3Dで学ぶ電磁気学

F-5 電磁気問題のHodograph

物理空間の各点には、位置を表す「住所」$(x,y)$ と、磁束線・等磁位線を表す「場の名札」$(A,\Phi)$ があります。Hodographは、この名札を新しい座標として使う方法です。曲がった磁極候補はポテンシャル平面で直線になり、その直線を逆にたどると磁極形状が得られます。後半では、磁界の向きと大きさ $(\theta,q)$ を座標にして、励磁と飽和を調べます。

まず30秒でつかむ

Hodographによる磁極設計は、「鉄の形から磁場を求める」計算を逆向きにし、「欲しい磁場から鉄の形を求める」方法です。

最初のイメージ。 曲がった道路に「磁束線番号 $A$」と「等磁位線番号 $\Phi$」の二つの住所を付けると考えます。物理空間で曲がって見える二つの曲線群も、住所だけを座標にした $(A,\Phi)$ 平面では縦線と横線になります。磁極面をその平面で一本の直線として指定し、逆写像で物理空間へ戻すことが、Hodograph磁極設計の中心です。

1

欲しい磁場を決める

良磁界領域で必要な偏向磁場、四極勾配、多極子誤差を複素ポテンシャル $F(z)$ として表します。

2

境界を直線にする

ポテンシャル平面では、高透磁率の理想磁極面が単純な直線 $\Phi=\Phi_p$ になります。

3

直線を磁極へ戻す

直線上の点を $F^{-1}$ で物理空間へ戻すと、双曲線などの磁極輪郭が点列として得られます。

Hodographは、磁場を別の絵に描き直すだけの方法ではありません。ポテンシャルを座標として使い、未知だった磁極面を解の出力へ変えます。 得られるのは理想2次元形状なので、最後は非線形FEMと3次元端部解析で実機形状へ戻します。

この回の到達点

1. 物理空間、ポテンシャル平面、場のHodograph平面で、何を独立変数にしたかを説明できる。

2. 一定透磁率の共形写像と、非線形材料を扱うChaplygin変換を区別できる。

3. 写像のヤコビアン、材料の微分透磁率、未知のHodograph領域が適用限界にどう関係するか判断できる。

4. 固定した物理点の励磁軌跡から、線形な相似拡大と飽和による変形を見分けられる。

5. Legendreポテンシャル $\chi=\vec H\cdot\vec r-\Psi$ の1階微分が物理座標になることと、Green関数による境界積分方程式の役割を説明できる。

6. Hodographで設計した形状を独立な非線形FEMで検証する手順と、その検証が成り立つ条件を説明できる。

7. Möbius写像が一般化円と局所角度を保つ一方、局所尺度は変えることをJacobianから説明できる。

修士課程の電磁気学演習

残差が小さい磁極形状は、本当に使える設計か

電磁気の問い: 逆Hodograph方程式を高精度に満たしても、写像が折り畳まれれば物理空間の磁極形状には戻せない。方程式残差と設計の可逆性を別々に判定できるか。

観察ポイント: 材料指数、境界データ、メッシュ分割を変えたとき、最小二乗残差 $\varepsilon_{\mathrm{LS}}$、最小Jacobian $J_{\min}$、折り畳みセル数が必ず同じ傾向になるかを答える。

操作と観測: 可視化F-5-6で材料指数、分割数、境界データの互換性を変え、未知数・方程式数、残差、座標誤差、$J_{\min}$、fold数を同時に追う。可視化F-5-9では励磁を変え、飽和により物理平面とHodograph像の双方が変わることを確認する。

判定基準と微分幾何による説明

逆写像 $\vec r(\theta,q)$ は重み付きCauchy--Riemann系を満たすだけでなく、$J=\det(\partial\vec r/\partial(\theta,q))$ の符号を保つ必要がある。$\varepsilon_{\mathrm{LS}}\to0$ は方程式への適合を示すが、$J_{\min}\gt0$ を保証しない。

診断: 残差が小さくても $J_{\min}\le0$ なら設計は局所的に非可逆である。励磁を上げてもF-5-9の磁束線・Hodograph像・ギャップ磁束が変わらないなら、非線形材料が場の解へ結合されていない。

研究へ: 理想2D輪郭は初期形状とし、非線形2D FEM、3D端部場、製作公差、磁場測定まで戻して初めて磁極設計を確定する。

最初に三つの座標面を区別する

Hodographという語だけで一括りにすると、何を独立変数にしたのかが分からなくなります。この教材では次の三つを区別します。

物理空間 $(x,y)$

見るもの:実際の位置、磁極、空隙、磁束線。

難しさ:鉄が飽和すると支配方程式が非線形になります。

ポテンシャル平面 $(A,\Phi)$

見るもの:磁束線の番号 $A$ と等磁位線の番号 $\Phi$。

利点:曲がった磁極候補が $\Phi=\Phi_p$ という直線になります。

場のHodograph平面 $(\theta,q)$

見るもの:磁界の向き $\theta$ と大きさ $q=|\vec{H}|$。

利点:$\mu=\mu(q)$ の材料非線形を既知の座標係数へ移せます。

部分Hodograph $(x,A)$ は、一つの物理座標を残してもう一つをポテンシャルへ交換する別の方法です。写像の折り畳みを避けやすい一方、完全なChaplygin線形化とは異なります。F-7のKelvin変換は基底空間を反転する写像であり、これら三つの場・ポテンシャル座標とは別物です。

この回の読み進め方

1. 線形・一定透磁率: 四極磁石で $(x,y)\mapsto(A,\Phi)$ を観察し、曲線座標が直交格子へほどけることを確かめます。

2. 非線形・厳密解: $(x,y)\leftrightarrow(\theta,q)$ の逆写像を式から描き、ヤコビアンが0でないことを確認します。

3. 固定磁極・数値解: 同じ物理点を励磁ごとに追跡し、飽和による場のHodograph像とB-H応答の変形を読みます。

4. 座標を直接答えにする: 逆Hodograph弱形式とLegendreポテンシャル $\chi$ で、磁極形状を解とその1階微分から取り出します。

5. 計算上の効果: 細長い磁束ガイドで、Hodographによる1回積分と2次元非線形FEM反復を数値で比較します。

6. 境界だけの問題へ: Green関数と表現公式で、既知のHodograph領域上の問題を境界積分方程式へ縮約します。

「座標を交換すると何が簡単になるか」と「逆写像や境界条件として何が残るか」を、必ず対にして読んでください。Hodographは非線形性を消滅させる魔法ではなく、材料非線形を既知の座標係数へ移す方法です。

ベクトルポテンシャルとスカラーポテンシャル

$z$ 方向成分だけを持つ磁気ベクトルポテンシャルを $\vec{A}=A(x,y)\vec{e}_z$ とし、電流を含まない一定透磁率の領域を考えます。磁束密度と磁界は

\[ \vec{B}=\nabla\times\left(A\vec{e}_z\right), \qquad \vec{H}=-\nabla\Phi_m, \qquad \vec{B}=\mu\vec{H} \]

で与えられます。

成分を比較すると

\[ \begin{aligned} B_x&=\dfrac{\partial A}{\partial y} =-\mu\dfrac{\partial\Phi_m}{\partial x}, \\ B_y&=-\dfrac{\partial A}{\partial x} =-\mu\dfrac{\partial\Phi_m}{\partial y} \end{aligned} \]

です。一定透磁率の領域に限り、物理的な磁気スカラーポテンシャル $\Phi_m$ から

\[ \Phi\equiv\mu\Phi_m \]

という規格化ポテンシャルを定義すれば、

\[ \dfrac{\partial A}{\partial x} =\dfrac{\partial\Phi}{\partial y}, \qquad \dfrac{\partial A}{\partial y} =-\dfrac{\partial\Phi}{\partial x} \]

となり、$A$ と $\Phi$ はCauchy--Riemann関係を満たす調和共役です。この関係の正体は、微分形式で書くと1行です。

\[ d\Phi=\star\,dA \]

2次元のHodge star($\star dx=dy$、$\star dy=-dx$)は接平面内の90度回転で、$\star\star=-1$ が複素数の $i^2=-1$ と同じ働きをします(F-3)。「調和共役のペア」とは「$\star$ で結ばれた1-formのペア」のことであり、だからこそ複素ポテンシャル

\[ F(z)=A(x,y)+i\Phi(x,y), \qquad z=x+iy \]

を使って、$(x,y)$ 平面を $(A,\Phi)$ 平面へ写せます。

微分形式と向きの補足

上の基本導出では、一つの右手系の内部だけを扱いました。微分形式として厳密に整理すると、$A$ はintrinsicにstraightな1-formである磁気ベクトルポテンシャル $\mathcal A=A(x,y)\,dz$ の成分です。一方、Bossavitのorientation-freeな分類では、磁界 $\widetilde{\mathcal H}$ はtwisted 1-form、磁気スカラーポテンシャル $\widetilde\Phi_m$ はtwisted 0-formです。

このページでは右手系を固定し、同値類の右手系代表をordinaryな $\mathcal H,\Phi_m$ として使います。向きを反転する写像 $g$ で別の右手系領域へ移るときだけ

\[ \begin{aligned} \Phi_m&=s_g\,g^*\Phi'_m,\\ s_g&=\operatorname{sgn}\!\left(\det\boldsymbol Dg\right),\\ \mathcal H&=-d\Phi_m \end{aligned} \]

と変換します。したがってKelvin反転では $s_g=-1$ です。この回のHodograph図は一つの右手系の内部で場とポテンシャルを比較するため、ordinary formの成分式とCauchy--Riemann関係をそのまま使えます。規格化した $\Phi=\mu\Phi_m$ も、領域間の対応時だけ同じ符号表を参照します。

橋渡し可視化 F-5-M1 Möbius写像は角度を保ち、尺度を動かす

複素数を使う等角写像の最小単位がMöbius写像

\[ w=f(z)=\dfrac{az+b}{cz+d}, \qquad ad-bc\ne0 \]

です。直線を無限遠点を通る円とみなすと、Möbius写像は円または直線を、円または直線へ移します。ただし「形を保つ」は「長さまで保つ」という意味ではありません。ここでは単位円板をそれ自身へ移す一係数族

\[ f_a(z)=\dfrac{z-a}{1-az}, \qquad -1\lt a\lt1, \qquad f'_a(z)=\dfrac{1-a^2}{(1-az)^2} \]

を使います。$a$、点 $z_0=re^{i\theta}$、交差角 $\alpha$ を動かし、左の円・放射線格子が右で曲がっても、紫と橙の二つの微小方向の角度が変わらないことを確かめます。複素微分可能な点では微分が一つの複素数による「回転×相似拡大」になるため、実Jacobianは

\[ \boldsymbol Df_a= \begin{pmatrix} \operatorname{Re}f'_a&-\operatorname{Im}f'_a\\ \operatorname{Im}f'_a&\operatorname{Re}f'_a \end{pmatrix}, \qquad \det\boldsymbol Df_a=|f'_a|^2\gt0 \]

