3Dで学ぶ電磁気学

G-6 位相・切断面とゲージ

微分方程式が同じでも、解析領域に穴があると解の表し方は変わります。電流を除いた空気領域では磁界の回転が零でも、電流を一周する経路の循環は零になりません。この回では、まず閉路を分類するhomologyを学び、その閉路を循環で測るcohomologyへ進みます。最後に、切断面とtree-cotreeゲージをFEMの自由度へ結びます。

Bossavitの成果の重要な点は、こうした位相上の自由度を材料定数やメッシュ形状の問題と混ぜず、辺・面の接続と循環として扱ったことです。G-3のWhitney形式と離散Hodgeに、欠けていた「穴を回る大域自由度」を加えます。

まず30秒でつかむ

閉曲線であることと、面の境界であることは同じではありません。穴を囲まない閉路は面の縁まで縮められますが、穴を一周する閉路は領域内で点へ縮められません。前者と後者を区別するのがhomologyです。

cohomologyは、その閉路に沿って積分する量を分類します。homologyが「どの閉路で測るか」を与え、cohomologyが「何を積分して測るか」を与えます。両者を結ぶ観測値が循環です。

穴は閉路のclassを増やすだけでなく、Euler標数 $\chi$ も変えます。円板型領域では $\chi=1$、穴を1個開けた環状領域では $\chi=0$ です。二つの橋渡し可視化では、まず平面領域の境界外角、次に閉じた多面体曲面の頂点角度欠損から、この変化をメッシュ接続 $N_v-N_e+N_f$ と同時に確かめます。

\[ \text{閉路 }[\gamma]\in H_1(D) \quad\xleftrightarrow{\displaystyle\ \oint_\gamma\ } \quad \text{閉1-form }[\eta]\in H^1_{\mathrm{dR}}(D) \]

この回の前提知識

式を読む順番

1. chainの境界を取る。 $\partial_1\gamma=0$ なら閉路、$\gamma=\partial_2S$ なら面の境界です。

2. 縮められない閉路を商空間へ残す。 $H_1=\ker\partial_1/\operatorname{im}\partial_2$ が、穴を何回回るかという大域自由度を分類します。

3. 閉1-formで閉路を測る。 $d\eta=0$ を満たす $\eta$ の周期 $\oint_\gamma\eta$ がhomology classを識別します。

4. 切断面またはcohomology基底を選ぶ。 多価ポテンシャルの跳びを切断面へ置くか、独立循環を基底係数として未知量へ加えます。

5. 離散複体で実装する。 $\boldsymbol C\boldsymbol G=\boldsymbol0$ を保ち、tree-cotreeでゲージ核と穴に由来する自由度を分けます。

6. Euler標数を接続から数える。 $\chi_h=N_v-N_e+N_f$ を計算し、外周と内周の符号付き外角和が $2\pi\chi_h$ に一致することを検算します。

7. 閉曲面では角度欠損を足す。 境界のない三角形分割で各頂点の $\delta_v$ を計算し、球面型の $4\pi$ とトーラス型の0を比較します。

この回の到達点

1. cycleとboundaryを区別し、第1 homology群が何を分類するか説明できる。

2. homology classとcohomology classの積分による双対関係を説明できる。

3. curl-freeな場が大域的な勾配になるための条件を説明できる。

4. 切断面によって多価の磁気スカラーポテンシャルを一価として扱える。

5. ゲージ自由度と、穴に由来するcohomology自由度を区別できる。

6. 円板型・環状の三角形メッシュで $N_v-N_e+N_f$ を数え、境界外角和とのGauss--Bonnet収支を説明できる。

7. 閉じた球面型・トーラス型メッシュで、頂点角度欠損の総和とEuler標数の関係を説明できる。

修士課程の電磁気学演習

材料を変えても、穴を回る周期は保存できるか

電磁気の問い: 穴のある領域で、同じ電流を囲む磁界を考える。材料分布を変えると磁界の形は変わるが、独立閉路を一周する循環まで変わってよいだろうか。

観察ポイント: homology class、周期 $\oint_\gamma\mathcal H$、最小エネルギー代表の空間分布について、材料変更で変わるものと変わらないものを分類する。

操作と観測: 可視化 G-6-4で領域と材料重みを変え、周期を固定したままharmonic代表がどこへ集中するかを比較する。切断面を動かす可視化 G-6-7とも照合する。

