3Dで学ぶ電磁気学

F-1 円筒座標・球座標と計量

直交座標から円筒座標・球座標へ移ると、角度方向の座標刻みが表す実際の長さは位置によって変わります。2つの座標系を同じページで比較し、基底、線素、面積要素、体積形式を3Dで確かめます。

まず30秒でつかむ

式を読む順番

1. まず $(q^1,q^2,q^3)$ を点の名前として選びます。この段階では長さはまだ決まりません。

2. 次に $\vec r(q^1,q^2,q^3)$ を微分し、座標を1だけ動かしたときの物理的な向きと長さを求めます。

3. その内積を並べたものが計量 $g_{ij}$ です。線素、面積要素、体積要素はすべてこの一枚の表から作れます。

4. 可視化では、座標の刻み幅ではなく、同じ刻みが実空間でどれだけの長さ・面積・体積になるかを読みます。

この回の到達点

1. 座標基底と単位基底を区別し、尺度因子を計算できる。

2. 円筒座標・球座標の線素、面積要素、体積要素を計量から組み立てられる。

3. 線積分・面積分とHodge starのどこに計量が入るか説明できる。

4. 円筒座標・球座標で勾配と発散を組み立て、電磁気の積分則と照合できる。

5. 座標特異点と物理的な特異点を区別し、表示が壊れる理由を説明できる。

修士課程の電磁気学演習

座標体積ではなく、物理体積で電荷を数えられるか

電磁気の問い: 一様な体積電荷密度 $\rho$ を円筒座標または球座標の小セルへ入れる。同じ $dr\,d\theta\,dz$ や $dr\,d\theta\,d\phi$ を指定しても、セルが持つ電荷 $Q$ は位置によって同じだろうか。

観察ポイント: 半径を2倍にしたとき、円筒セルと球座標セルの物理体積が何倍になるかを、Jacobian表示で確かめる。

操作と観測: 可視化F-1-6で座標系、中心半径、極角、求積分割数を変え、3Dセル、$\sqrt{|g|}$、数値体積、厳密体積、相対誤差を同時に追う。

判定基準と微分幾何による説明

電荷は座標幅ではなく $Q=\int_K\rho\,\mathrm{vol}_g=\int_{\widehat K}\rho(\chi(q))\sqrt{|g(q)|}\,dq^1dq^2dq^3$ で数える。円筒座標では $\sqrt{|g|}=r$、球座標では $\sqrt{|g|}=r^2\sin\theta$ なので、同じ座標幅でも物理体積は変わる。

診断: 座標セルを動かしても数値体積が不変なら、Jacobianを積分へ入れ忘れている。分割数を増やしても誤差が減らないなら、求積則または写像の実装を疑う。

研究へ: 同じ測度は電荷、Joule損、磁気エネルギーの体積積分にも入る。後の有限要素行列で現れるJacobianを、単なる実装係数ではなく物理量を数える測度として読む。

座標は点ではなく「点の名札」である

同じ空間の点でも、直交座標なら $(x,y,z)$、円筒座標なら $(r,\theta,z)$ と異なる名札を付けられます。座標領域 $U$ から物理空間への写像を

\[ \chi:U\longrightarrow\mathbb R^3, \qquad (q^1,q^2,q^3)\longmapsto\vec{x}(q^1,q^2,q^3) \]

と書くと、座標を微小に変えたときの物理空間での変位はJacobianによって

\[ d\vec{x} =\dfrac{\partial\vec{x}}{\partial q^i}\,dq^i =\vec g_i\,dq^i \]

と運ばれます。ここで $\vec g_i$ は座標基底です。座標刻み $dq^i$ は無次元の角度かもしれませんが、$\vec g_i\,dq^i$ は物理的な長さを持ちます。計量は、この座標基底同士の内積

\[ g_{ij}=\vec g_i\cdot\vec g_j, \qquad ds^2=g_{ij}\,dq^i dq^j \]

