s$ の成分表示だけです。基底1-formの引き戻しを $\mathcal{H}_s=-k^*(\mathcal{H}'_s)$ に代入して成分を比べると、変換領域で使う源磁界が決まります。

\[ H'_{r'}=+\left(\dfrac{R}{r'}\right)^{2}H_r,\qquad H'_{\theta'}=-\left(\dfrac{R}{r'}\right)^{2}H_{\theta},\qquad H'_{\phi'}=-\left(\dfrac{R}{r'}\right)^{2}H_{\phi} \]

右辺は逆写像点 $r=R^2/r'$(同じ動径線上にある外部の点)で評価した物理の源磁界です。普通の1-form pullbackは動径成分だけを反転する鏡映 $\mathsf R=\mathsf I-2\,\vec n\vec n^{\mathsf T}$ を与えます。符号表の全体負号をさらに掛けるので、最終的には動径成分が同方向、接線成分が逆方向です。

\[ \vec{H}'_s(\vec{r}') =-\left(\dfrac{R}{r'}\right)^{2} \mathsf R\,\vec{H}_s\!\left(k(\vec{r}')\right), \qquad \mathsf R=\mathsf I-2\,\vec n\vec n^{\mathsf T} \]

遠方で双極子型 $|\vec{H}_s|\sim 1/r^3$ と減衰する源を代入すると $|\vec{H}'_s|\sim(R/r')^{2}(r'/R^{2})^{3}=r'/R^{4}$ となり、無限遠で消える源は、変換領域の中心で消える源に写ります。特異点は現れません。実装は「逆写像点でBiot–Savartを評価し、鏡映 $\mathsf R$ を作用させ、符号表の負号と $(R/r')^2$ を掛ける」操作です。

「外場」を一括りにしない:中心で正則になる条件

上の導出で想定した $\mathcal H_s$ は、Kelvin球の内側に置いた有限コイルなど、変換する外部領域には電流源がなく、遠方で減衰する既知場です。外場の遠方減衰を

\[ |\vec H_s(\vec r)|=O(r^{-p}) \]

とすると、変換領域の中心 $r'=0$ 近傍では

\[ |\vec H'_s(\vec r')| =O\!\left(\dfrac{r'^{\,p-2}}{R^{2p-2}}\right) \]

です。したがって $p>2$ なら中心で0へ収束し、$p=2$ なら有界、$p<2$ なら特異になります。中心での点wiseな正則性と、エネルギー積分の収束性は同じ条件ではありません。三次元外部領域の磁気エネルギーは漸近的に

\[ W_m^{\mathrm E}\sim \int_R^\infty r^2|\vec H_s|^2\,dr =\int_R^\infty O(r^{2-2p})\,dr, \qquad W_m^{\mathrm E}\lt\infty\ \Longleftrightarrow\ p>\dfrac32 \]

です。$3/2<p<2$ では変換中心に弱い特異性が残ってもエネルギーは有限なので、中心の局所細分や重み付き近似で扱える余地があります。場の名前ではなく、遠方減衰、中心正則性、有限エネルギー性を分けてKelvin変換へ渡す量を選びます。

物理側の既知場遠方次数変換中心での挙動教材での扱い
閉じた有限コイルの双極子遠方場$p=3$$O(r')$ で0へ収束源磁界 $\mathcal H_s$ としてそのまま引き戻す
$1/r^2$ 型の場$p=2$有界。ただし角度依存の極限も確認中心値とエネルギー積分を別々に検査する
無限直線電流の場$p=1$$O(1/r')$ で特異無限源をそのまま有限要素未知量へ入れない
理想一様外場$p=0$$O(1/r'^2)$ で特異背景場と反作用場に分け、反作用場だけを変換する

一様外場 $\mathcal H_0$ の中へ磁性体を置く問題では、全場をそのままKelvin変換せず、

\[ \mathcal H=\mathcal H_0+\mathcal H_{\mathrm r}, \qquad d\mathcal H_{\mathrm r}=0, \qquad \mathcal H_{\mathrm r}=-d\psi_{\mathrm r}, \qquad \mathcal H_{\mathrm r}\longrightarrow0\quad(r\longrightarrow\infty) \]