判定基準と微分幾何による説明

閉路のclassは接続と穴で決まり、材料には依存しない。一方、同じ周期を持つ代表のうち、$\tfrac12\boldsymbol h^{\mathsf T}\boldsymbol M\boldsymbol h$ を最小にするharmonic代表はHodge、すなわち計量と材料に依存する。

診断: 離散場について $\boldsymbol C\boldsymbol h=\boldsymbol0$、指定周期、$\boldsymbol G^{\mathsf T}\boldsymbol M\boldsymbol h=\boldsymbol0$ を別々に確認する。材料を変えてclassや指定周期が変われば、位相自由度とHodge最小化を混同している。

研究へ: 多連結な電磁石・導体領域で、切断面、cohomology基底、tree-cotreeを選び、独立電流とゲージ核をrankと周期から自動検査する。

橋渡し可視化 G-6-B1 穴を開けても $N_v-N_e+N_f$ は何を数えるか

F-2の測地三角形では、曲面の面曲率と境界頂点の外角を足して $2\pi\chi$ へ閉じました。ここでは平面上の三角形メッシュへ移り、同じGauss--Bonnetの収支を接続数から検算する入口を作ります。

頂点数を $N_v$、重複を除いた辺数を $N_e$、三角形要素数を $N_f$ とすると、この2次元複体のEuler標数は

\[ \chi_h=N_v-N_e+N_f \]

です。ここで穴の内部は要素ではないので $N_f$ に数えません。連結成分が1個、穴が $h$ 個、2次元の閉じた空洞classがない平面領域では、Betti数からも

\[ \chi_h=b_0-b_1+b_2=1-h \]

となります。

すべての三角形は同じ平面内にあるため、内部頂点 $v$ の角度欠損

\[ \delta_v=2\pi-\sum_{T\ni v}\mathcal A_{T,v} \]

は0です。したがって離散Gauss--Bonnetの収支は境界頂点の符号付き外角 $\Theta_v$ が担当し、

\[ \sum_{v\in\mathrm{int}}\delta_v +\sum_{v\in\partial D}\Theta_v =2\pi\chi_h \]

となります。$q$ 角形の外周を反時計回りにたどると各頂点は $+2\pi/q$、和は $+2\pi$ です。穴の内周は、領域を左側に見る正向きが時計回りになるため、各頂点は $-2\pi/q$、和は $-2\pi$ です。したがって円板型では $+2\pi=2\pi\chi_h$、環状領域では $+2\pi-2\pi=0=2\pi\chi_h$ となります。

動かして確かめる順序。 まず円板型の標準メッシュで $N_v-N_e+N_f=1$、内部角度欠損和0、外周外角和 $+2\pi$ を確認します。次に環状へ切り替えます。穴の内周は赤色の時計回りとなり、その外角和 $-2\pi$ が外周の $+2\pi$ を打ち消して $\chi_h=0$ になります。最後に $q$ と $m$ を増やします。$N_v,N_e,N_f$ は大きく変わり、各境界頂点の外角 $2\pi/q$ は小さくなりますが、$N_v-N_e+N_f$ と外角の総和は変わりません。3D回転では、紫の法線 $\vec n$ から見た外周と内周の向きが逆であることを確認してください。

なぜ穴の内周だけ時計回りなのか

向き付けた面の境界は、外向き法線 $\vec n$ を基準に領域が進行方向の左側へ来るようにたどります。外周では反時計回りですが、穴の内周で同じ規約を守ると時計回りになります。内周を外周と同じ向きにすると、Gauss--BonnetとStokesの符号が同時に壊れます。

細分で $N_v,N_e,N_f$ が増えるのに、なぜ $\chi_h$ は変わらないのか

三角形を局所的に分割すると、増えた頂点・辺・面の寄与が $N_v-N_e+N_f$ の中で相殺します。$\chi_h$ が見ているのは要素寸法ではなく、連結成分と穴の数です。Canvasでは $q,m$ を変え、三つの個数が変わっても差が1または0に固定されることを確認できます。

内部角度欠損が0なのは、粗いメッシュだからか

いいえ。ここでは全頂点と全三角形を同じEuclid平面へ置いているため、内部頂点を囲む角の和は粗密にかかわらず $2\pi$ です。曲面を平面三角形で近似すると内部頂点に非零の角度欠損が現れます。その正負と曲面曲率の関係は次の独立例で扱います。