となります。したがって局所角度と向きは保ちますが、長さは $|f'_a|$、面積は $|f'_a|^2$ 倍へ変わります。

入力:$z=x+iy$ の単位円板

同心円と原点を通る直線は、どちらも一般化円です。

出力:$w=f_a(z)$ の単位円板

格子の尺度は場所ごとに変わりますが、紫と橙の交差角は同じです。

観察の順序。 まず $\alpha$ を変え、左右の角度残差が数値誤差の範囲に留まることを確認します。次に $a$ と $z_0$ を動かし、$|f'_a(z_0)|$ と面積倍率は大きく変わっても、$\det\boldsymbol Df_a$ が正であることを見ます。単位円周上では $|f_a(e^{it})|=1$ が保たれます。極 $z=1/a$ は $|a|\lt1$ なら単位円板の外にあるため、表示領域内で分母は0になりません。

Hodograph磁極設計とどうつながるのか

一定透磁率・電流なしの2次元領域では、調和な複素ポテンシャルを等角写像で別領域へ移せます。角度が保たれるので、磁束線と等磁位線の直交も保たれます。一方、非線形材料では局所尺度が磁界強度と材料係数へ入り、Möbius写像だけでChaplygin方程式の材料非線形が消えるわけではありません。

Kelvin反転と同じなのか

同じ「反転」という語が出ても向きが違います。2次元の正則写像 $1/z$ は $\det Df=|f'|^2\gt0$ で向きを保ちます。半径反転 $z/|z|^2=1/\bar z$ は反正則で向きを反転し、3次元Kelvin反転もJacobian符号が負です。F-7では後者の向きとtwisted formの符号を扱います。

FEMではどこに現れるのか

曲がった物理要素と参照要素の間にもJacobianがありますが、Möbius写像を全要素へ強制するわけではありません。ここでの等角写像は解析解、形状設計、座標品質の基準です。一般のFEM写像では角度保存を仮定せず、$Dg$、$\det Dg$、Piola変換、求積を要素ごとに評価します。

この節は Tristan Needham, *Visual Differential Geometry and Forms* (Princeton University Press, 2021), Act II の複素写像の見方を参考に、単位円板自己同型と電磁気への橋を独自に再構成したものです。

可視化 F-5-1 四極磁石を表す写像

四極磁場の最も簡単な複素ポテンシャルとして、規格化した $C_2=1$ を用いて

\[ F(z)=C_2z^2=z^2 \]

とします。実部と虚部を比較すると

\[ A=x^2-y^2, \qquad \Phi=2xy \]

です。$A=\mathrm{const.}$ は磁束線、$\Phi=\mathrm{const.}$ は磁気スカラーポテンシャルの等値線であり、

\[ \nabla A\cdot\nabla\Phi=0, \qquad \vec{B}=(-2y,-2x) \]

となるため、2つの曲線群は直交し、$\vec{B}$ は $A$ の等値線に接します。

$(x,y)$ 平面から $(A,\Phi)$ 平面への写像

(x,y)=(0.82,0.48), (A,Φ)=(0.44,0.79)
点 $P_0=(0.82,0.48)$ から青い線上だけを動くとき、ポテンシャル平面での移動方向を図を動かして確かめてください。

物理空間 $(x,y)$

$A=\mathrm{const.}$ の磁束線と $\Phi=\mathrm{const.}$ の等磁位線。青線上の移動が右図で縦になるか、すぐ動かして確かめる

ポテンシャル平面 $(A,\Phi)$

横軸 $A$、縦軸 $\Phi$。物理平面の青線が縦、橙線が横へほどけるか、すぐ動かして確かめる

左では青が $A$ の等値線、橙が $\Phi$ の等値線、緑の矢印が磁束密度 $\vec{B}$ です。右では同じ曲線群が縦線と横線になります。操作後は教材が $P$ を選んだ等値線上へ拘束するため、独立な $x,y$ 操作で線から外れることなく、青線なら $\Delta A=0$、橙線なら $\Delta\Phi=0$ を比較できます。$F(z)=z^2$ では $z$ と $-z$ が同じ $(A,\Phi)$ に写るため、左には対応する2点も表示します。

動かして確かめる順序。 まず青い磁束線上の移動を確認し、操作後に紫の $P_0\to P$ と $F(P_0)\to F(P)$ を対応させます。次に経路を橙の等磁位線へ替え、今度は右図が横移動になることを $\Delta\Phi=0$ で確認します。自由移動へ切り替えたときだけ $x,y$ を独立に操作し、$z$ と $-z$ が同じ写像先を持つことから、逆写像では領域を選ぶ必要がある理由を説明してください。最後に次の可視化で $\Phi_p$ を固定して $A_p$ を動かし、右図の直線上の点が左図で磁極輪郭をたどることを確かめます。

可視化 F-5-2 直線の一歩が磁極面の一歩に変わる

$A=x^2-y^2$、$\Phi=2xy$、$r^4=A^2+\Phi^2$ を使い、変わる量と保存される量を分けて図を動かして確かめてください。

入力:ポテンシャル平面 $(A,\Phi)$

灰点 $Q_0=(0,\Phi_p)$ を固定し、操作後に紫点 $Q=(A_p,\Phi_p)$ と比較する

出力:物理空間 $(x,y)$

破線円は磁極先端の最小半径 $r_0=\sqrt{\Phi_p}$。操作後に $P_0$ と $P$、$-P_0$ と $-P$ を同じ尺度で比較する

左では、$\Phi_p$ を固定したまま $A_p$ を変えるので、点 $Q=(A_p,\Phi_p)$ は一本の直線上を動きます。右では、同じ点を $F^{-1}$ で戻した $P=(x,y)$ が双曲線磁極をたどります。初期状態では $A_p=0$ の磁極先端 $P_0$ と最小半径円だけを示し、操作後に直線、双曲線、現在点、反対枝を開きます。$A_p$ は磁極面に沿う位置、$\Phi_p$ は磁極面そのものを選ぶ値です。

\[ \begin{aligned} A_p+i\Phi_p&=(x+iy)^2,\\ x(A_p)&=\sqrt{\dfrac{\sqrt{A_p^2+\Phi_p^2}+A_p}{2}},\\ y(A_p)&=\sqrt{\dfrac{\sqrt{A_p^2+\Phi_p^2}-A_p}{2}},\\ P_+&=(x,y),\qquad P_-=-P_+,\qquad F(P_+)=F(P_-)=Q,\\ 2xy&=\Phi_p,\qquad r^4=A_p^2+\Phi_p^2,\qquad r\ge r_0=\sqrt{|\Phi_p|} \end{aligned} \]

$A_p$ を端から端まで動かすことは、ポテンシャル平面の直線を点で走査し、その逆像を物理空間へ一つずつ打つことに対応します。この点列を結んだ曲線が理想磁極面です。破線円は磁極面ではなく、$A_p=0$ で双曲線が接する最小半径の比較基準です。

動かして確かめる順序。 まず $A_p:0\to1.20$ で $x,y,2xy,r$ がどう変わるかを確かめます。操作後は左の灰点 $Q_0$ から紫点 $Q$ への水平移動と、右の灰点 $P_0$ から紫点 $P$ への曲線移動を対応させてください。紫の座標投影で $x$ の増加と $y$ の減少を読み、出力の $2xy=0.65$ が保存される一方、$r>r_0$ となることを確認します。最後に $A_p<0$ へ動かして $x,y$ の役割が交換されること、$\Phi_p$ を変えて磁極先端半径そのものが動くこと、$P$ と $-P$ が同じ $Q$ へ写るため逆写像には枝の選択が必要なことを説明してください。

多極子の族 $F(z)=C_nz^n$

$z^2$ を $z^n$ に置き換えるだけで、加速器磁石の系譜が一望できます。以下では位相による全体回転を除き、$C_n>0$ とします。磁束密度は複素微分で

\[ B_y+iB_x=-\dfrac{dF}{dz}=-nC_nz^{n-1} \]

と書け、$|\vec{B}|\propto r^{n-1}$ です。$n=1$ は一様磁場(偏向磁石)、$n=2$ は磁場が中心からの距離に比例する四極磁石(収束レンズ)、$n=3$ は六極磁石(色収差補正)——それぞれ $2n$ 極磁石と呼ばれます。等値線の形は $A=C_nr^n\cos n\phi$、$\Phi=C_nr^n\sin n\phi$ です。無限透磁率を仮定した理想的な2次元磁極境界では接線方向の磁界がほぼ0になるため、等 $\Phi$ 線を磁極面の候補として使えます。四極磁石では、その候補が双曲線 $2xy=\mathrm{const.}$ になります。

選んだ2本の磁極面 $\Phi=\pm\Phi_p$ が原点へ最も近づく点では $|\sin n\phi|=1$ です。したがって、磁極先端の角度、隣接間隔、半径は

\[ \phi_j=\frac{(2j+1)\pi}{2n},\quad \sin(n\phi_j)=(-1)^j,\quad \Delta\phi=\frac{\pi}{n},\quad r_0=\left(\frac{|\Phi_p|}{C_n}\right)^{1/n} \qquad (j=0,\ldots,2n-1) \]

となります。$j$ が $0$ から $2n-1$ まであるため先端は $2n$ 個で、$+\Phi_p$ と $-\Phi_p$ が交互に並びます。次の図では $C_n=1$ に規格化し、この数え方を図を動かして確かめます。

可視化 F-5-3 多極子の次数から磁極数を確かめる

n=2: 四極磁石、4極、間隔90°、|B|∝r、r0=0.806
式の $j$ の個数、$\Delta\phi=\pi/n$、$r_0=0.65^{1/n}$ を順に使って図を動かして確かめてください。
塗りつぶしは $+\Phi_p$、白抜きは $-\Phi_p$ の磁極先端。操作後は四極基準を灰色で固定し、六極の先端数・角度・半径を同じ尺度で重ねて比べる。

動かして確かめる順序。 まず $n=2\to3$ で先端数、隣接角、$r_0$ の増減を確かめます。操作後は灰色の四極基準を残したまま、橙の六極先端を数え、紫の角度弧を比較してください。次に $n=1,4$ へ動かして「先端数 $2n$」「間隔 $180^\circ/n$」「磁場の半径指数 $n-1$」が同時に変わることを説明します。最後に $|\Phi_p|=1$ とすれば、どの $n$ でも $r_0=1$ になることを確かめてください。

太い橙線が選択した $\Phi=\pm\Phi_p$、破線円がその輪郭へ内接する磁極先端半径です。$|\Phi_p|$ を動かすと、欲しい場の種類を保ったまま口径と磁極面候補が連動します。これは理想的な2次元・無限透磁率近似で得る第一形状です。有限透磁率、飽和、磁極幅、コイル、端部効果を含む実機では、後述の数値解析による戻し検証が必要です。