を集めたものです。したがって、計量は座標変換の後に付け足す補正係数ではなく、座標刻みを実際の長さへ翻訳する規則です。

座標写像と基底

円筒座標から直交座標への写像を $\vec{x}(r,\theta,z)$ とすると、

\[ \vec{x}(r,\theta,z) =r\cos\theta\,\vec{e}_x+r\sin\theta\,\vec{e}_y+z\,\vec{e}_z \]

です。この写像を偏微分すると座標基底が得られます。

\[ \vec g_r=\dfrac{\partial\vec{x}}{\partial r}=\vec e_r, \qquad \vec g_{\theta}=\dfrac{\partial\vec{x}}{\partial\theta}=r\vec e_{\theta}, \qquad \vec g_z=\dfrac{\partial\vec{x}}{\partial z}=\vec e_z \]

$|\vec g_\theta|=r$ なので、$\vec g_\theta$ は単位ベクトルではありません。規格化した単位基底

\[ \vec{e}_r=(\cos\theta,\sin\theta,0),\qquad \vec{e}_{\theta}=(-\sin\theta,\cos\theta,0),\qquad \vec{e}_r\times\vec{e}_{\theta}=\vec{e}_z \]

となります。$+z$ 方向から見た $\vec{e}_{\theta}$ は反時計回りです。

座標基底の長さ

\[ h_r=1, \qquad h_{\theta}=r, \qquad h_z=1 \]

を尺度因子と呼びます。単位基底に対応する正規直交1-formは

\[ \omega^r=dr, \qquad \omega^{\theta}=r\,d\theta, \qquad \omega^z=dz \]

です。たとえば単位基底成分で $\vec E=E_r\vec e_r+E_\theta\vec e_\theta+E_z\vec e_z$ と表した電界を1-formへ移すと

\[ E^{\flat}=E_r\,dr+E_{\theta}\,r\,d\theta+E_z\,dz \]

となります。$E_\theta$ の前に $r$ が付くのは、角度成分を線積分できる物理的な長さへ直しているからです。

可視化 F-1-1 計量が表す微小長さ

$\theta$ が $d\theta$ だけ変わると、円周方向の長さは $r\,d\theta$ です。したがって線素と体積形式は

\[ ds^2=dr^2+r^2d\theta^2+dz^2 \]
\[ \mathrm{vol}=r\,dr\wedge d\theta\wedge dz \]

となります。下の図では、同じ $d\theta$ でも $r$ を大きくすると青い円周方向の微小線分が長くなります。

円筒座標の計量行列とその行列式を直接計算すると

\[ \boldsymbol g_{\mathrm{cyl}} =\begin{pmatrix}1&0&0\\0&r^2&0\\0&0&1\end{pmatrix}, \qquad \sqrt{|g|}=r \]

です。対角成分は尺度因子の2乗、$\sqrt{|g|}$ は三つの尺度因子の積 $h_rh_\theta h_z$ に一致します。

円筒座標の基底と微小線素

r=1.25, θ=48°, z=0.35
座標の角度差と、空間内の実際の長さを区別してください。

赤は $\vec{e}_r$、青は $\vec{e}_{\theta}$、緑は $\vec{e}_z$ です。座標値を動かし、基底の向きと $dr$、$r\,d\theta$、$dz$ の対応を確認してください。

円筒座標の面積要素を基底から作る

三つの座標面の面積要素は、二本の接ベクトルが張る平行四辺形の大きさから求められます。向きの符号をいったん分けて大きさだけを書くと、

\[ dS_r=r\,d\theta\,dz, \qquad dS_{\theta}=dr\,dz, \qquad dS_z=r\,dr\,d\theta \]

です。円筒側面 $r=R$ では $dS_r=R\,d\theta\,dz$、円板 $z=\mathrm{const.}$ では $dS_z=r\,dr\,d\theta$ です。半径 $R$、長さ $L$ の円筒について積分すれば

\[ \int_0^L\int_0^{2\pi}R\,d\theta\,dz=2\pi RL, \qquad \int_0^R\int_0^{2\pi}r\,d\theta\,dr=\pi R^2 \]