これはMaxwell方程式を解くFEMなのか

これは支配方程式の求解ではなく、FEMメッシュの接続・向き・境界抽出を検査する位相ゲートです。Maxwell弱形式では同じ頂点・辺・面の接続から離散勾配と離散curlを作ります。$\chi_h$ や境界向きが誤るメッシュでは、$\boldsymbol C\boldsymbol G=\boldsymbol0$、tree-cotree、cohomology基底も信用できません。

橋渡し可視化 G-6-B2 閉曲面では曲率がどこへ集まるか

G-6-B1では平面内部の角度欠損が0で、Gauss--Bonnetの収支を境界外角が担当しました。今度は境界のない閉じた三角形分割曲面 $M_h$ を考えます。頂点 $v$ のまわりに集まる三角形の内角を $\mathcal A_{T,v}$ とすると、離散曲率は角度欠損

\[ \delta_v=2\pi-\sum_{T\ni v}\mathcal A_{T,v} \]

として頂点へ集中します。閉じた三角形分割では各辺を2枚の面が共有するため、$3N_f=2N_e$ です。また各三角形の内角和は $\pi$ なので、全頂点の角度欠損を足すと

\[ \begin{aligned} \sum_v\delta_v &=2\pi N_v-\pi N_f\\ &=2\pi(N_v-N_e+N_f)\\ &=2\pi\chi_h \end{aligned} \]

となります。これは多面体版のGauss--Bonnetです。球面型では

\[ \chi_h=b_0-b_1+b_2=1-0+1=2, \qquad \sum_v\delta_v=4\pi \]

です。トーラス型では二つの独立な1-cycleがあるため

\[ \chi_h=1-2+1=0, \qquad \sum_v\delta_v=0 \]

となります。ただし「曲率がどこにもない」のではありません。トーラスの外側では正の角度欠損、穴側では負の角度欠損が現れ、全体で相殺します。

動かして確かめる順序。 まず球面型で、全頂点が正の角度欠損を持ち、総和が $4\pi$ となることを確認します。北極・中緯度・赤道を切り替え、選択頂点を囲む黄色の辺と $\sum_{T\ni v}\mathcal A_{T,v}$ を見比べてください。次にトーラス型へ切り替えます。外側の橙色頂点では $\delta_v>0$、穴側の青色頂点では $\delta_v<0$ となり、正負の総和が0へ閉じます。最後に $q,p$ を増やします。$N_v,N_e,N_f$ と各頂点の欠損は変わりますが、$N_v-N_e+N_f$ と $\sum_v\delta_v$ は変わりません。

なぜ三角形の形に依存せず総和が $2\pi\chi_h$ になるのか

局所の $\delta_v$ は頂点位置と三角形形状に依存します。しかし全頂点で角を数え直すと、各三角形は内角和 $\pi$ を1回だけ寄与します。さらに閉曲面では全辺が2面共有なので $3N_f=2N_e$ です。この二つの数え上げが、幾何に依存する局所値を位相量 $2\pi\chi_h$ へ閉じます。

トーラスの総和0は、平らという意味か

いいえ。外側の正曲率と穴側の負曲率が相殺するという大域的な主張です。Canvasの橙と青を別々に足すと非零ですが、その和だけが0になります。局所角度欠損の分布は分割形状に依存し、正則な細分極限で滑らかな曲率測度へ近づきます。

角度欠損はMaxwell FEMの要素行列へ直接入るのか

通常の3次元Maxwell四面体FEMで $\delta_v$ を剛性行列へ直接加えるわけではありません。この量は、表面FEM・シェル・境界メッシュ・曲面幾何の品質と位相を診断するものです。Maxwell解析でも曲面境界の法線、Jacobian、高次曲面近似、表面電流空間を通じて幾何誤差が現れるため、閉表面で $N_v-N_e+N_f$、2面共有、角度欠損総和を検査する価値があります。

滑らかなGauss曲率 $K$ と各頂点の $\delta_v$ は同じ量か

点ごとの値として同じではありません。$\delta_v$ は頂点まわりの小領域へ積分された曲率を表す離散測度です。メッシュが曲面へ正則に収束するとき、頂点集合上の角度欠損測度が $K\,dA$ の積分を近似します。粗い1頂点の値だけを滑らかな点曲率と同一視してはいけません。