Hodograph変換による磁極形状設計とは

磁極形状設計の核心は、鉄の形を与えて磁場を求める順解析を逆向きにすることです。まず良磁界領域で実現したい磁場を指定し、その磁場を作る鉄と空気の境界を出力します。

区分与えるもの求めるもの
順解析磁極、継鉄、コイル、材料のB--H曲線空隙磁場、飽和分布、高調波
逆設計良磁界領域、目標多極子、口径、許容高調波理想磁極面と、その後に修正すべき実機形状

古典的な加速器磁石の設計で使うのは、厳密には場のHodograph平面 $(q,\theta)$ ではなく、ポテンシャル写像 $(x,y)\leftrightarrow(A,\Phi)$ です。しかし、位置を独立変数とする代わりにポテンシャルを座標にし、最後に $(x,y)$ を逆算する点は共通しています。この節では、この広い意味での逆Hodograph設計と、非線形材料を扱うChaplygin変換を分けて説明します。

なぜ等磁位線が磁極面になるのか

表面電流がない鉄と空気の境界では、磁界の接線成分が連続です。鉄の透磁率を十分大きいと近似すると、有限な磁束密度に対する鉄中の磁界は小さくなるため、空気側でも

\[ H_t^{\mathrm{air}} =H_t^{\mathrm{iron}} \simeq\dfrac{B_t^{\mathrm{iron}}}{\mu_{\mathrm{iron}}} \longrightarrow0 \]

となります。磁極面に沿う弧長を $s$ とすれば

\[ H_t=-\dfrac{d\Phi_m}{ds}\simeq0 \qquad\Longrightarrow\qquad \Phi_m=\mathrm{const.} \]

です。したがって、一定透磁率の空隙で使う規格化ポテンシャル $\Phi=\mu_0\Phi_m$ の等値線を、理想磁極面として選べます。ポテンシャル平面では、この境界は単なる水平線 $\Phi=\Phi_p$ です。複素ポテンシャル $F(z)=A+i\Phi$ を逆にたどると、物理平面の磁極輪郭は

\[ \boxed{ z_p(A)=F^{-1}\!\left(A+i\Phi_p\right) } \]

となります。ここで $A$ は磁極面に沿って動かす媒介変数です。つまり、ポテンシャル平面の直線を逆写像すると、物理平面の曲がった磁極面になることが、形状設計としてのHodograph変換です。

四極磁石では双曲線が出力される

目標を勾配 $G$ の理想四極磁場とし、向きと極性を $C_2=G/2>0$ で固定します。このとき

\[ F(z)=C_2z^2, \qquad \Phi=2C_2xy=Gxy \]

です。磁極先端までの半径を $r_0$ とすると、先端は $x=y=r_0/\sqrt{2}$ にあるので

\[ \Phi_p=\dfrac{G r_0^2}{2}, \qquad 2xy=r_0^2 \]

が理想磁極面です。逆写像を陽に書けば

\[ z_p(A) =\sqrt{\dfrac{A+i\Phi_p}{C_2}} \]

となり、平方根の枝を選ぶことで四つの磁極を得ます。可視化F-5-3で $n=2$ を選び、$|\Phi_p|$ を動かすと、太い橙線の双曲線と内接円 $r_0$ が同時に変わります。これは「場を解いて双曲線を発見した」のではなく、目標四極場と口径から双曲線を逆算した結果です。

一般の多極子 $F(z)=C_nz^n$ でも、選んだ磁極電位と先端半径は

\[ |\Phi_p|=|C_n|r_0^n, \qquad r_0=\left(\dfrac{|\Phi_p|}{|C_n|}\right)^{1/n} \]

で結ばれます。複数の $C_n$ を重ねれば、偏向成分と四極成分を併せ持つ複合機能磁石も同じ原理で扱えます。ただし、逆関数を閉じた式で書けない場合は、$A$ を少しずつ動かしながら $F(z)=A+i\Phi_p$ を数値的に解いて輪郭点を並べます。

理想磁極を実機へ戻す六段階

1. 良磁界半径 $r_{\mathrm g}$、口径 $r_0$、目標勾配または多極子係数 $C_n$、許容高調波を決める。

2. 良磁界領域の目標場から複素ポテンシャル $F(z)=\sum_n C_nz^n$ を作る。

3. 口径条件から磁極電位 $\Phi_p$ を決め、$z_p(A)=F^{-1}(A+i\Phi_p)$ で理想2次元輪郭を生成する。

4. 無限に伸びる理想輪郭を有限幅で切り、磁極端、シム、継鉄、コイル窓を構成する。

5. 実測B--H曲線を入れた2次元非線形FEMで、磁極端飽和と不要な多極子を評価し、輪郭を修正する。

6. 3次元解析と磁場測定で端部積分磁場を確認し、端部面取り、補正巻線、最終シムを決める。

理想形状を得た後の評価量は、良磁界領域で抽出した多極子係数です。

\[ B_y+iB_x =-\dfrac{dF}{dz} =-\sum_{m=1}^{\infty}mC_mz^{m-1} \]

設計対象の $C_n$ を保ちながら、切断、飽和、端部が生む不要な $C_{m\ne n}$ を小さくします。したがって、Hodograph変換が直接与えるのは完成品ではなく、物理的根拠を持つ第一形状です。

非線形Hodograph設計では材料則も座標へ入る

上の共形写像は、電流を含まず透磁率が一定な空隙の設計法です。鉄内部の飽和まで場の座標へ移す場合は、次節のChaplygin変換を使います。$A(q,\theta)$ と $\Psi(q,\theta)$ を求めた後、先の一階系を逆に解くと

\[ \begin{aligned} dx &=\dfrac{\cos\theta}{q}\,d\Psi -\dfrac{\sin\theta}{\mu(q)q}\,dA,\\ dy &=\dfrac{\sin\theta}{q}\,d\Psi +\dfrac{\cos\theta}{\mu(q)q}\,dA \end{aligned} \]

となり、材料則 $\mu(q)$ を含んだまま物理座標を復元できます。$\Psi=\Psi_p$ を鉄表面候補として選べば、輪郭も解の出力になります。ただし、写像のJacobianが0になると輪郭が折り畳まれます。また、固定済みの磁極を順解析する場合は、その磁極が $(q,\theta)$ 平面で作る境界自体が未知です。

したがって、この教材の可視化F-5-4は「場から座標を戻す」逆設計の原理を、可視化F-5-9は「固定した磁極を非線形FEMで戻し検証する」工程を担当します。両者をつなぐ実用ループは、Hodographで第一形状を出す、FEMで飽和と高調波を測る、輪郭を更新するという反復です。この二つを混同しないことが重要です。

場のHodographで線形化する:Chaplygin変換

鉄が飽和すると、透磁率は磁界の大きさに依存します。ここでは符号を簡潔にするため $\Psi=-\Phi_m$ と置き、電流のない2次元領域で

\[ \begin{aligned} \vec{H}&=\nabla\Psi =q(\cos\theta,\sin\theta), \\ q&=|\vec{H}|, \\ \vec{B}&=\mu(q)\vec{H} \end{aligned} \]

とします。$\vec{B}=(\partial A/\partial y,-\partial A/\partial x)$ を使うと、二つのポテンシャルの微分は

\[ \begin{aligned} d\Psi&=q\cos\theta\,dx+q\sin\theta\,dy, \\ dA&=-\mu q\sin\theta\,dx+\mu q\cos\theta\,dy \end{aligned} \]

です。$J_h=\partial(q,\theta)/\partial(x,y)\ne0$ の領域で独立変数を $(x,y)$ から $(q,\theta)$ へ交換すると、次の線形な一階系が得られます。

\[ \dfrac{\partial\Psi}{\partial q} =-\dfrac{q(\mu q)'}{(\mu q)^2} \dfrac{\partial A}{\partial\theta}, \qquad \dfrac{\partial A}{\partial q} =\dfrac{\mu}{q} \dfrac{\partial\Psi}{\partial\theta} \]

$\Psi$ を消去すれば、$A(q,\theta)$ に対する自己随伴形のChaplygin方程式になります。

\[ \dfrac{\partial}{\partial q} \left(\dfrac{q}{\mu(q)}\dfrac{\partial A}{\partial q}\right) +\dfrac{(\mu(q)q)'}{\mu(q)^2q} \dfrac{\partial^2A}{\partial\theta^2}=0 \]

物理空間では $q=|\nabla\Psi|$ が未知量なので非線形ですが、Hodograph平面では $q$ は座標です。そのため $\mu(q)$ は既知の可変係数となります。通常の受動的な飽和材では

\[ \mu(q)>0, \qquad \dfrac{d\{\mu(q)q\}}{dq}>0 \]

が成り立ち、方程式は楕円型を保ちます。ただし、線形化された方程式を得ても、固定された実磁極が $(\theta,q)$ 平面で作る領域は一般に未知です。したがって「任意の固定磁極が1回の線形計算で解ける」という意味ではありません。

厳密解のある非線形モデル

無次元化した材料則として

\[ \mu(q)=q^k, \qquad -1\lt k\le0 \]

を考えます。$k<0$ では $q$ の増加とともに透磁率が低下し、$|\vec{B}|=\mu q=q^{k+1}$ は単調増加するため、飽和の特徴を持つ数学的モデルです。実際の鉄の低磁界特性をそのまま表す材料式ではなく、Chaplygin変換を厳密に検証するためのベンチマークです。このとき

\[ \begin{aligned} A(q,\theta)&=q^{k+1}\sin\theta, \\ \Psi(q,\theta)&=-(k+1)q\cos\theta \end{aligned} \]

は一階系とChaplygin方程式を厳密に満たします。逆写像も閉じた式で書けます。

\[ \begin{aligned} x(q,\theta) &=-(k+1)\ln q+\dfrac{k}{2}\sin^2\theta, \\ y(q,\theta) &=\left(1+\dfrac{k}{2}\right)\theta -\dfrac{k}{4}\sin2\theta \end{aligned} \]

写像のヤコビアンは

\[ \dfrac{\partial(x,y)}{\partial(q,\theta)} =-\dfrac{(k+1)(1+k\sin^2\theta)}{q} \]

であり、$q>0$、$-1<k\le0$ では0になりません。したがって、ここで表示する範囲では局所的に可逆です。

可視化 F-5-4 非線形Hodographの厳密解

左の領域と右の色は、どちらも $k=0$ の尺度に固定して比べます。

観察手順: まず写像面積と $\min|J|$ の変化を確認し、操作後に左の領域縮小と右の固定色尺度を比べ、$J$ の符号が変わるかを数式で説明してください。

厳密な逆写像 $(q,\theta)\mapsto(x,y)$

灰色破線は $k=0$ の写像領域、淡い水色は現在の $k$ の領域です。青は磁束線 $A=\mathrm{const.}$、橙は磁極面候補 $\Psi=\mathrm{const.}$ です。