となり、よく知る側面積と底面積へ戻ります。さらに内半径 $a$、外半径 $b$ の円筒殻の体積は

\[ V=\int_0^L\int_0^{2\pi}\int_a^b r\,dr\,d\theta\,dz =\pi(b^2-a^2)L \]

です。尺度因子を一つでも落とすと、この初等的な結果と一致しません。

円筒座標の勾配と発散

正規直交座標の一般式を尺度因子で書けば、スカラー場 $f$ の勾配は

\[ \nabla f =\vec e_r\dfrac{\partial f}{\partial r} +\vec e_{\theta}\dfrac{1}{r}\dfrac{\partial f}{\partial\theta} +\vec e_z\dfrac{\partial f}{\partial z} \]

となります。ベクトル場 $\vec A=A_r\vec e_r+A_\theta\vec e_\theta+A_z\vec e_z$ の発散は

\[ \nabla\cdot\vec A =\dfrac{1}{r}\dfrac{\partial(rA_r)}{\partial r} +\dfrac{1}{r}\dfrac{\partial A_{\theta}}{\partial\theta} +\dfrac{\partial A_z}{\partial z} \]

です。$1/r$ は暗記項ではありません。半径が増えると同じ角度幅の面積が広がるため、流出量を物理体積で割ると自然に現れます。

計量が電磁気に効く場所①:線積分

計量は「長さの測り方」ですが、電磁気ではそれが積分の中身に直接現れます。たとえば半径 $\rho$ の円周に沿って磁界 $\vec{H}$ を一周積分すると、円周方向の微小長さが $\rho\,d\theta$ なので

\[ \oint \vec{H}\cdot d\vec{\ell} =\int_0^{2\pi} H_{\theta}\,(\rho\,d\theta) =2\pi\rho\,H_{\theta} \]

となります。アンペールの法則 $\oint\vec{H}\cdot d\vec{\ell}=I$(学部編第10回)の左辺に現れる $2\pi\rho$ は、まさにこの計量の尺度因子です。座標を $\theta$ で刻んでも、実際の長さは $\rho\,d\theta$ で測る——この一手間が物理量の値を決めます。

無限長直線電流の周囲で対称性から $H_\theta$ が円周上で一定なら、直ちに

\[ H_{\theta}(r)=\dfrac{I}{2\pi r}, \qquad \oint_{C_r}\vec H\cdot d\vec\ell=2\pi rH_{\theta}(r)=I \]

を得ます。$H_\theta$ が $1/r$ で弱くなることと、円周長が $r$ に比例して増えることがちょうど打ち消し合い、どの半径の経路でも同じ電流を囲みます。

球座標から3次元空間へ

球座標 $(r,\theta,\phi)$ では、$\theta$ を $+z$ 軸から測る極角、$\phi$ を $xy$ 平面内の方位角とします。座標写像は

\[ \vec{x}(r,\theta,\phi) =r\sin\theta\cos\phi\,\vec{e}_x +r\sin\theta\sin\phi\,\vec{e}_y +r\cos\theta\,\vec{e}_z \]

です。偏微分して得る座標基底と尺度因子は

\[ \vec g_r=\vec e_r, \qquad \vec g_{\theta}=r\vec e_{\theta}, \qquad \vec g_{\phi}=r\sin\theta\,\vec e_{\phi} \]
\[ h_r=1, \qquad h_{\theta}=r, \qquad h_{\phi}=r\sin\theta \]

です。単位基底を直交座標成分で書くと

\[ \begin{aligned} \vec e_r&=(\sin\theta\cos\phi,\sin\theta\sin\phi,\cos\theta),\\ \vec e_{\theta}&=(\cos\theta\cos\phi,\cos\theta\sin\phi,-\sin\theta),\\ \vec e_{\phi}&=(-\sin\phi,\cos\phi,0) \end{aligned} \]

となります。この単位基底は右手系をなし、

\[ \vec{e}_r\times\vec{e}_{\theta}=\vec{e}_{\phi},\qquad \vec{e}_{\theta}\times\vec{e}_{\phi}=\vec{e}_r \]