可視化 G-6-1 Homologyから始める:閉路と穴

メッシュの辺を向き付きで足し合わせたものを1-chain、面を向き付きで足し合わせたものを2-chainと呼びます。境界作用素 $\partial_k$ は、$k$ 次元のchainからその境界を取り出します。

\[ C_2(D)\xrightarrow{\ \partial_2\ }C_1(D) \xrightarrow{\ \partial_1\ }C_0(D), \qquad \partial_1\partial_2=0 \]

$\partial_1\gamma=0$ を満たす1-chain $\gamma$ は閉路、すなわち1-cycleです。そのうち、領域内の面 $S$ を使って $\gamma=\partial_2S$ と書けるものは1-boundaryです。boundaryは必ずcycleですが、穴のある領域ではcycleが必ずboundaryになるとは限りません。

\[ Z_1(D)=\ker\partial_1, \qquad B_1(D)=\operatorname{im}\partial_2, \qquad H_1(D;\mathbb Z)=\dfrac{Z_1(D)}{B_1(D)} \]

商 $Z_1/B_1$ は、面の境界を足しただけの違いを無視します。同じ穴を同じ回数だけ回る二つの閉路は、形が違っても同じhomology classです。直線電流を除いた平面断面では、穴を回る回数 $n$ がclassを決めます。

\[ H_1(D;\mathbb Z)\simeq\mathbb Z, \qquad [\gamma_n]=n[\gamma_1] \]

次のCanvasでは閉路を変形してください。オレンジの閉路が穴を囲まない場合は、青い面 $S$ の境界として領域内に張れます。穴を一周または二周する場合は、形を変えても巻き数は変わらず、領域内だけでは $\gamma=\partial S$ とできません。青い矢印は、後でcohomology基底として使う正規化1-form $\eta$ のベクトル表示です。

\[ \eta=\dfrac{-y\,dx+x\,dy}{2\pi(x^2+y^2)}, \qquad d\eta=0, \qquad \oint_{\gamma_n}\eta=n \]
閉路、境界、周期を比較

F-6の大域障害を、循環自由度へ移す

閉形式、完全形式、局所Poincareの補題、de Rham classそのものはF-3 一般化StokesF-6 大域位相を正典とします。G-6で必要な連続前提は、電流のない領域 $D$ でも磁界1-form $\mathcal H$ が閉じているだけでは、大域的な勾配とは限らないことです。

\[ d\mathcal H=0, \qquad \nabla\times\vec H=\vec 0 \]

十分小さな近傍では $\mathcal H=-d\Phi$ と書けますが、領域全体で一価の $\Phi$ が存在するには、閉曲線に沿うすべての循環が零でなければなりません。

\[ \mathcal H=-d\Phi\ \text{in all }D \quad\Longrightarrow\quad \oint_{\gamma}\mathcal H=0 \quad\text{for every closed }\gamma\subset D \]

閉じた1-formのうち完全微分では表せない成分を残す第1 de Rham cohomologyと、閉路のhomologyは積分によって双対になります。

\[ H^1_{\mathrm{dR}}(D) =\dfrac{\ker\!\left(d:\Lambda^1(D)\to\Lambda^2(D)\right)} {\operatorname{im}\!\left(d:\Lambda^0(D)\to\Lambda^1(D)\right)} \]
\[ H^1_{\mathrm{dR}}(D)\simeq \operatorname{Hom}\!\left(H_1(D;\mathbb R),\mathbb R\right), \qquad \left\langle[\eta],[\gamma]\right\rangle =\oint_\gamma\eta \]

homology生成元 $[\gamma_i]$ とcohomology基底 $[\eta^j]$ を双対に選ぶと、周期行列は単位行列になります。

\[ \oint_{\gamma_i}\eta^j=\delta_i^{\,j} \]

無限長直線電流を除いた領域では

\[ \vec H(\rho)=\dfrac{I}{2\pi\rho}\,\vec e_{\theta}, \qquad \mathcal H=\dfrac{I}{2\pi}\,d\theta \]

であり、$\rho>0$ では $d\mathcal H=0$ でも、電流を一周する経路では

\[ \oint_{\gamma}\mathcal H =\int_0^{2\pi}\dfrac{I}{2\pi}\,d\theta =I \]