場のHodograph平面 $(\theta,q)$

背景色は全状態で共通の $0\le|J|\le2.50$ 尺度です。赤点は表示領域の $min|J|$ で、0へ近づくほど写像が縮みます。

$k=0$ では $x=-\ln q$、$y=\theta$ となり、格子は曲がりません。$k$ を負にすると透磁率低下が逆写像の歪みと面積圧縮として現れます。表示範囲 $D=[q_{\min},q_{\max}]\times[-\theta_{max},\theta_{max}]$ の写像面積は、$J<0$ を用いると

\[ S(k)=\iint_D |J|\,dq\,d\theta =(k+1)\ln\dfrac{q_{\max}}{q_{\min}} \left[2\theta_{\max}+k\left(\theta_{\max}-\dfrac{\sin2\theta_{\max}}{2}\right)\right] \]

です。$q_{\min}=0.4$、$q_{\max}=2.5$、$\theta_{\max}=1.2$ では、$k:0\to-0.85$ により $S/S_0=0.1042$、$\min|J|:0.4000\to0.0157$ となります。ただし $-1<k\le0$ では $k+1>0$ かつ $1+k\sin^2\theta>0$ なので $J$ は負のままです。すなわち強く圧縮・歪曲しても、この厳密解の表示範囲では折り畳みません。右図の固定色尺度と読み出しは、この「0へ接近するが符号反転しない」を示します。これは数値的な雰囲気図ではなく、上の厳密式を直接描画しています。

解析解は一つではない:解族として整理する

上の解は孤立した技巧ではありません。べき乗材料則では、物理空間の磁気スカラーポテンシャル方程式が平面の $p$-Laplace方程式になります。

\[ \begin{aligned} \mu(q)&=q^k, & p&=k+2,\\ \nabla\cdot\left(|\nabla\Psi|^{p-2}\nabla\Psi\right)&=0, &q&=|\nabla\Psi| \end{aligned} \]

同じ問題を場のHodograph平面で書けば、Chaplygin方程式はEuler型の線形方程式へ簡約されます。

\[ q^2A_{qq}+(1-k)qA_q+(k+1)A_{\theta\theta}=0 \]

$\tau=\ln q$ と置くと

\[ A_{\tau\tau}-kA_{\tau}+(k+1)A_{\theta\theta}=0 \]

です。さらに $A=e^{k\tau/2}U$ と置けば

\[ U_{\tau\tau}+(k+1)U_{\theta\theta} -\dfrac{k^2}{4}U=0 \]

となり、円筒 $(\tau,\theta)$ 上の修正Helmholtz方程式として読めます。この形から、任意の整数 $n\ge1$、位相 $\delta$ に対して二つの分離枝

\[ \begin{aligned} A_{n,\pm}(q,\theta) &=q^{m_{n,\pm}}\sin(n\theta+\delta),\\ \Psi_{n,\pm}(q,\theta) &=-\dfrac{m_{n,\pm}}{n} q^{m_{n,\pm}-k}\cos(n\theta+\delta),\\ m_{n,\pm} &=\dfrac{k\pm\sqrt{k^2+4(k+1)n^2}}{2} \end{aligned} \]

が得られます。$m_{n,+}$ と $m_{n,-}$ は $q=0$ 側での振る舞いが異なる独立な解で、

\[ m_{n,\pm}(m_{n,\pm}-k)=(k+1)n^2 \]

を満たします。Hodograph方程式と一階の共役系は線形なので、異なる $n$ の有限和や収束するFourier級数も厳密解です。ただし、Hodograph平面で解が正確であることと、逆写像が物理平面全体で一対一であることは別問題です。重ね合わせによって $J=0$ が生じれば、逆写像はその点で局所可逆性を失い、枝分かれや大域的な重なりを別途調べる必要があります。

$z=x+iy$、$\alpha=m-k-1$ とすると、$\alpha\ne0$ の各単一モードには物理平面への閉じた逆写像があります。

\[ \begin{aligned} z(q,\theta) &=\dfrac{m q^{\alpha}}{2n\alpha} \Bigl[ (n-m+k)e^{i\{(n+1)\theta+\delta\}}\\ &\qquad -(n+m-k)e^{i\{(1-n)\theta-\delta\}} \Bigr],\\ J &=-m\left[m-k\cos^2(n\theta+\delta)\right] q^{2m-2k-3} \end{aligned} \]

$n=1$ の $m_{1,+}=k+1$ は $\alpha=0$ となる共鳴枝で、極限を取ると $\ln q$ を含む上の可視化F-5-4の写像になります。この一般式、共鳴極限、一階系、ヤコビアンは、公開ビルドのたびにMathematicaで恒等式検算します。

さらに、同じ一階系を満たす任意の重ね合わせでは

\[ J=-q^{-2k-3}\left\{q^2A_q^2+(k+1)A_\theta^2\right\}\le0 \qquad(-1\lt k\le0) \]

です。したがって臨界点は $A_q=A_\theta=0$ で生じますが、$J>0$ への符号反転は起きません。「$J=0$」と「$J$ の符号反転」を同じ意味にしないことが、この解族を正しく読む要点です。

可視化 F-5-5 Fourier解析解族と逆写像の臨界点

方程式残差、$J$ の符号、$J=0$ の三つを分けて図を動かして確かめてください。

観察手順: すぐ図を動かし、操作後に赤い臨界点を両平面で対応させます。灰色破線の $\lambda=0$ 外周と固定した $|J|$ 色尺度を使い、形の変化を自動拡大で隠しません。

厳密解を戻した物理平面 $(x,y)$

青は $A=\mathrm{const.}$、橙は $\Psi=\mathrm{const.}$、灰色破線は $\lambda=0$ の外周です。赤点はHodograph平面の $J=0$ と同じ物理点です。

場のHodograph平面 $(\theta,q)$

背景は $\lambda=0$ と共通の $|J|$ 尺度で、明るいほど0に近づきます。赤点では $J=0$ ですが、恒等式により周囲を含めて $J\le0$ です。

$n$、枝、相対位相を変えると、同じ材料則から別の厳密な磁束・等磁位網が現れます。$\lambda=0$ では単一モードのヤコビアンは $-1\mathrel{<}k\le0$、$q\mathrel{>}0$ で0になりません。$\lambda\mathrel{>}0$ では二つの厳密解を足しているためChaplygin方程式の残差は依然0ですが、$A_q=A_\theta=0$ の点では $J=0$ となります。既定比較では $(q,\theta)\simeq(1.597,2.451)$ に臨界点が現れる一方、$J\mathrel{>}0$ の領域は現れません。動く教材では、「方程式を解く」「局所可逆である」「大域的に一対一である」という三段階を区別します。

どこまでを解析解と呼べるか

| 解族 | 成立する材料・領域 | 解の形 | 教材での位置づけ |

|---|---|---|---|

| 複素ポテンシャル | 一定透磁率、2次元 | 任意の正則関数 $F(z)=A+i\Phi$ | 多極子、Schwarz--Christoffel写像、磁極面の逆設計 |

| 定透磁率の場Hodograph | $k=0$ | $A(\tau,\theta)$ は任意の調和関数、$\tau=\ln q$ | $q^{\pm n}\sin(n\theta+\delta)$ とFourier/Laurent級数 |

| べき乗材料の場Hodograph | $\mu=q^k$ | 上の $m_{n,\pm}$ の無限族とその重ね合わせ | 非線形材で式・逆写像・ヤコビアンを同時に検算できる主教材 |

| 零モード・位相モード | 穴を除く領域 | $A=C_0+C_1q^k$、$A=C_0+C_1\theta$。$k=0$ では $q^k$ の独立解が $\ln q$ になる | 放射状磁束、穴を回る循環、切断面とcohomologyへの橋渡し |

| von Misesの円環曲げ | 一定透磁率、固定した $(\Phi,A)$ 長方形 | $x+iy=e^{i(\Phi+iA)}$ | 長方形のポテンシャル領域が円環状の物理領域へ写る閉形式例 |

| Krol--Aronsson型 | 平面の $p$-Laplace方程式 | $\Psi=r^{-\beta}\omega(\varphi)$。角度関数は分離可能な一階方程式の求積で決まる | 閉じた初等関数とは限らないが、物理平面で得られる厳密な準放射解 |

| 一般の単調な $\mu(q)$ | $\mu\mathrel{>}0$、$(\mu q)'\mathrel{>}0$ | $A=R_n(q)\sin(n\theta+\delta)$ として線形Sturm--Liouville ODE | 特殊な材料則なら特殊関数、測定B-H曲線なら高精度1次元数値解 |

物理平面で式のまま使える三つの基礎解

Hodographを介さなくても、回帰検証に使える解があります。まず一様場

\[ \Psi_{\mathrm{uni}}(x,y)=a x+b y+c \]

は $q=\sqrt{a^2+b^2}$ が一定なので、位置だけに依存しない任意の材料則 $\mu(q)$ で厳密解です。べき乗材料 $\mu=q^k$ では、原点を除く $r>0$ における2次元基本解を

\[ \Psi_{\mathrm{rad}}(r)= \begin{cases} \dfrac{k+1}{k}\left(r^{k/(k+1)}-1\right),&k\ne0,\\[6pt] \ln r,&k=0 \end{cases} \]

と書けます。$k\ne0$ の枝では

\[ q=\left|\dfrac{d\Psi_{\mathrm{rad}}}{dr}\right| =r^{-1/(k+1)}, \qquad \dfrac{1}{r}\dfrac{d}{dr} \left(rq^k\dfrac{d\Psi_{\mathrm{rad}}}{dr}\right)=0 \]

となり、$k\to0$ で定数差を除いて $\ln r$ へ連続につながります。さらに、切断線を入れた穴あき領域では

\[ \Psi_{\mathrm{circ}}(r,\varphi)=C\varphi, \qquad q=\dfrac{|C|}{r}, \qquad \nabla\cdot\left(q^k\nabla\Psi_{\mathrm{circ}}\right)=0 \]

も厳密解です。ただし $\varphi$ は穴を一周すると $2\pi$ だけ変わる多価ポテンシャルなので、単連結領域の一価解と混同しません。この一様場、放射解、循環解は、Fourier枝やFEM解を検査する独立の基準になります。

一般材料の分離方程式は

\[ \dfrac{d}{dq} \left(\dfrac{q}{\mu(q)}\dfrac{dR_n}{dq}\right) -n^2\dfrac{\{\mu(q)q\}'}{\mu(q)^2q}R_n=0 \]

です。したがって「解析解がない」のではなく、2次元非線形PDEが、材料則ごとの線形1次元ODEへ落ちるところまでが一般に使えます。実測B-H曲線ではこのODEを数値積分し、物理空間の2次元非線形FEMと独立に照合できます。

物理平面で直接分離するKrol--Aronsson型では

\[ \Psi(r,\varphi)=r^{-\beta}\omega(\varphi) \]

と置き、$S=\beta^2\omega^2+\omega_{\varphi}^2$ とすれば角度関数は

\[ -\dfrac{d}{d\varphi} \left(S^{p/2-1}\omega_{\varphi}\right) =\beta\{\beta(p-1)+p-2\}S^{p/2-1}\omega \]