を満たします。

球座標の正規直交1-formは

\[ \omega^r=dr, \qquad \omega^{\theta}=r\,d\theta, \qquad \omega^{\phi}=r\sin\theta\,d\phi \]

です。方位角方向の物理的な長さが緯線の半径 $r\sin\theta$ で決まることが、この1式に表れています。

可視化 F-1-2 球面に沿った長さと面積

球座標の線素と体積形式は

\[ ds^2=dr^2+r^2d\theta^2+r^2\sin^2\theta\,d\phi^2 \]
\[ \mathrm{vol}=r^2\sin\theta\,dr\wedge d\theta\wedge d\phi \]

です。半径 $r=R$ の球面では、面積要素は

\[ dS=R^2\sin\theta\,d\theta\,d\phi \]

となります。同じ $d\phi$ でも、赤道から極へ近づくほど実際の移動距離 $r\sin\theta\,d\phi$ は短くなります。

球座標の計量行列は

\[ \boldsymbol g_{\mathrm{sph}} =\begin{pmatrix} 1&0&0\\ 0&r^2&0\\ 0&0&r^2\sin^2\theta \end{pmatrix}, \qquad \sqrt{|g|}=r^2\sin\theta \]

です。半径一定面、極角一定面、方位角一定面の面積要素の大きさは、それぞれ

\[ dS_r=r^2\sin\theta\,d\theta\,d\phi, \quad dS_{\theta}=r\sin\theta\,dr\,d\phi, \quad dS_{\phi}=r\,dr\,d\theta \]

となります。

球座標の基底と微小線素

r=1.35, θ=58°, φ=42°
緯線の半径 $r\sin\theta$ がどう変わるかを図を動かして確かめてください。

赤は $\vec{e}_r$、青は $\vec{e}_{\theta}$、緑は $\vec{e}_{\phi}$ です。円筒座標と球座標で、角度方向の尺度因子がそれぞれ $r$ と $r\sin\theta$ になる違いを比べてください。

球の面積と体積でJacobianを検算する

半径 $R$ の球面積は

\[ |S_R| =\int_0^{2\pi}\int_0^{\pi} R^2\sin\theta\,d\theta\,d\phi =4\pi R^2 \]

です。球体の体積も同じJacobianを使って

\[ |V_R| =\int_0^R\int_0^{2\pi}\int_0^{\pi} r^2\sin\theta\,d\theta\,d\phi\,dr =\dfrac{4}{3}\pi R^3 \]

と求まります。ここで $r^2$ は半径方向に広がる二つの接線長、$\sin\theta$ は緯線が極へ向かって縮む効果です。

球座標での勾配は

\[ \nabla f =\vec e_r\dfrac{\partial f}{\partial r} +\vec e_{\theta}\dfrac{1}{r}\dfrac{\partial f}{\partial\theta} +\vec e_{\phi}\dfrac{1}{r\sin\theta}\dfrac{\partial f}{\partial\phi} \]

です。放射状ベクトル場 $\vec A=A_r(r)\vec e_r$ なら発散は

\[ \nabla\cdot\vec A =\dfrac{1}{r^2}\dfrac{d}{dr}\left(r^2A_r\right) \]

となります。$A_r=C/r^2$ では原点を除いて発散がゼロで、球面を貫く流束は半径によらず一定です。

計量が電磁気に効く場所②:面積分

面についても同じです。半径 $R$ の球面を通る磁束は、面積要素 $dS=R^2\sin\theta\,d\theta\,d\phi$ を使って

\[ \mathit{\Phi}=\int_S \vec{B}\cdot d\vec{S} =\int\!\!\!\int B_r\,R^2\sin\theta\,d\theta\,d\phi \]

と書けます。極に近づくほど $\sin\theta$ が小さくなり、同じ $d\theta\,d\phi$ でも実際の面積は縮む——この $R^2\sin\theta$ が、球面のガウスの法則やソレノイドの磁束計算に効いてきます。線積分では長さの尺度因子、面積分では面積の尺度因子として、計量はいつも積分の中に潜んでいます。