と分けます。Kelvin領域へ写すのは有限エネルギーの反作用場 $\mathcal H_{\mathrm r}$ と $\psi_{\mathrm r}$ です。

\[ \mathcal H_{\mathrm r}=-k^*\mathcal H'_{\mathrm r}, \qquad \psi_{\mathrm r}=-k^*\psi'_{\mathrm r} \]

背景場は既知のまま物理側で保持し、界面では全場を再構成します。表面電流がない場合は

\[ \vec n\cdot\!\left(\vec B_{\mathrm{int}}- \mu_0(\vec H_0+\vec H_{\mathrm r})\right)=0, \qquad \vec n\times\!\left(\vec H_{\mathrm{int}}- (\vec H_0+\vec H_{\mathrm r})\right)=\vec0 \]

を満たすように内部領域とKelvin領域を結びます。両領域のソルバーと材料定数は右手系・正値のまま共用でき、向き反転の負号は $\mathcal H_{\mathrm r}$、$\psi_{\mathrm r}$ の自由度写像または界面結合行列へ一度だけ入れます。実電流源が変換する外部領域内にある場合は、$d\mathcal H_s=\mathcal J$ の特異点も有限点へ写るため、源を非変換領域へ分割するか、変換後の $\mathcal J'$ を明示的に離散化しなければなりません。

実装時の選択。 有限コイル由来で $p>2$ の既知場なら、上のreduced定式化で $\mathcal H_s$ を直接変換します。理想一様場や緩減衰場なら、背景場を解析的に保持し、無限遠で0になる反作用場だけをKelvin変換します。変換領域内に実在する電流源があるなら、その領域をsource-freeとして扱ってはいけません。中心で有限か、界面の全場が連続か、エネルギーが正か、の三項目を独立に検査します。

可視化 F-7-3 源磁界の引き戻し

$z$ 方向の磁気双極子(小さな閉コイル、$p=3$)が作る $\vec{H}_s$ を、子午面内のリング上で評価して矢印で表示します。左が物理の外部領域、右が変換領域です。スライダーでリングの半径 $r/R$ を動かすと、像のリングが $r'=R^2/r$ で中心へ寄ること、twisted量の右手系代表に適用する符号表により、動径成分は向きを保ち、接線成分が反転すること、大きさが一律に $(r/R)^{2}$ 倍される(共形性)ことを確認できます。この図は中心で正則になる減衰場の例であり、理想一様外場を直接変換する図ではありません。

左図の緑点 $P$ で、灰色の $\vec e_r,\vec e_\theta$ と青い $\vec H_s(P)$ の位置関係を先に見てください。
物理リング $r/R=1.80$。変換側は操作すると表示します。

外部領域 $\Omega^{\mathrm{E}}$ の源磁界 $\vec{H}_s$

青い子午面リング上の源磁界。緑の $P$ では、青い全ベクトルを金色の $H_r\vec e_r$ と紫の $H_\theta\vec e_\theta$ に分けます。

変換領域 $\Omega'$ の源磁界 $\vec{H}'_s$

操作後、同じ緑の $P'$ と成分色を表示します。左右の回転・拡大は同期します。
物理側の全磁界 $\vec H_s$ 変換側の全磁界 $\vec H'_s$ ◆ 緑:対応点 $P\leftrightarrow P'$ → 金:動径成分 → 紫:接線成分

操作して答える問い。 まず左の緑点 $P$ で、金色の $H_r\vec e_r$ と紫の $H_\theta\vec e_\theta$ を読み、変換後にどちらの向きが反転するか確かめます。操作後は右の同じ緑点 $P'$ を照合し、半径を動かして $r'/R=R/r$、$|\vec H'_s|/|\vec H_s|=(R/r')^2=(r/R)^2$ を数値で確かめてください。リング上の矢印と選択点の成分矢印は方向比較のため正規化しています。双極子の $p=3$ では $r\to\infty$ に対応する $r'\to0$ で $|\vec H'_s|=O(r')$ となり、中心へ滑らかに0へ収束します。