となります。この非零周期を、以降で切断面、cohomology自由度、tree--cotreeへ移します。

可視化 G-6-2 切断面と多価ポテンシャル

角度 $\theta$ を一周すると $2\pi$ 増えるため、

\[ \Phi(\rho,\theta,z)=-\dfrac{I}{2\pi}\theta, \qquad \vec H=-\nabla\Phi \]

は局所的には正しいものの、そのままでは多価です。電流から外境界へ伸びる向き付き面 $\Sigma$ を切断面として除き、$D^{\star}=D\setminus\Sigma$ を考えると、$\theta$ の枝を一つ選べます。切断面の両側でのポテンシャルの跳びが、失われた循環を保持します。

3次元では切断面を、境界の一部を許した相対2-cycleとして扱えます。適切な境界条件のもとで、閉路 $\gamma_i$ と切断面 $\Sigma_j$ は交差数によって双対になります。

\[ [\Sigma_j]\in H_2(D,\partial D), \qquad \gamma_i\mathbin{\boldsymbol\cdot}\Sigma_j=\delta_{ij} \]

したがって、切断面の位置そのものは物理量ではありません。閉路が切断面を向き付きで何回横切るかが、失われた循環を記録します。

\[ [\Phi]_{\Sigma} =\Phi^{+}-\Phi^{-} =-I, \qquad \oint_{\gamma}\mathcal H=-[\Phi]_{\Sigma}=I \]

可視化 G-6-2では、緑が電流、青が磁界、オレンジが積分経路 $\gamma$、半透明の面が切断面 $\Sigma$ です。経路半径を変えても循環が一定であることと、切断面を越えたときだけ $\Phi$ が跳ぶことを確認してください。

循環値と切断面での跳び

一般の領域では、一価ポテンシャルだけでは足りず、cohomology基底 $\mathcal Z_k$ を加えます。必要な基底数は、見かけ上の「穴の個数」ではなく第1 Betti数 $b_1(D)=\dim H^1_{\mathrm{dR}}(D)$ です。

\[ \mathcal H=-d\Phi+\sum_{k=1}^{b_1(D)} I_k\mathcal Z_k, \qquad d\mathcal Z_k=0 \]

基底を代表閉曲線 $\gamma_j$ で正規化すれば、係数 $I_k$ がそのまま独立な循環になります。

\[ \oint_{\gamma_j}\mathcal Z_k=\delta_{jk}, \qquad \oint_{\gamma_j}\mathcal H=I_j \]

可視化 G-6-3 tree-cotreeゲージ

Whitney 1-formでベクトルポテンシャルを離散化すると、辺自由度と面磁束は

\[ a_e=\int_e\mathcal A, \qquad b_f=\int_f\mathcal B, \qquad \boldsymbol b=\boldsymbol C\boldsymbol a \]

で結ばれます。節点0-cochain $\boldsymbol\phi$ を加えても、磁束は変わりません。

\[ \boldsymbol a\longmapsto\boldsymbol a+\boldsymbol G\boldsymbol\phi, \qquad \boldsymbol C(\boldsymbol a+\boldsymbol G\boldsymbol\phi) =\boldsymbol C\boldsymbol a \]

これは $\boldsymbol C\boldsymbol G=\boldsymbol0$ によるゲージ自由度です。連結な辺グラフから $N_v-1$ 本の辺を選んでspanning tree $T$ を作り、その辺自由度を零に固定します。

\[ |T|=N_v-1, \qquad a_e=0\quad(e\in T) \]

残りのcotree辺 $e_c$ をtreeへ一本戻すと、一つの基本閉路 $z_c$ ができます。

\[ E=T\mathbin{\dot\cup}T^{\ast}, \qquad |T^{\ast}|=N_e-N_v+1, \qquad z_c=e_c+P_T(e_c) \]

ここで注意が必要です。cotree辺の本数 $N_e-N_v+1$ は、まず辺グラフのcycle空間 $Z_1$ の次元を数えます。2-cellを貼った複体では、面の境界 $B_1=\operatorname{im}\partial_2$ を同じものとして差し引いて初めて、穴に由来するhomologyが得られます。

\[ \dim Z_1=N_e-N_v+1=5, \qquad \operatorname{rank}B_1=4, \qquad b_1=\dim(Z_1/B_1)=5-4=1 \]