を満たします。$\omega_{\varphi}/\omega$ を新しい未知量にすると分離可能な一階方程式になり、正・負の相似指数を持つ解族が得られます。これは初等関数だけを「解析解」と呼ぶより広い、求積で定まる厳密解です。一方、任意形状・実測材料・電流源を同時に指定した問題は通常この族へは入らず、下の固定磁極FEMが必要です。

この整理は、平面 $p$-調和関数をHodographとFourier表示で調べた Iwaniec--Manfredi、準放射解を構成した Aronsson、流れ関数との共役を扱った Aronsson--Lindqvist90022-8)、円錐内の分離 $p$-調和関数を整理した Porretta--Véron に基づきます。磁気問題への対応では $p=k+2$ と読み替え、実材料そのものではなく検証用材料モデルであることを明示します。

固定磁極では数値解と比較する

実際の磁極では、磁極形状と空隙を先に固定します。この場合、Hodograph平面上の境界が未知になるため、厳密解のような単純な矩形領域にはなりません。次の例では、上下の鉄磁極と空隙を固定し、左右のコイル断面へ反対向きの電流密度 $J_z$ を与えます。2次元ベクトルポテンシャル $A=A_z$ に対して

\[ \begin{aligned} \vec{B} &=\nabla\times(A\vec{e}_z) \\ &=\dfrac{\partial A}{\partial y}\vec{e}_x -\dfrac{\partial A}{\partial x}\vec{e}_y, \\ -\nabla\cdot\left(\nu(|\vec{B}|)\nabla A\right)&=J_z \end{aligned} \]

を解きます。外周では $A=0$ とし、磁束そのものを境界から強制しません。そのため、鉄の微分透磁率が低下すれば、同じ電流増分に対するギャップ磁束の増分も低下します。鉄には規格化した単調な飽和則

\[ \begin{aligned} |\vec{B}|&=q\,\mu_{\mathrm{s}}(q), \\ \mu_{\mathrm{s}}(q)&=1+\dfrac{M_s}{H_s+q}, \\ \dfrac{d|\vec{B}|}{dq} &=1+\dfrac{M_sH_s}{(H_s+q)^2}>0 \end{aligned} \]

を使って、有限要素法による非線形反復解を事前計算しています。この材料則では、原点と現在点を結ぶ傾きである割線透磁率と、現在点での接線の傾きである微分透磁率を分けて読めます。

\[ \begin{aligned} \mu_{\mathrm{s}}(q)=\dfrac{|\vec{B}|}{q} &=1+\dfrac{M_s}{H_s+q}, \\ \mu_{\mathrm{d}}(q)=\dfrac{d|\vec{B}|}{dq} &=1+\dfrac{M_sH_s}{(H_s+q)^2} \end{aligned} \]

$\mu_{\mathrm{s}}$ はその点の $|\vec{B}|$ と $|\vec{H}|$ の比、$\mu_{\mathrm{d}}$ は小さな増分に対する応答です。飽和が進むと両方が低下しますが、$\mu_{\mathrm{d}}>0$ である限り局所的な材料応答は単調で、Chaplygin方程式の楕円性を保つ条件 $(\mu q)'>0$ と一致します。

例の幾何は、上下対称の2極磁石です。中央には平行な極面で挟まれたギャップを置き、ギャップ高さを $2g=0.056$、平らな極面幅を $2a=0.090$ とします。そこから外側へ行くと磁極は台形に広がります。左右の緑枠は紙面に垂直なコイル電流 $I$ の向きを表します。励磁を強くすると磁極先端から透磁率が低下し、磁束は飽和領域を避けて外側へ広がります。

Chaplygin方程式の強形式とG-2への橋

可視化へ進む前に、研究で実装する方程式を陽に書きます。電流のない領域を場のHodograph平面へ写した領域を $\Omega_h\subset\{(q,\theta)\mid q>0\}$ とし、

\[ a(q)=\dfrac{q}{\mu(q)}, \qquad b(q)=\dfrac{\{\mu(q)q\}'}{\mu(q)^2q} \]

と置きます。$A_q=\partial A/\partial q$、$A_\theta=\partial A/\partial\theta$ と書けば、Chaplygin方程式の強形式は

\[ \begin{aligned} \mathcal L_h A &=\dfrac{\partial}{\partial q}\!\left(a(q)A_q\right)\\ &\quad+\dfrac{\partial}{\partial\theta}\!\left(b(q)A_\theta\right)=0,\\ &(q,\theta)\in\Omega_h \end{aligned} \]

です。境界条件、試験空間、部分積分を導入した時点から先は有限要素法の担当です。この強形式から得る対称なChaplygin弱形式は、G-2のHodograph弱形式でtrial/test、境界項、正値性とともに組み立てます。F-5では、材料則が既知の正係数 $a(q),b(q)$ へ移り、連続な非線形場の問題がHodograph平面上の線形楕円方程式になるところまでを正典とします。

座標を直接答えにする逆Hodographの連続一階系

上ではHodograph平面上のポテンシャル $A(q,\theta)$ を解き、その後に物理座標を復元しました。もう一つの定式化では、物理平面への逆写像

\[ \vec r:\Omega_h\longrightarrow\mathbb R^2, \qquad \vec r(q,\theta) = \begin{pmatrix} x(q,\theta)\\y(q,\theta) \end{pmatrix} \]

そのものを未知量にします。微分幾何の言葉では、$\vec r$ はHodograph多様体上の $\mathbb R^2$ 値0-formであり、

\[ d\vec r =\vec r_q\,dq+\vec r_\theta\,d\theta = \begin{pmatrix} dx\\dy \end{pmatrix} \]

は物理座標のcoframeをHodograph平面へ引き戻した $\mathbb R^2$ 値1-formです。磁界方向と、それを反時計回りへ90度回した方向を

\[ \begin{aligned} \vec e_H &= \begin{pmatrix}\cos\theta\\\sin\theta\end{pmatrix},\\[3pt] \vec e_\perp &= \begin{pmatrix}-\sin\theta\\\cos\theta\end{pmatrix},\\[3pt] \vec e_H\times\vec e_\perp &=\vec e_z \end{aligned} \]

とします。すると、ポテンシャルの微分は

\[ d\Psi=q\,\vec e_H\cdot d\vec r, \qquad dA=\mu(q)q\,\vec e_\perp\cdot d\vec r \]

です。前節のChaplygin一階系へ代入し、

\[ \beta(q) =\dfrac{\mu(q)q}{\{\mu(q)q\}'} \gt0 \]

と置くと、座標を直接決める一階系は

\[ \boxed{ \begin{aligned} \vec e_H\cdot\vec r_\theta &=q\,\vec e_\perp\cdot\vec r_q,\\ \vec e_\perp\cdot\vec r_\theta &=-\beta(q)\,\vec e_H\cdot\vec r_q \end{aligned} } \]

となります。材料則 $\mu(q)$ は既知係数であり、未知の $x(q,\theta),y(q,\theta)$ に関して線形です。

重み付きCauchy--Riemann構造

物理平面上の線形作用素

\[ \boldsymbol C(q,\theta) =q\,\vec e_H\otimes\vec e_\perp -\beta(q)\,\vec e_\perp\otimes\vec e_H \]

を使えば、二本の式は

\[ \mathcal D_{\mathrm C}\vec r \equiv \vec r_\theta-\boldsymbol C\vec r_q =\vec0 \]

の一行になります。この作用素は

\[ \boldsymbol C^2=-q\beta\,\boldsymbol I, \qquad \mathbb J_{\mathrm m} =\dfrac{\boldsymbol C}{\sqrt{q\beta}}, \qquad \mathbb J_{\mathrm m}^2=-\boldsymbol I \]

を満たします。$\mathbb J_{\mathrm m}$ は物理平面の引戻し束に入る複素構造であり、$\mathcal D_{\mathrm C}\vec r=0$ は材料則で重み付けされたCauchy--Riemann条件と読めます。線形材料では重みが単純になり、飽和すると $\beta(q)$ が変化して、$q$ 方向と $\theta$ 方向の座標伸縮が変わります。

弱形式と離散化はG-2へ

一階Galerkin形、最小二乗汎関数、Q1要素の局所残差、全体正規行列、積分不足と境界拘束による零空間は、G-2の逆Hodograph離散化へ移しました。ここでは連続作用素 $\mathcal D_{\mathrm C}\vec r=0$ と、その向き・Jacobian・Legendre双対を追います。

向き、Jacobian、折り畳み

$\vec r_q=a\vec e_H+b\vec e_\perp$ と分解すると、強形式から

\[ \det\dfrac{\partial(x,y)}{\partial(q,\theta)} =\det(\vec r_q,\vec r_\theta) =-\beta a^2-qb^2 \lt0 \]

です。これは写像が折り畳まれたという意味ではなく、座標順 $(q,\theta)$ が物理平面の右手系と反対向きになることを表します。両領域を右手系で統一するなら、Hodograph側の向きを

\[ \omega_h=d\theta\wedge dq =-dq\wedge d\theta \]

と宣言します。一方、最小二乗エネルギーの積分には向きに依存しない正の密度

\[ dV_h =\left|dq\wedge d\theta\right| \]

を使います。$|\det(\partial(x,y)/\partial(q,\theta))|$ が0へ近づけば、向きの選択とは別に逆写像が退化しています。FEMではこの絶対値の最小値を監視し、正の下限を制約として持たせます。

スカラー1本に畳む:Legendreポテンシャル

$\vec r(q,\theta)$ は2成分ですが、独立な情報はスカラー1本に畳めます。スカラーポテンシャルのLegendre変換

\[ \chi=\vec H\cdot\vec r-\Psi \]

を定義すると、$d\Psi=\vec H\cdot d\vec r$ から

\[ d\chi=\vec r\cdot d\vec H \]

が従います。したがって $\chi$ はHodograph平面のスカラー関数 $\chi(q,\theta)$ で、その1階微分が物理座標そのものになります。

\[ \vec e_H\cdot\vec r=\dfrac{\partial\chi}{\partial q}, \qquad \vec e_\perp\cdot\vec r=\dfrac{1}{q}\dfrac{\partial\chi}{\partial\theta}, \qquad \Psi=q\chi_q-\chi \]

これを一階系へ代入すると、第一式は恒等的に満たされ、第二式が $\chi$ の自己随伴なChaplygin型方程式になります。

\[ \dfrac{\partial}{\partial q} \left(\mu(q)\,q\,\dfrac{\partial\chi}{\partial q}\right) +\dfrac{\{\mu(q)q\}'}{q} \dfrac{\partial^2\chi}{\partial\theta^2}=0 \]

楕円性の条件は $A$ の方程式と同じ $\mu(q)\gt0$、$\{\mu(q)q\}'\gt0$ です。一方で動径重みは $q/\mu\to\mu q$ へ、角度重みは $\{\mu q\}'/(\mu^2q)\to\{\mu q\}'/q$ へ入れ替わります(Legendre双対)。べき乗材料則 $\mu(q)=q^k$ の分離解は $\chi=q^s\cos n\theta$ で、指数条件は

\[ s^2+ks-(k+1)n^2=0 \]