SIBCのKelvin変換

次に、渦電流探傷(ECT)のように導体(大地や厚板)が無限に広がってKelvin境界を横切る問題です。この拡張は Sugahara, Electromagnetic Analysis of Eddy Current Testing With Kelvin Transformation(IEEE Transactions on Magnetics, vol. 58, no. 9, 2022)で定式化されました。周波数が高く表皮深さが薄いときは、導体内部を体積として解かず、表面インピーダンス境界条件(SIBC)で面に置き換えるのが実務の定石です。

\[ \delta=\sqrt{\dfrac{2}{\omega\mu\sigma}},\qquad Z_s=\dfrac{1+j}{\sigma\delta},\qquad \vec{E}_t=Z_s\,\vec{n}\times\vec{H}_t \]

$Z_s$ は、導体内部の指数減衰解を面に凝縮した「材料定数の面版」です。ではKelvin変換で導体表面が変換領域に入るとき、$Z_s$ はどう変換されるでしょうか。答えを2通りの導出で確かめます。

ルート1:材料則から。 2022年論文の結果では、3次元球反転はすべての材料定数を同じ倍率 $(R/r')^2$ で写します。

\[ \sigma'=\left(\dfrac{R}{r'}\right)^{2}\sigma,\qquad \mu'=\left(\dfrac{R}{r'}\right)^{2}\mu,\qquad \varepsilon'=\left(\dfrac{R}{r'}\right)^{2}\varepsilon \]

したがって変換領域で表皮深さと表面インピーダンスを組み立て直すと、$(R/r')^2$ がちょうど打ち消し合います。

\[ \delta'=\sqrt{\dfrac{2}{\omega\mu'\sigma'}}=\left(\dfrac{r'}{R}\right)^{2}\delta,\qquad Z'_s=\dfrac{1+j}{\sigma'\delta'}=\dfrac{1+j}{\sigma\delta}=Z_s \]

表面インピーダンスは不変です。しかも $(r'/R)^2$ は球反転の局所倍率(長さの縮尺)そのものなので、$\delta'$ は「物理の表皮層を写像でそのまま写した厚み」になっています。表皮何枚分か、という無次元の勘定が面のどこでも保存されるから $Z_s$ が変わらない、と読めます。

ルート2:エネルギーから。 SIBCは弱形式に面積分として入ります。Faradayの法則の法線成分 $\vec{n}\cdot\mathrm{rot}\,\vec{E}=\mathrm{div}_\Gamma(\vec{E}\times\vec{n})$ にLeontovich条件を代入すると、表面の法線磁束が接線磁界の面内発散で書けます。

\[ B_n=-\dfrac{1}{j\omega}\,\mathrm{div}_\Gamma\!\left(Z_s\vec{H}_t\right) \]

これを弱形式の自然境界項に入れて面上で部分積分すると、面の上のDirichletエネルギー型の項が現れます(A形式のRobin項 $\dfrac{j\omega}{Z_s}\oint_\Gamma\langle\vec{u}_t,\vec{v}_t\rangle\,dS$ でも以下の構造は同じです)。

\[ \dfrac{1}{j\omega}\oint_{\Gamma}Z_s\left\langle d_\Gamma w,\;d_\Gamma\psi-\mathcal{H}_{s,t}\right\rangle dS \]

この項は「接線1-formが2つ」×「面積要素が1つ」でできています。球反転では接線1-formの成分が各 $(r'/R)^{2}$ 倍、面積要素が $(R/r')^{4}$ 倍になるので、係数は完全に打ち消します。

\[ \left(\dfrac{r'}{R}\right)^{2}\times\left(\dfrac{r'}{R}\right)^{2}\times\left(\dfrac{R}{r'}\right)^{4}=1 \qquad\Longrightarrow\qquad Z'_s=Z_s \]

ルート1と同じ結論です。深い理由は「2次元多様体のDirichletエネルギーは共形変換で不変」という古典的事実です。体積項が $(R/r')^2$ の修正を受ける(3次元のDirichletエネルギーは共形不変でない)のと対照的に、面の項は共形写像では変わりようがありません。逆に、2次元断面の問題で使う円筒反転では「面」が曲線(1次元)になるため不変性が破れ、$Z'_s=(\rho'/R)^{2}Z_s$ と修正を受けます。次元の数え上げだけで結果が読める——微分形式で書く利点がここでも効いています。

ECTの設定では、反転の中心を導体表面上に置くと便利です。中心を通る平面は反転で自分自身に写るので、半径 $R$ の外側の表面は変換領域内の円板 $r'\lt R$ になり、SIBCは同じ $Z_s$ のままそこへ連続して貼れます。導体を体積のまま変換する($\sigma'$ を使う)2022年の定式化と、面に凝縮してから変換する($Z_s$ 不変)本節の定式化は、同じ材料則の2つの顔です。