可視化 G-6-3の複体は12節点、16辺、4枚の水色の2-cellと、2-cellを貼らない一つの穴からできています。青がspanning tree、薄い灰色がcotree、オレンジが選択したcotree辺、赤がその辺によって閉じる基本閉路です。$z_1,z_2,z_3$ は各面の境界、$z_4$ も二面を合わせた境界なので、homology classでは零です。$z_5$ だけは面境界を差し引いた後も穴の周回が残ります。

\[ z_1=\partial f_1, \qquad z_4=\partial(f_1+f_4), \qquad z_5\equiv\gamma_{\mathrm{hole}}\pmod{B_1}, \qquad [z_5]=[\gamma_{\mathrm{hole}}]\ne0 \]
基準 z₁=∂f₁ → [z₁]=0 / dim Z₁=5
cotreeの5自由度から、貼られた4面の境界を差し引いてください。

動かして確かめる順序(操作して答える問い)。 まず固定基準 $e_1^{\ast}$ が閉じる $z_1=\partial f_1$ を見て、赤い閉路の内側に水色の2-cellを張れるため $[z_1]=0$ になることを確認します。次に $e_5^{\ast}$ の結果を図を動かして判定を開きます。$z_5$ に $\partial f_2$ を向きに応じて足し引きしても、橙色の穴を回る $\gamma_{\mathrm{hole}}$ が残ることを同じ尺度で比較してください。操作後にsliderで5本を巡り、基本閉路の本数5は穴の数ではなく、面境界4自由度を商にして $b_1=1$ になることを説明してください。

可視化 G-6-4 修士演習:位相がclassを決め、Hodgeが代表を決める

最初のイメージ。 柱に掛けた輪ゴムを考えます。柱を越えない限り、輪ゴムの形をどれだけ変えても「柱を一周する」という性質は消えません。この消せない周回がhomology classです。同じ一周でも、重い領域を避けて輪ゴムがどこを通るかは材料と計量によって変わります。位相が一周という制約を決め、Hodgeがその中で最小エネルギーの代表を選びます。

ここからは、homologyを実際の離散方程式へ落とします。Canvasの穴あきセル複体は、8節点、12辺、4面からできています。節点値から辺積分を作る接続行列を $\boldsymbol G$、辺積分から面周回を作る接続行列を $\boldsymbol C$ とします。

\[ \boldsymbol G\in\mathbb R^{12\times8}, \qquad \boldsymbol C\in\mathbb R^{4\times12}, \qquad \boldsymbol C\boldsymbol G=\boldsymbol0 \]

この複体では $\operatorname{rank}\boldsymbol G=7$、$\operatorname{rank}\boldsymbol C=4$ です。したがって、閉じた辺1-cochainのうち勾配でない自由度は一つ残ります。

\[ b_1 =\dim\ker\boldsymbol C-\operatorname{rank}\boldsymbol G =(12-4)-7 =1 \]

辺1-cochainを $\boldsymbol h$、穴を回る代表閉路を表す行ベクトルを $\boldsymbol p^{\mathsf T}$ とします。指定した大域循環 $I$ を保ちながら、正定値な離散Hodge行列 $\boldsymbol M$ によるエネルギーを最小にすると、同じcohomology classの中から一つのharmonic代表が選ばれます。

\[ \boldsymbol h_{\mathrm{harm}} =\underset{\boldsymbol h}{\operatorname{argmin}} \ \dfrac12\boldsymbol h^{\mathsf T}\boldsymbol M\boldsymbol h \quad\text{subject to}\quad \boldsymbol C\boldsymbol h=\boldsymbol0, \quad \boldsymbol p^{\mathsf T}\boldsymbol h=I \]

勾配方向 $\boldsymbol G\boldsymbol\phi$ は二つの制約を壊さないため、停留条件には次の離散co-closed条件も現れます。

\[ \boldsymbol G^{\mathsf T}\boldsymbol M\boldsymbol h_{\mathrm{harm}}=\boldsymbol0, \qquad \boldsymbol p^{\mathsf T}\boldsymbol G\boldsymbol\phi=0 \]