です。$A$ 側の指数 $m_{n,\pm}$ とは $s_{n,\pm}=-m_{n,\mp}$ で対応します。また

\[ \chi_{\mathrm{tr}}=q\,(x_0\cos\theta+y_0\sin\theta) \]

は任意の $\mu(q)$ に対する厳密解で、その座標寄与は定数 $(x_0,y_0)$ です。つまりHodograph解の重ね合わせには、設計全体の平行移動が最も単純な例として含まれます。可視化F-5-4の厳密解から $\chi=q(x\cos\theta+y\sin\theta)-\Psi$ を組むと、この方程式と上の座標復元式を厳密に満たします。

実測の $\mu_{\mathrm s}(B)$ をそのまま係数に使う

材料データは、場の大きさ $q$ ではなく磁束密度の大きさ $B=\mu(q)\,q$ を引数にした割線透磁率 $\mu_{\mathrm s}(B)$ として与えられるのが普通です。等方材料では $\vec B\parallel\vec H$ で角度 $\theta$ は共通なので、Hodograph平面の動径を $q$ から $B$ へ再パラメータ化できます。$\chi$ の方程式は

\[ \dfrac{\partial}{\partial B} \left(\mu_{\mathrm d}(B)\,B\,\dfrac{\partial\chi}{\partial B}\right) +\dfrac{\mu_{\mathrm s}(B)}{B} \dfrac{\partial^2\chi}{\partial\theta^2}=0, \qquad \mu_{\mathrm d}(B)=\dfrac{\mu_{\mathrm s}(B)^2}{\mu_{\mathrm s}(B)-B\,d\mu_{\mathrm s}/dB} \]

となり、係数は与えられた $\mu_{\mathrm s}(B)$ の陽関数です。$B$--$H$ テーブルを $q$ 引数へ反転する必要はありません。座標復元も

\[ \vec e_H\cdot\vec r=\mu_{\mathrm d}(B)\dfrac{\partial\chi}{\partial B}, \qquad \vec e_\perp\cdot\vec r=\dfrac{\mu_{\mathrm s}(B)}{B}\dfrac{\partial\chi}{\partial\theta} \]

のまま閉じます。楕円性は $\mu_{\mathrm d}(B)\gt0$、すなわち $\mu_{\mathrm s}(B)\gt B\,d\mu_{\mathrm s}/dB$ です。ここの $\mu_{\mathrm d}$ は、可視化F-5-13で $q$ の関数として読む微分透磁率 $dB/dq$ を $B$ 引数で表示し直したものです。べき乗材料則の対応は $\mu(q)=q^k\iff\mu_{\mathrm s}(B)=B^{k/(k+1)}$ です。実測テーブルから $\mu_{\mathrm d}$ を作る際は微分が必要なので、単調性を保つ補間で滑らかにしてから使います。

四つの定式化を比べる

スカラーChaplygin弱形式未知量:$A(q,\theta)$
長所:対称な線形楕円問題
注意:$\Psi$ と $(x,y)$ の復元が必要
逆Hodograph最小二乗形未知量:$x(q,\theta),y(q,\theta)$
長所:磁極形状がそのまま答えになる
注意:互換な境界条件と非退化制約が必要
Legendreポテンシャル形未知量:$\chi(q,\theta)$
長所:1階微分がそのまま物理座標になる
注意:磁束線境界 $A=\mathrm{const.}$ の指定は不便
coframe混合形未知量:$dx,dy$ と閉性の乗数
長所:局所写像と位相条件を分離できる
注意:$d(dx)=d(dy)=0$ を別に課す

上の可視化F-5-4で表示した厳密解 $x(q,\theta),y(q,\theta)$ は、この直接座標系を閉じた式で解いた検算例になっています。固定磁極の順問題ではHodograph領域の境界自体が未知ですが、望ましい場の領域を先に与えて磁極形状を出力する逆設計では、この弱形式の利点をそのまま使えます。

数値実装はG-2へ渡す

逆Hodograph写像を実際に解く段階では、trial/test空間、Q1自由度、要素残差、局所から全体へのscatter、境界拘束、rank・nullityを扱います。これらはF編の連続写像ではなくG編の有限要素法なので、三つの操作可能な演習を G-2-H3〜H5 に移しました。F-5の厳密解はそこで境界値と独立誤差だけに使い、内部節点座標は組み立てた連立方程式から求めます。

過去の学習記録と参照を壊さず、離散教材の現担当を明示するため、旧番号F-5-6〜8は次の移管案内として残します。Canvas本体、操作、数値出力はG-2だけに置きます。

可視化 F-5-6(G-2-H3へ移管)逆Hodograph最小二乗

Q1格子で残差を最小化し、境界互換性・細分応答・Jacobianを確かめる演習は、G-2-H3で実行します。

可視化 F-5-7(G-2-H4へ移管)局所から全体への組立て

セル残差を全体正規行列へscatterする演習は、G-2-H4で実行します。

可視化 F-5-8(G-2-H5へ移管)境界条件と零空間

積分則と拘束を変え、rank、nullity、特異値、零空間変形を分ける演習は、G-2-H5で実行します。

可視化 F-5-9 固定磁極の飽和とHodograph像

緑の点 $P$ を固定し、線形予測からのずれと二つの透磁率を図を動かして確かめてください。

固定したギャップ形状と2D磁束線 $(x,y)$

読み順を切り替え、まず青い磁束経路、次に黄から赤の飽和位置、最後に橙破線の線形予測との差を確認します。同時表示による重なりを避けながら、ギャップ磁束の不足と外側への再分配を追えます。

物理空間FEM解を写したHodograph像 $(\theta,q)$

初期状態では低励磁点 $P_0$ と灰色の $60q_0$ だけを示します。操作後は全励磁段階で共通の対数 $q$ 軸に、灰色の線形予測、色点の非線形解、緑の励磁軌跡を開きます。

選択点 $P$ の材料曲線と二つの透磁率

左は $|\vec B|$--$q$ 曲線と、傾きを変えずに表示枠で切った割線 $\mu_{\mathrm{s}}$・接線 $\mu_{\mathrm{d}}$ です。初期状態では $P_0$ と灰色の $60q_0$ だけを示し、操作後に各励磁段階と右の係数比較を開きます。

材料則を $|\vec B|=\mu_0q+M_s q/(H_s+q)$ と書くと、原点からの平均傾きと現在点の局所傾きは

\[ \begin{aligned} \mu_{\mathrm{s}}(q)&=\dfrac{|\vec B|}{q}=\mu_0+\dfrac{M_s}{H_s+q},\\ \mu_{\mathrm{d}}(q)&=\dfrac{d|\vec B|}{dq}=\mu_0+\dfrac{M_sH_s}{(H_s+q)^2},\\ \mu_{\mathrm{s}}-\mu_{\mathrm{d}}&=\dfrac{M_sq}{(H_s+q)^2}>0\qquad(q>0) \end{aligned} \]

図の青線と橙線は、この二つの傾きを保ったまま表示矩形との交点で切ります。座標を表示枠へ個別に押し込むと傾き自体が変わるため、その描き方は使いません。右の係数図は約74から1までを同じ対数尺度で追い、低励磁と高励磁を固定比較します。

左図では、低励磁時には青線と灰色破線がほぼ重なります。まず既定の鉄中点 $P=(0.0431,0.0295)$ を固定し、励磁を $15$ から $900$ へ60倍にしたとき、$q=|\vec H|$ が何倍になるか、$\mu_{\mathrm{s}}$ と $\mu_{\mathrm{d}}$ のどちらが小さくなるかを図を動かして確かめてください。操作後は磁極端が先に飽和し、青い磁束線が灰色の線形予測から離れます。中央ギャップを貫く線が減り、外側へ回る線が増えることが重要です。読み出しには、実際のギャップ中央磁束密度と線形予測に対する比も表示します。左図をクリックするか $x,y$ のスライダーを動かすと、同じ緑の物理点 $P$ が右図の $(\theta,q)$ 平面と材料曲線でも同期して動きます。縦軸は全励磁段階で同じ対数軸です。

最弱励磁 $I_0$ の解が線形のまま増えるなら、励磁 $I$ における各標本点の磁界は

\[ \begin{aligned} q_{\mathrm{lin}}(x,y;I) &=\dfrac{I}{I_0}q(x,y;I_0), \\ \delta_q &=\dfrac{q(x,y;I)}{q_{\mathrm{lin}}(x,y;I)}-1 \end{aligned} \]

となります。右図の灰色の輪が $q_{\mathrm{lin}}$、色点が非線形解です。選択点の読み出しには、局所的な $\delta_q$、$\mu_{\mathrm{s}}$、$\mu_{\mathrm{d}}$ も表示します。飽和が進むと鉄中の点が灰色の輪から離れ、$\theta$ 方向にも移動します。「全体95%点」は、磁界がほぼ零の点による発散を避けた鉄中標本について、線形予測からのずれ $|\delta_q|$ を集計した95パーセンタイルです。この固定磁極モデルは規格化した教育用ベンチマークであり、特定の鋼材や実機の定量予測ではありません。

Hodographの計算上の効果を数値で確認する

ここまでの図は「座標像の形」を見せました。次は、変換によって非線形反復をどこまで減らせるかを、研究室Radiaの検証例で確認します。長さ $L$ の細長い磁束ガイドに、上下の磁束線で囲まれた幅 $w(x)$ のくびれを設けます。上下境界のベクトルポテンシャル差を $\Delta A$ とすると、細長い極限では磁束保存から

\[ |\vec{B}|(x)\simeq\dfrac{\Delta A}{w(x)} \]

です。材料の比透磁率には、低磁界の $\mu_{r0}$ から高磁界で1へ近づく単調なモデル

\[ \mu_r(|\vec{B}|) =1+\dfrac{\mu_{r0}-1}{1+(|\vec{B}|/B_k)^2} \]

を使います。中心線に沿った磁気スカラーポテンシャル差、すなわち起磁力は

\[ \Delta\Phi_m^{\mathrm{1shot}} =\int_0^L H_x\,dx \simeq\int_0^L\nu\!\left(\dfrac{\Delta A}{w(x)}\right) \dfrac{\Delta A}{w(x)}\,dx \]

1回の数値積分で求まります。比較対象の2次元FEMは

\[ \nabla\cdot\left[\nu(|\nabla A|)\nabla A\right]=0 \]

をPicard反復で解きます。Hodograph像が $\theta=0$ 付近の細い帯へ縮む磁束ガイドでは、上の1回積分がChaplygin系の1次元極限になります。

可視化 F-5-10 1回積分と2次元非線形FEMの比較

$1.0\,\mathrm{T}$ までの曲線と灰色の「線形なら2倍」を手掛かりに、橙点の行き先を図を動かして確かめてください。

観察手順: まず $1.0\,\mathrm{T}$ までを読み、$2.0\,\mathrm{T}$ の起磁力を確かめます。操作後は、灰色の線形予測、青のFEM、橙の1回積分を比べ、くびれ部の $\mu_r$ 低下が急増を生む一方で、二つの解法の差は小さいままかを分けて確かめます。