可視化 F-7-4 表皮の写像とSIBCの不変性

コイルの下に無限に広がる導体板を置き、反転の中心を板の表面に置いた断面図です。左の物理空間では、表皮深さ $\delta$ の層(1枚目・2枚目・3枚目)が表面に沿って一様な厚みで続きます。右の変換領域では、外側の表面が中心へ向かう円板に写り、層の厚みは $\delta'=(r'/R)^{2}\delta$ と中心へ向かって薄くなります。この縮み方は導電率だけの効果ではありません。$\delta\propto1/\sqrt{\mu\sigma}$ なので、$\sigma'$ と $\mu'$ がそれぞれ $(R/r')^{2}$ を1つずつ持ち寄り、平方根を通って $(r'/R)^{2}$ になります。

\[ \dfrac{\delta'}{\delta} =\sqrt{\dfrac{\mu\sigma}{\mu'\sigma'}} =\sqrt{\left(\dfrac{r'}{R}\right)^{2}\times\left(\dfrac{r'}{R}\right)^{2}} =\left(\dfrac{r'}{R}\right)^{2} \]

もし $\sigma'$ だけが変換されて透磁率が $\mu$ のままなら、$\delta'=(r'/R)\delta$ と1乗でしか縮まず、写像の局所倍率 $(r'/R)^2$ と一致しないため $Z'_s\ne Z_s$ になってしまいます。導電率と透磁率が同じ倍率で写ること——エネルギー汎関数が全材料定数に同じ変換則を強制すること——が、SIBC不変性の心臓部です。境界 $r'=R$ で物理側と厚みがつながること、層の枚数の勘定がどこでも保存されることを、スライダーで確認してください。

δ/R=0.070

物理空間(表皮層は一様な厚み)

灰色が導体、着色面が表皮1〜3枚目、青い球がKelvin境界です。

変換領域(層は中心へ向かって薄くなる)

円板が表面の像、曲面が表皮層の像です。$\sigma'$ と $\mu'$ の寄与が合わさり、層は $\delta'=(r'/R)^2\delta$ で薄くなります。

変換領域の中心は物理の無限遠の像なので、表皮の層も中心で厚みゼロに収束します。読み出しの値が示すとおり、$x'/R=0.5$ では $\sigma'$ も $\mu'$ も4倍で、$\delta'/\delta=1/\sqrt{4\times4}=1/4$——透磁率の寄与を落とすと $1/2$ にしかなりません。表皮の「枚数」が面のどこでも保存されるのは $\sigma'$ と $\mu'$ の共同作業であり、だからSIBCは $Z_s$ を書き換えずにそのまま貼れる——これが上の2つの導出の幾何学的な意味です。

まとめ:エネルギーで読み替える

エネルギー汎関数が一致するように $\nu'$ を「定義」すると、エネルギーに現れる他の量——$\mu'$、$\sigma'$、$\varepsilon'$、源磁界 $\vec{H}'_s$、そして表面インピーダンス $Z'_s$——の変換則も決まります。ただし、量の次数だけでなくstraight/twistedのparityを最後まで保持しなければなりません。Kelvin変換とは「無限遠を含む物理を、エネルギーを保存するように有限領域の材料と場へ読み替える」操作であり、その文法が微分形式とtwisted formの引き戻しです。

保存則・検算と次への接続

引き戻しは写像の合成順序を反転し、外微分と可換です。

\[ (f\circ g)^*=g^*\circ f^*, \qquad g^*(d\omega)=d(g^*\omega) \]

球Kelvin写像 $k(\vec x')=R^2\vec x'/r'^2$ は向きを反転する点にも注意が必要です。

\[ \boldsymbol Dk =\dfrac{R^2}{r'^2} \left(\boldsymbol I-2\vec e_r\otimes\vec e_r\right), \qquad \det\boldsymbol Dk=-\dfrac{R^6}{r'^6}\lt0 \]