Canvasでは、緑の扇形に属する辺のHodge重みを変えてください。重みを変えると橙・紫の辺値は再配分されますが、$\boldsymbol C\boldsymbol h=\boldsymbol0$ と穴を回る周期 $\boldsymbol p^{\mathsf T}\boldsymbol h=I$ は保たれます。これは、homologyが自由度の個数を決め、計量と材料を含むHodgeがそのclassの代表形を決めることの最小例です。

ここで使う $\boldsymbol M$ は、機構を見やすくするための正定値な対角Hodgeです。実際のWhitney要素では要素積分から疎な非対角質量行列を組みますが、閉性、周期、Hodge直交という三つの条件は同じです。

この対称な最小複体では、右または上の一領域だけの重みを一様値の $r$ 倍にすると、指定周期 $I$ は重い領域の内外二辺と、残る三領域の内外六辺へ

\[ |h|_{\mathrm{heavy}}=\dfrac{|I|}{1+3r}, \qquad |h|_{\mathrm{other}}=\dfrac{r|I|}{1+3r} \]

と再配分されます。$r:1\to6$、$I=1$ なら、重い二辺は $0.250\to0.0526$、残る六辺は $0.250\to0.3158$ です。位相が固定するのは辺ごとの値ではなく周期です。したがって、重みを上げても $\boldsymbol C\boldsymbol h=\boldsymbol0$ と $\boldsymbol p^{\mathsf T}\boldsymbol h=I$ は変わらず、最小エネルギー代表だけが重い領域で小さくなります。この対称例では放射状の辺値はゼロですが、一般のメッシュや非対角Whitney質量行列で常にゼロという意味ではありません。

一様基準: b₁=1, pᵀh=1.000, 各周回辺 |h|=0.250
位相が固定する周期と、Hodgeが選ぶ辺ごとの代表を分けて考えてください。

動かして確かめる順序(操作して答える問い)。 一様基準では穴を回る八辺が同じ $|h|=0.250$ です。右側の重みを $1\to6$ にする前に、右側二辺が大きくなるか小さくなるかを図を動かして確かめてください。操作後は灰色の一様基準と現在の矢印・棒を同じ尺度で比較し、右側二辺 $0.250\to0.0526$、残る六辺 $0.250\to0.3158$、周期 $1\to1$ を照合します。次に重い領域を上側へ切り替え、再配分場所だけが回転することを確かめます。最後に $I$ の符号を反転し、cohomology classの向きだけが反転することと、tree gaugeで消す勾配自由度との違いを説明してください。

修士演習では、次の三点を数値で説明してください。

1. Hodge重みを変えても $b_1$ と指定周期が変わらない理由。

2. 重みを変えると $\boldsymbol h_{\mathrm{harm}}$ とエネルギーが変わる理由。

3. tree gaugeで消す勾配自由度と、周期 $I$ で指定するcohomology自由度の違い。

ゲージと切断面を混同しない

ベクトルポテンシャルのゲージは、同じ磁束を表す冗長な代表を一つに選ぶ操作です。

\[ \mathcal A' =\mathcal A+d\psi, \qquad d\mathcal A'=d\mathcal A=\mathcal B \]

一方、切断面またはcohomology基底は、局所勾配だけでは欠落する大域循環を追加する操作です。

\[ d\mathcal H=0 \ \not\Rightarrow\ \mathcal H=-d\Phi\ \text{globally}, \qquad [\Phi]_{\Sigma}\ne0 \]

tree-cotreeはゲージ固定に使えますが、非単連結領域ではtreeを選ぶだけでcohomology自由度が自動的に消えるわけではありません。穴を貫く独立循環、境界条件、切断面を別に数える必要があります。

保存則・検算

半径 $\rho_{\gamma}$ を変えたとき、積分経路が電流を一周する限り

\[ \dfrac{d}{d\rho_{\gamma}} \oint_{\gamma(\rho_{\gamma})}\mathcal H=0 \]

です。離散系では、任意の節点ベクトル $\boldsymbol\phi$ に対して

\[ \left\|\boldsymbol C\boldsymbol G\boldsymbol\phi\right\|_2=0 \]

を検査します。さらに、積分経路の向きだけを反転すれば循環の符号が反転し、切断面の向き($+$ 側と $-$ 側)だけを反転すれば $[\Phi]_{\Sigma}$ の符号が反転します。両方を同時に反転したときに $\oint_\gamma\mathcal H=-[\Phi]_{\Sigma}$ の対応が保たれることを確認してください。経路と切断面の向きは独立に管理します。