たとえば放射状磁束密度

\[ \vec B=\dfrac{C}{r^2}\vec e_r \]

が半径 $R$ の球面を貫く磁束は

\[ \mathit{\Phi}(R) =\int_0^{2\pi}\int_0^{\pi} \dfrac{C}{R^2}R^2\sin\theta\,d\theta\,d\phi =4\pi C \]

です。場の強さの $1/R^2$ と球面積の $R^2$ が打ち消し合います。これが「源を囲む閉曲面を変えても全磁束は変わらない」というガウスの法則の幾何学的な中身です。

Hodge starを座標ごとに書き下す

正規直交1-form $(\omega^1,\omega^2,\omega^3)$ では、Hodge starは右手系の向きに従って

\[ \star\omega^1=\omega^2\wedge\omega^3, \qquad \star\omega^2=\omega^3\wedge\omega^1, \qquad \star\omega^3=\omega^1\wedge\omega^2 \]

と単純に書けます。円筒座標の座標1-formへ戻すと

\[ \star dr=r\,d\theta\wedge dz, \qquad \star d\theta=\dfrac{1}{r}\,dz\wedge dr, \qquad \star dz=r\,dr\wedge d\theta \]

です。右辺はそれぞれ $r$、$\theta$、$z$ 方向に垂直な面積形式になっています。球座標でも同様に

\[ \begin{aligned} \star dr&=r^2\sin\theta\,d\theta\wedge d\phi,\\ \star d\theta&=\sin\theta\,d\phi\wedge dr,\\ \star d\phi&=\dfrac{1}{\sin\theta}\,dr\wedge d\theta \end{aligned} \]

となります。Hodge starが1-formを直交する2-formへ変えるとき、線の尺度因子と面の尺度因子の比が係数として現れます。

計量はどこでMaxwell方程式に入るのか

ここで測った計量は、実はたった一つの操作 Hodge starF-3)を通じてMaxwell方程式に入ります。しかもその Hodge star は、計量だけでなく材料定数 $\varepsilon,\mu,\sigma$ を同時に担います。ベクトル表示の構成方程式は $\vec{D}=\varepsilon\vec{E}$、$\vec{B}=\mu\vec{H}$ です。Hodge starを使うときは、ベクトルを計量で1-formへ移してから、電束・磁束を表す2-formへ写します。

\[ \mathcal{D}=\varepsilon\,\star E^{\flat}, \qquad \mathcal{B}=\mu\,\star H^{\flat} \]

ここで $E^{\flat},H^{\flat}$ は電界・磁界ベクトルに対応する1-form、$\mathcal D,\mathcal B$ は電束・磁束を積分する2-formです。このように書くと、計量Hodgeと材料係数を組み合わせた材料Hodgeに「空間の形」と「物質の性質」をまとめられます。この見方の御利益は後の回で効いてきます。均質化したリッツ線がもつ異方性は、素線を一本ずつ刻む代わりに材料側のHodgeへ押し込めますし(G-3)、Kelvin変換(F-7)で無限遠を有限領域へ写すときも、変わるのはMaxwell方程式の位相構造ではなく、Hodgeが担う計量と材料の部分です。F-1で測った「長さ」は、そのまま設計と解析の言葉になります。

座標特異点と物理的特異点を混同しない

円筒座標の $r=0$ では $\theta$ が定まらず、球座標の $r=0$ では $\theta,\phi$ が、極 $\sin\theta=0$ では $\phi$ が定まりません。このとき $\det\boldsymbol g=0$ になりますが、多くの場合、壊れているのは座標の名札であって空間ではありません。たとえば一定ベクトル $\vec e_x$ は原点でも滑らかですが、円筒座標成分では

\[ \vec e_x =\cos\theta\,\vec e_r -\sin\theta\,\vec e_{\theta} \]