両領域の座標を右手系に保つと、計算で保存するordinary formは次のように分かれます。

\[ \begin{aligned} \mathcal B&=k^*\mathcal B',& \mathcal A&=k^*\mathcal A',\\ \mathcal H&=-k^*\mathcal H',& \Phi_m&=-k^*\Phi'_m,\\ \mathcal D&=-k^*\mathcal D',& \mathcal J&=-k^*\mathcal J' \end{aligned} \]

intrinsicな空間エネルギー密度は $\widetilde{\mathcal U}_m=\mathcal B\wedge\widetilde{\mathcal H}/2$ というtwisted 3-formです。右手系代表 $\mathcal U_m=\mathcal B\wedge\mathcal H/2$ には符号表が働き、$\mathcal U_m=-k^*\mathcal U'_m$ となります。一方、$\widetilde{\mathcal U}_m=w_m\widetilde{\mathrm{vol}}$ と分けた係数 $w_m$ は0-form、全エネルギー $W_m$ は領域積分で得る実数です。twisted top formとしての積分、または正の測度 $|\det\boldsymbol Dk|\,dV'$ を使った積分は

\[ W_m =\int_{\Omega^{\mathrm E}}\widetilde{\mathcal U}_m =\int_{\Omega'}\widetilde{\mathcal U}'_m \ge 0 \]

を保ちます。右手系の座標軸、formの次数、intrinsicな分類、領域間の符号表、正のエネルギー測度を別々に検査することが重要です。G-3で作った材料Hodge starを変換領域へ移した後、次のG-4では変換後も比較できるエネルギーと応力から電磁力を求めます。

可視化 F-7-5 Kelvin変換の局所基底と向き

半径 $R$ のKelvin反転

\[ \vec x = k(\vec x') = \dfrac{R^2}{|\vec x'|^2}\vec x' \]

のJacobianは

\[ \boldsymbol Dk = \dfrac{R^2}{r'^2} \left( \boldsymbol I-2\vec e_r\otimes\vec e_r \right), \qquad \det\boldsymbol Dk = -\dfrac{R^6}{r'^6} \]

です。動径基底だけが反転し、二本の接線基底は同じ向きを保つため、全体の向きが反転します。外部点を動かし、両領域を右手系で描いたまま符号表が必要になる理由を確認してください。

可視化 F-7-6 Kelvin反転の尺度と負号を成分ごとに追う

半径 $R=1$ のKelvin反転 $k(\vec x')=\vec x'/|\vec x'|^2$ の微分は、動径方向だけを反転します。

\[ \boldsymbol Dk =\lambda\left(\boldsymbol I-2\vec e_r\otimes\vec e_r\right), \qquad \lambda=\dfrac{1}{r'^2}, \qquad \det\boldsymbol Dk=-\lambda^3 \]

動径微分 $dr$ を $m=0$ または $1$ 個含むordinary $k$-formの代表成分は

\[ k^*\omega^{(k)}=(-1)^m\lambda^k\omega^{(k)} \]

と変換されます。twisted formを各領域の右手系ordinary代表で書く本教材の規約では、領域間対応にさらに $\operatorname{sgn}(\det\boldsymbol Dk)=-1$ を掛けます。これはtwisted formそのものを単なる負のordinary formと同一視する操作ではなく、右手系代表どうしを比較するための符号帳です。

可視化 F-7-7 外部領域と変換領域を界面でつなぐ

最初のイメージ。 無限に続く屋外の地図を、境界の位置を保ったまま一つの球の内部へ裏返して畳み込むと考えます。遠方ほど球の中心近くへ移ります。外側の領域と変換後の内側領域は別々の右手系で普通に解けますが、裏返しによって向きが反転するので、界面でtwisted量の右手系代表だけに符号帳が必要になります。

二つの領域をどちらも右手系で解き、界面トレースだけを符号表に従って接続します。

\[ \llbracket B_n\rrbracket=0 \]
\[ H_t^{\mathrm{out}}=-H_t^{\mathrm{map}} \]

動かして確かめる順序。 まずKelvin球半径 $R$ を大きくしたとき、同じ外部点の写像先が中心へ近づくか境界へ近づくかを確かめます。スライダーを動かし、外部側と変換側の対応点、法線磁束 $B_n$、接線磁界 $H_t$ を同時に追います。$B_n$ が同符号で接続され、$H_t$ の右手系代表に負号が付くことを確認した後、その負号を負の透磁率へ移してはいけない理由を説明してください。