可視化 G-6-5 トーラス表面のhomologyとcohomology

ここでは「トーラス」という言葉が指す空間を区別します。表面だけのトーラス $T^2=S^1\times S^1$ には、経線と緯線という二つの独立なhomology生成元があります。一方、中身の詰まったsolid torus $S^1\times D^2$ では、経線は内部の円板の境界になるため自明で、穴を通る方向だけが残ります。

\[ H_1(T^2;\mathbb Z)\simeq\mathbb Z\oplus\mathbb Z, \qquad H_1(S^1\times D^2;\mathbb Z)\simeq\mathbb Z \]

次のCanvasはトーラス表面 $T^2$を表示しています。したがって経線と緯線の両方を切り替えられます。実際の3次元FEM領域で必要な基底数は、表示物の見た目ではなく、解析領域そのものの第1 Betti数から決めます。

穴を回る閉1-form $\eta$ は

\[ d\eta=0 \]

を満たしても、全領域で一価な0-form $\phi$ を使って $\eta=d\phi$ と書けるとは限りません。非可縮閉路 $\gamma$ に沿う周期

\[ \oint_\gamma\eta=2\pi c \]

が非零なら、それがcohomology自由度です。トーラス表面の経線・緯線を切り替え、各homology生成元とそれを測るcohomology基底の対応を確認します。

可視化 G-6-6 閉路の巻き数が循環を決める

穴を除いた領域では、局所的に閉じた1-formでも、穴を回る閉路上の循環は0とは限りません。生成元 $\eta$ を

\[ d\eta=0, \qquad \oint_{\gamma_1}\eta=2\pi \]

と規格化すると、巻き数 $n=\operatorname{wind}(\gamma)$ の閉路では

\[ \oint_\gamma\eta=2\pi n \]

です。半径を変えても巻き数が同じなら循環は変わりません。一方、穴を囲まない可縮閉路では $n=0$ です。赤い切断面を横切る回数と累積循環を見比べてください。

可視化 G-6-7 切断面を動かして循環を保つ

穴のある領域で切断面の位置を動かし、物理的な循環が切断位置に依存しないことを見ます。

\[ d\eta=0\quad\text{in }\Omega \]
\[ \oint_\gamma\eta=2\pi\,\operatorname{wind}(\gamma) \]

理解の確認

1. cycleであってboundaryではない閉路を、直線電流を除いた領域で一つ説明してください。

2. homologyとcohomologyは、それぞれ「何」を分類するか説明してください。

3. $\nabla\times\vec H=\vec0$ なのに $\vec H=-\nabla\Phi$ を領域全体で書けないのはなぜですか。

4. トーラス表面とsolid torusで第1 Betti数が異なる理由を説明してください。

5. 切断面を別の位置へ移しても、観測できる磁界が変わらないのはなぜですか。

6. tree gaugeで零にする自由度と、cohomology基底の係数は何が違いますか。

7. 円板型メッシュから穴を1個開けたとき、$N_v,N_e,N_f$、$\chi_h$、内周の外角和はそれぞれどう変わりますか。

8. 閉じた球面型とトーラス型で、$\chi_h$、角度欠損の符号分布、$\sum_v\delta_v$ はどう違いますか。

この回のまとめ

F/G編を貫く総合課題

一つの電磁石を選び、$\mathcal H\xrightarrow{\star_\mu}\mathcal B$ で材料則を入れ、$d\mathcal B=0$ で磁束保存を確認してください。次にWhitney自由度へ移して $\boldsymbol C\boldsymbol G=\boldsymbol0$ と $\boldsymbol D\boldsymbol C=\boldsymbol0$ を確かめ、引き戻しで座標や領域を変え、エネルギー変分から $\boldsymbol T$ と節点力 $\vec f_a$ を求めます。

さらに穴を回るhomology生成元を選び、それを測るcohomology基底または切断面を組み込みます。G-7のcurl側とdiv側の解で磁気抵抗を挟み、G-8で誤差指標を使って適応細分してください。何が接続と位相だけで決まり、何が計量・材料・座標変換・近似空間に依存するかを説明できれば、F/G編の内容が一本につながります。

次のG-7では、位相条件と境界条件を満たす二つの許容場を独立に計算し、その不一致から解の誤差を評価します。

参考資料