幅 $w(x)$、磁束密度 $|\vec{B}|(x)$、くびれ部の材料応答

磁束保存により、幅 $w(x)$ が狭い中央ほど $|\vec{B}|=\Delta A/w(x)$ が増えます。上の数値は、選択した条件でのくびれ部の $\mu_r$ と $H=|\vec B|/(\mu_0\mu_r)$ です。

飽和による起磁力の増幅と1回積分の相対差

灰色破線は $1.0\,\mathrm{T}$ のFEM値を単純に2倍した予測、青は2次元非線形FEM、橙はHodographの1回積分です。下段は1回積分のFEMに対する相対差で、縦軸は $0$--$2\%$ に固定しています。

この例では $L=0.20\,\mathrm{m}$、入口幅 $0.040\,\mathrm{m}$、くびれ幅 $0.016\,\mathrm{m}$、$\mu_{r0}=200$、$B_k=1.0\,\mathrm{T}$ としました。くびれ部を $1.0$ から $2.0\,\mathrm{T}$ にすると、材料モデルの $\mu_r$ は $100.5$ から $40.8$ へ低下し、局所磁界 $H$ は $4.93$ 倍、FEM起磁力は $667.4$ から $2600.7\,\mathrm{A}$ へ $3.90$ 倍になります。単純な「磁束密度2倍なら起磁力2倍」が破れるのは飽和のためです。一方、くびれ部の $|\vec{B}|=0.25$--$2.0\,\mathrm{T}$ に対し、FEMは11--12回のPicard反復を要し、1回積分との差は1.05--1.52%でした。この一致は任意形状で保証されるものではなく、細長い磁束ガイドという適用条件を含む結果です。実行コードと検証条件は研究室Radiaの chaplygin_hodograph_2d.py にあります。

設計した形状を独立な非線形FEMで検証する

前節は、あらかじめ形状が決まっている磁束ガイドについて、Hodographの1回積分とFEMの起磁力を比べました。設計方向そのもの、つまり「欲しい磁場からHodographで形状を出し、その形状が本当に狙いどおりの磁場を作るか」は、別の検証が必要です。設計と同じ式を使って確かめても意味がないため、設計に使った式を一切使わない順方向の非線形FEMへ形状を渡します。

題材は90度曲げの飽和磁束ガイドです。壁を磁束線とし、外壁の磁束密度を $1.00\,\mathrm{T}$ 一定、内壁を旋回に沿って $1.30\to1.75\,\mathrm{T}$ とテーパーさせ、単位奥行きあたりの磁束を $0.05\,\mathrm{Wb/m}$ と指定します。材料は前節と同じ $\mu_r(|\vec{B}|)=1+199/\{1+(|\vec{B}|/1\,\mathrm{T})^2\}$ です。この仕様は $(|\vec{B}|,\theta)$ で書けるため、Hodograph領域は既知の曲線四辺形になり、設計は線形方程式を1回解くだけで終わります。得られた $\chi$ の1階微分がそのまま壁の座標です。

検証は次の三段構えで行いました。

1. 極限での既知解透磁率を一定にすると、設計出力は厳密な円環でなければならない
2. 局所量の照合設計形状を独立な非線形FEMへ渡し、壁上の $|\vec{B}|$ を仕様と比べる
3. 大域量の照合壁の値とは独立な起磁力 $\oint\vec{H}\cdot d\vec{l}$ を比べる

結果は次のとおりです。

| 検証項目 | 結果 |

|---|---|

| 一定透磁率での円環再現 | 真円度偏差 $1.3\times10^{-9}$、半径比の誤差 $1.8\times10^{-9}$ |

| 内壁 $|\vec{B}|$($5$--$85^\circ$ の中核部) | 平均 $0.29$--$0.31\%$、最大 $0.86\%$ |

| 外壁 $|\vec{B}|$(同上) | 平均 $0.27$--$0.43\%$ |

| 起磁力(独立な大域量) | 設計 $908.7\,\mathrm{A}$ に対しFEM $909.8\,\mathrm{A}$($0.12\%$) |

| メッシュ収束 | 分割を2倍にしても中核部の誤差は $0.02$ ポイント未満しか動かない |

| 写像の可逆性 | すべての設計でJacobianの符号が一定(折り畳みなし) |

局所量と大域量が独立に一致し、さらにメッシュを細かくしても誤差が動かないため、残る $0.3\%$ 程度は離散化誤差ではなく設計と物理の実際の差と読めます。両端の角そのもので $|\vec{B}|$ を読むと大きくずれますが、これは二つの壁と端面が出会う点で値が定義できないためで、中核部の評価から除いています。

検証手順そのものにも注意点があります。 比較対象の非線形FEMには減衰を入れたPicard反復($\omega=0.35$)が必要です。減衰なしの反復はこの材料で収束せず、残差が大きいまま止まった解と比べると壁の磁場が $140\%$ ずれ、あたかも設計が誤っているかのように見えます。収束していない参照解と比較しないこと、収束判定に達しなければ結果を出さずに失敗させることが、この種の検証では欠かせません。

適用範囲は正直に区切ります。ここで確かめたのは、仕様が $(|\vec{B}|,\theta)$ で自然に書け、Hodograph領域が既知になる設計方向です。形状を先に固定してそのHodograph像を求める解析方向は、像領域が未知であるため依然として研究課題です。実行コード、材料定義、合否判定の帯域は研究室Radiaの verify_chaplygin_bend_design.py にあり、上の数値は results_chaplygin_bend_design.json として保存しています。$\chi$ を用いたモード和の計算機構を閉形式解と照合する検証は verify_chi_modesum_solver.py です。

積分方程式:グリーン関数で境界だけの問題にする

前節までの弱形式は、Hodograph領域 $\Omega_h$ の内部全体を離散化しました。同じ問題を、領域の境界 $\partial\Omega_h$ だけの積分方程式へ書き直すこともできます。出発点は、$A$ に対するChaplygin方程式が自己随伴な発散形

\[ L[A]=\dfrac{\partial}{\partial q}\!\left(\dfrac{q}{\mu}\dfrac{\partial A}{\partial q}\right) +\dfrac{(\mu q)'}{\mu^2 q}\dfrac{\partial^2 A}{\partial\theta^2}=0 \]

であることです。係数が対称なので、任意の $u,v$ についてGreen第2恒等式

\[ \int_{\Omega_h}(v\,L[u]-u\,L[v])\,dq\,d\theta =\oint_{\partial\Omega_h}\left(v\,\partial_\nu u-u\,\partial_\nu v\right)ds \]

が成り立ちます。ここで $\partial_\nu$ は係数で重み付けした共法線微分

\[ \partial_\nu u=\dfrac{q}{\mu}\dfrac{\partial u}{\partial q}\,n_q +\dfrac{(\mu q)'}{\mu^2 q}\dfrac{\partial u}{\partial\theta}\,n_\theta \]

です。この共法線微分には物理的な意味があります。第一階系を使うと、境界に沿って

\[ \partial_\nu A=\dfrac{d\Psi}{ds} \]

が成り立ち、$A$ の共法線微分は共役ポテンシャル $\Psi$($\vec H=\nabla\Psi$)の境界接線微分そのものです。磁極面のように $\Psi=\mathrm{const.}$ の境界では一重層密度 $d\Psi/ds$ が0になり、境界データが既知になります。

$G(p,p_0)$ を $L[G]=-\delta(p-p_0)$ を満たす基本解とすると、Green第2恒等式から内部の表現公式

\[ A(p_0)=\oint_{\partial\Omega_h} \left[A(p)\,\partial_{\nu}G(p,p_0)-G(p,p_0)\,\partial_\nu A(p)\right]ds \]

が得られます。観測点 $p_0$ を境界へ寄せると、未知の境界トレース $A|_{\partial\Omega_h}$ と $\partial_\nu A|_{\partial\Omega_h}=d\Psi/ds$ に対する第2種境界積分方程式になります。内部全体ではなく、境界上の未知量だけを解けば済みます。

基本解は具体的に書けます。べき乗材料則 $\mu=q^k$ では、$\tau=\ln q$ とゲージ変換で方程式が変形Helmholtz方程式に移り、自由空間核は

\[ G(p,p_0)=\dfrac{1}{2\pi\sqrt{k+1}}\,q^{k/2}q_0^{k/2}\, K_0\!\left(\dfrac{|k|}{2} \sqrt{\ln^2\!\dfrac{q}{q_0}+\dfrac{(\theta-\theta_0)^2}{k+1}}\right) \]

です。$K_0$ は第2種変形Bessel関数で、この核は点源まわりの共法線流束が $-1$ の単位源を持ちます。$k\to0$(線形材料)では特異部が対数核 $-\frac{1}{2\pi}\ln r$ へ退化し、複素ポテンシャルによる古典的な等角写像の理論に一致します。一般の単調な $\mu(q)$ では、角度方向のFourierモード $\cos n(\theta-\theta_0)$ ごとに動径方向の二つの基本解 $R_n^\pm(q)$ をWronskianで組み合わせ、モード和として核を構成します。$q/\mu$ を重みとするWronskian $\dfrac{q}{\mu}\left(R_n^-R_n^{+\prime}-R_n^{-\prime}R_n^+\right)$ が一定になる(Abelの公式)ため、この構成は常に成立します。べき乗則では $R_n^\pm=q^{m_{n,\pm}}$ がその基本解です。

この積分方程式の枠組みは、気体力学のHodograph法や一般化解析関数の理論として古くから知られています。円形の接続境界のような既知の $\Omega_h$ では、核も表現公式も厳密です。一方、一般形状の飽和磁極では $\Omega_h$ 自体が未知なので、境界積分方程式を実際に組むにはHodograph像領域を先に求める必要があり、そこが研究課題として残ります。

FEM・MoMへの接続:DtNはG-9へ

Chaplygin領域の連続な基本解とGreen表現までは、このF-5で扱う微分方程式・Hodograph理論です。外部領域をDirichlet-to-Neumann作用素へ縮約し、有限要素弱形式やSchur補元へ組み込む段階は離散化の話になるため、G-9 FEMとDtN境界作用素へ移しました。

接続境界値を $g$、内部から外部へ向く法線を $\vec n$ とすれば、連続な受け渡しは

\[ \mathcal S_{\mathrm{ext}}g =-\nu_0\dfrac{\partial u_g}{\partial n}\bigg|_{\Gamma}, \qquad a_h(A,v) +\left\langle \mathcal S_{\mathrm{ext}}\gamma_{\Gamma}A, \gamma_{\Gamma}v \right\rangle_{\Gamma} =\ell(v) \]

です。G-9では、球面調和関数を動かしてDtN固有値と外部エネルギーを検算し、Kelvin FEMによる外部自由度の消去を説明します。Green関数から密なDtN行列を作る実装は、H編「MoM/BEMがDtNを実装する」へ分けています。これにより、Fは連続な座標・作用素、GはFEM弱形式と離散行列、Hは境界積分による作用素実装という役割になります。