可視化 F-7-8 一様外場を背景場と反作用場に分ける

一様な既知磁界 $\vec H_0=H_0\vec e_z$ の中に、半径 $a$、比透磁率 $\mu_r$ の磁性球を置きます。これは外場を持つKelvin問題を、解析解と照合できる最小例です。球外の磁気スカラーポテンシャルを背景項と反作用項へ分けると

\[ \Phi_{\mathrm{out}} =-H_0 z+\alpha H_0 a^3\dfrac{z}{r^3}, \qquad \alpha=\dfrac{\mu_r-1}{\mu_r+2} \]

です。したがって、無限遠まで残る背景場と、磁性球が作る双極子型の反作用場は

\[ \vec H_0=H_0\vec e_z, \qquad \vec H_{\mathrm r} =\alpha H_0\dfrac{a^3}{r^3} \left(3(\vec e_z\cdot\vec e_r)\vec e_r-\vec e_z\right), \qquad \vec H=\vec H_0+\vec H_{\mathrm r} \]

と別々に追跡できます。左のCanvasでは灰色が $\vec H_0$、シアンが全場 $\vec H_0+\vec H_{\mathrm r}$ です。右では、推奨モードなら有限エネルギーの $\vec H_{\mathrm r}$ だけをKelvin領域へ写します。

\[ \vec H'_{\mathrm r}(\vec r') =-\left(\dfrac{R}{r'}\right)^2 \left(\boldsymbol I-2\vec e_{r'}\vec e_{r'}^{\mathsf T}\right) \vec H_{\mathrm r}\!\left(\dfrac{R^2}{r'^2}\vec r'\right) =O(r') \]

比較モードは、理想一様場を分離せず直接写した場合です。

\[ \vec H'_{0,\mathrm{direct}}(\vec r') =-\left(\dfrac{R}{r'}\right)^2 \left(\boldsymbol I-2\vec e_{r'}\vec e_{r'}^{\mathsf T}\right) \vec H_0 =O(r'^{-2}) \]

一様場そのものは無限領域で有限エネルギーではないため、直接変換すると中心で特異になります。反作用場は $\vec H'_{\mathrm r}=O(r')$、変換材料は $\mu'=O(r'^{-2})$ なので、中心近傍のエネルギー積分は収束します。一方、一様場を直接写すと発散します。

\[ \int_0^\varepsilon \mu'|\vec H'_{\mathrm r}|^2r'^2\,dr' =O(\varepsilon^3), \qquad \int_0^\varepsilon \mu'|\vec H'_{0,\mathrm{direct}}|^2r'^2\,dr' =O\!\left(\int_0^\varepsilon r'^{-4}\,dr'\right)=\infty \]

物理領域:背景場と磁性球の反作用

灰色が既知の一様場 $\vec H_0$、シアンが磁性球の外側にできる全場 $\vec H_0+\vec H_{\mathrm r}$ です。

Kelvin領域:中心の正則性を比較

推奨モードでは中心へ近づくほど $\vec H'_{\mathrm r}$ が消えます。比較モードでは直接変換した一様場が $r'^{-2}$ で増大します。

操作して答える問い。 まず推奨モードで $r'/R$ を中心へ近づけ、橙色の矢印が短くなることを確認します。次に一様背景場の直接変換へ切り替え、同じ操作で赤い矢印が伸びることを確かめます。$\mu_r$ は反作用場の係数 $\alpha$ を変えますが、直接変換した $\vec H_0$ の中心特異性は変えません。実際のFEMでは、Kelvin領域で $\vec H'_{\mathrm r}$ を解き、界面上で既知の $\vec H_0$ を足して全場の法線磁束と接線磁界を連続にします。

理解の確認

1. Pullbackが外微分と可換であることは、Stokesの定理とMaxwell方程式にどんな利点を与えるでしょうか。

2. Kelvin変換後に真空が位置依存・異方性材料へ見えるのはなぜでしょうか。

3. $\mathcal B=k^*\mathcal B'$ に負号がなく、$\mathcal H=-k^*\mathcal H'$ に負号が付くのはなぜでしょうか。

4. twistedなエネルギー密度の右手系代表に負号が現れても、物理的なエネルギー積分が正のままなのはなぜでしょうか。

参考資料