保存則・検算と次への接続

Hodographを座標変換として使える条件は、写像が局所的に可逆なことです。線形の複素ポテンシャル $F=A+i\Phi$ ではCauchy--Riemann関係から

\[ J_h =\det\dfrac{\partial(A,\Phi)}{\partial(x,y)} =A_x\Phi_y-A_y\Phi_x =|\nabla A|^2 \]

となるため、$J_h=0$ となる停留点では逆写像が退化します。非線形材料では、場の大きさを $q$ として

\[ \begin{aligned} q&\gt0, \\ \mu_{\mathrm{s}}(q)&\gt0, \\ \mu_{\mathrm{d}}(q) &=\dfrac{d\{\mu_{\mathrm{s}}(q)q\}}{dq}\gt0 \end{aligned} \]

を確認し、変換後方程式の楕円性を失っていないかを検算します。物理平面、ポテンシャル平面、場のHodograph平面のどこでJacobianが小さくなるかを追うことが、飽和による磁束集中の診断になります。曲面上の流れ関数で使った2次元ポテンシャル対を、次のF-6では2つの等値面の交線として3次元へ拡張します。

可視化 F-5-11 逆Hodograph写像のJacobian

可視化F-5-4の厳密解を、Hodograph平面から物理平面への局所写像として読みます。ここで大切なのは「$k$ を変えると向きが反転する」のではなく、許される解の家族では最初から最後まで向きが反転していることです。

\[ \vec r(q,\theta) = \left( -(k+1)\log q+\dfrac{k}{2}\sin^2\theta,\ \left(1+\dfrac{k}{2}\right)\theta-\dfrac{k}{4}\sin2\theta \right) \]

点 $P_*=(q,\theta)=(1,\pi/6)$ の微小な基底 $(\delta q,\delta\theta)$ は

\[ \boldsymbol D\vec r(P_*) = \begin{pmatrix} \vec r_q & \vec r_\theta \end{pmatrix}, \qquad \vec r_q= \begin{pmatrix}-(k+1)/q\\0\end{pmatrix}, \qquad \vec r_\theta= \begin{pmatrix}k\sin\theta\cos\theta\\1+k\sin^2\theta\end{pmatrix} \]

へ写ります。その符号付き面積倍率は

\[ J = \det\dfrac{\partial(x,y)}{\partial(q,\theta)} = -\dfrac{(k+1)(1+k\sin^2\theta)}{q} \]

です。$-1\lt k\le0$、$q\gt0$ なら $k+1\gt0$ かつ $1+k\sin^2\theta\gt0$ なので、家族全体で $J\lt0$ です。一方、$J\ne0$ である限り局所逆写像は存在します。したがって負号は「局所的に解けない」という意味ではなく、座標順序 $(q,\theta)\to(x,y)$ の向きが反転するという意味です。面積の倍率は $|J|$ で読みます。

まず基準 $k=0$ で $J_0=-1$ を確認し、$k=-0.85$ で何が変わるか図を動かして確かめてください。操作後は、灰色の基準セルと橙色の現在セルを重ね、向き・面積・二本の基底の長さを別々に読みます。$k\to-1^+$ では $J\to0^-$ ですが、境界 $k=-1$ はこの厳密解の許容範囲に含みません。次のF-5-12は、これとは別の診断族で実際に $J=0$ を横切る場合を扱います。

基準 $k=0$ ですでに $J_0=-1$ です。符号と面積倍率のどちらが変わるかを分けて図を動かして確かめてください。

観察手順: 基準状態と変更後を続けて比較し、左の正向きセル $(+\delta q,+\delta\theta)$ が右でどの順序へ写るかを追います。操作後は $k$ を動かし、$J$ の負号、$|J|$ の面積倍率、$|\vec r_q|$ と $|\vec r_\theta|$ の異方性を区別してください。

左は $(+\delta q,+\delta\theta)$ の正向きセル、右は同じ倍率で描いた $\boldsymbol D\vec r(P_*)$ の像です。$J\lt0$ は向きの反転、$|J|$ は面積倍率、$J\ne0$ は局所可逆性を表します。

可視化 F-5-12 Hodograph写像の可逆性をJacobianで診断する

Hodograph設計では、物理平面 $(x,y)$ とポテンシャル平面 $(A,\Phi)$ の対応が局所的に一対一でなければ、磁極形状を物理平面へ戻せません。ここでは可逆性だけを切り出す診断モデルとして

\[ A=x, \qquad \Phi=y+s\tanh(1.4x)\left(1-\dfrac{y^2}{4}\right) \]

を使います。局所Jacobianは

\[ J=\det\dfrac{\partial(A,\Phi)}{\partial(x,y)} =1-\dfrac{s y}{2}\tanh(1.4x) \]

です。$J=0$ は写像の折り畳みが始まる境界です。飽和係数に見立てた $s$ を上げ、Hodograph格子が歪むだけの段階と、$J\le0$ になる段階を区別してください。

左図右上の紫点 $P_*$ で、上向きの微小矢印が右図ではどちらを向くか図を動かして確かめてください。

観察手順: 基準状態と変更後を続けて比較し、左の $J$ 符号分布と $J=0$ 曲線、右の格子の折り返し、紫の局所矢印を対応させます。その後に $s$ を動かし、臨界値 $s_c$ の前後を比較してください。

左は物理平面上の $J$ の符号、右はその写像像です。紫点 $P_*=(1.75,1.75)$ の上向き矢印が反転しても、$J\lt0$ の点自体は $J\ne0$ なら局所的に可逆です。

このモデルでは $A=x$ なので、同じ $x$ について $\Phi(y)$ が単調かどうかを直接調べられます。$s\gt s_c=1/\tanh(2.8)$ では領域内に $J=0$ 曲線が現れ、そこで局所逆写像が失われます。その曲線を越えた $J\lt0$ 領域は向きが反転しますが、$J\lt0$ だけを「局所的に非可逆」と呼んではいけません。 この写像族全体では $\Phi(y)$ が折り返すため、同じ $(A,\Phi)$ を持つ異なる物理点が生じ、大域的な一対一性も失われます。

可視化 F-5-13 Chaplygin係数の正値性を材料曲線から判定する

割線透磁率が正であることと、材料曲線 $B(q)$ が単調であることは同じ条件ではありません。正の $mu_{\mathrm{s}}=B/q$ を保ったまま曲線を急に軟化させたとき、接線勾配 $mu_{\mathrm{d}}=dB/dq$ とChaplygin方程式の楕円性がどうなるかを確かめます。診断用の無次元材料族を

\[ \mu_{\mathrm{s}}(q;\alpha) =1+\dfrac{\alpha}{1+(q/q_k)^2}, \qquad B(q)=q\mu_{\mathrm{s}}(q;\alpha) \]
\[ \mu_{\mathrm{d}}(q;\alpha) =\dfrac{dB}{dq} =1+\alpha\dfrac{1-(q/q_k)^2}{\{1+(q/q_k)^2\}^2} \]
青い割線と赤い接線のうち、Chaplygin方程式の係数の符号を決める方を先に特定してください。

観察手順: まず $\alpha=4$ の $B(q)$、割線、接線を読み、$\alpha=10$ の結果を確かめます。操作後は左図の接線が下向きになる区間と、右図の $\mu_{\mathrm{d}}\lt0$ 帯、Chaplygin係数の判定を対応させてください。

左の青線は原点から選択点への割線 $\mu_{\mathrm{s}}=B/q$、赤線は接線 $\mu_{\mathrm{d}}=dB/dq$ です。右の赤い帯では $\mu_{\mathrm{d}}\lt0$ となり、$B(q)$ は局所的に減少します。

操作後に現れる最小点は

\[ q_*=\sqrt{3}\,q_k, \qquad \min_{q\ge0}\mu_{\mathrm{d}}(q;\alpha)=1-\dfrac{\alpha}{8} \]

です。したがってこの材料族で一様な楕円性を保つには $\alpha\lt8$ が必要で、$\alpha=8$ では $q=q_*$ で退化します。$\alpha=10$ は $\mu_{\mathrm{s}}\gt0$ だけでは不十分であることを示す意図的な非許容反例であり、実在鋼材の近似として使う曲線ではありません。受動的で安定な単調材料則では $\mu_{\mathrm{d}}\gt0$ を確認します。

理解の確認

1. なぜ物理空間の非線形係数 $\mu(|\nabla\Psi|)$ が、Hodograph平面では既知係数 $\mu(q)$ になるのでしょうか。

2. $\mu(q)>0$ だけでなく $(\mu q)'>0$ が必要なのは、どの係数の符号を保つためでしょうか。

3. 割線透磁率 $\mu_{\mathrm{s}}$ と微分透磁率 $\mu_{\mathrm{d}}$ は、それぞれ何を測っているでしょうか。

4. 選択点 $P$ の緑の軌跡が灰色の線形予測から離れるとき、材料と磁束分布には何が起きているでしょうか。

5. 厳密解が存在しても、同じ式を固定された任意形状の磁極へ直接適用できないのはなぜでしょうか。

6. 細長い磁束ガイドで1回積分がFEMへ近づくのは、場のHodograph像がどのような形へ縮むからでしょうか。

7. 高透磁率近似で磁極面が $\Phi_m=\mathrm{const.}$ になる理由を、磁界の接線成分から説明してください。

8. 四極磁石の勾配 $G$ と磁極先端半径 $r_0$ から、磁極電位 $\Phi_p$ と輪郭 $2xy=r_0^2$ を導いてください。

9. Hodograph逆設計で得た理想2次元輪郭を、そのまま実機形状と見なせない理由を三つ挙げてください。

10. Legendreポテンシャル $\chi=\vec H\cdot\vec r-\Psi$ の1階微分が物理座標になる理由を、$d\chi=\vec r\cdot d\vec H$ から説明してください。

11. 境界積分方程式で、磁極面 $\Psi=\mathrm{const.}$ 上の一重層密度 $\partial_\nu A=d\Psi/ds$ が0になるのはなぜでしょうか。

12. F-5-M1で $a$ を変えたとき、どの量が変わり、局所交差角とJacobianの符号はなぜ変わらないのでしょうか。

13. 逆Hodographの連続な一階系までをF-5、trial/test・最小二乗・行列・零空間をG-2で扱う理由を、「写像」と「近似空間」の違いから説明してください。

参考資料と次への接続

G-2 逆Hodographの弱形式・最小二乗では、この回の連続一階系をtrial/test、要素残差、全体行列、境界拘束へ移します。G-3 材料則と離散Hodgeでは材料則を離散作用素へ組み込む見方を、F-7 Kelvin変換では基底空間を反転して開境界を扱う見方を説明します。F-6 Clebschポテンシャルは3次元の発散のない場を表す手段ですが、3次元飽和問題を場の座標で全面的に線形化する方法は、ヘリシティや大域的な座標の一価性も関係する研究課題です。