となり、$r=0$ で意味を失う $\theta$ を含みます。これは物理場の発散ではなく座標表示の特異性です。一方、直線電流の $H_\theta=I/(2\pi r)$ は $r\to0$ で本当に発散し、理想化した線状源に由来する物理的特異性です。

数値計算では、座標特異点をまたぐ領域を一枚の座標系だけで無理に覆わず、直交座標を使う、複数の座標チャートに分ける、あるいは積分形式で特異性を隔離します。微分形式が便利なのは、座標表示を替えても積分量そのものを保てるためです。

手計算の手順

未知の曲線座標に出会ったときは、公式を暗記するより次の順で再構成する方が安全です。

1. 座標写像 $\vec x(q^1,q^2,q^3)$ を直交座標で書く。

2. $\vec g_i=\partial\vec x/\partial q^i$ を計算する。

3. $g_{ij}=\vec g_i\cdot\vec g_j$ から計量を作る。

4. 直交座標なら $h_i=|\vec g_i|$ を読み、線・面・体積の尺度因子を作る。

5. $\sqrt{|g|}$ が体積要素と一致するか検算する。

6. 既知の面積・体積、またはMaxwellの積分則へ代入して係数を確認する。

この手順は円筒・球だけでなく、F-4の曲面座標、F-7のKelvin変換、有限要素の曲線要素でも同じです。

保存則・検算と次への接続

尺度因子を掛け忘れていないかは、計量の行列式で一度に検算できます。円筒座標 $(r,\theta,z)$ と球座標 $(r,\theta,\phi)$ では

\[ \boldsymbol g_{\mathrm{cyl}}=\operatorname{diag}(1,r^2,1), \qquad \boldsymbol g_{\mathrm{sph}}=\operatorname{diag}(1,r^2,r^2\sin^2\theta) \]

であり、体積形式は

\[ dV=\sqrt{|g|}\,dq^1dq^2dq^3 =r\,dr\,d\theta\,dz, \qquad dV=r^2\sin\theta\,dr\,d\theta\,d\phi \]

となります。$r=0$ や $\sin\theta=0$ で $|g|=0$ になるのは座標表示の特異性であり、空間そのものが壊れるわけではありません。次のF-2では、この計量で測った空間量を曲線へ引き戻し、線積分が媒介変数に依存しないことを確認します。F-3では $\sqrt{|g|}$ を含む対応をHodge starとしてまとめます。

可視化 F-1-3 Jacobianが作る微小体積

座標写像 $\vec{x}=\vec{x}(q^1,q^2,q^3)$ の微小座標箱は、三本の接ベクトル

\[ \vec g_i=\dfrac{\partial\vec{x}}{\partial q^i} \]

が張る平行六面体へ写ります。その体積は

\[ dV=\left|\det\left(\vec g_1,\vec g_2,\vec g_3\right)\right| dq^1dq^2dq^3 \]

です。式は無限小極限の接平行六面体を表しますが、図では有限の座標幅を見やすく描くため、6面を実際の座標面で囲みます。球座標では $r=\mathrm{const.}$ を球面パッチ、円筒座標では $r=\mathrm{const.}$ を円筒面として滑らかに描きます。座標系を切り替え、半径を動かして、角度幅が同じでも曲面で囲まれた物理体積が変わることを確認してください。

円筒では $h_rh_\theta h_z=r$、球では $h_rh_\theta h_\phi=r^2\sin\theta$ です。

可視化 F-1-4 同じ座標増分を物理長で比べる

座標の目盛り幅が同じでも、実空間での長さが同じとは限りません。直交曲線座標では、各方向の微小長さは尺度因子 $h_i$ を使って

\[ ds_i=h_i\,dq^i \]

と測ります。円筒座標と球座標の尺度因子はそれぞれ

\[ (h_r,h_\theta,h_z)=(1,r,1), \qquad (h_r,h_\theta,h_\phi)=(1,r,r\sin\theta) \]

です。同じ $dq^i=0.20$ を三方向へ与え、棒の高さが物理長 $ds_i$ としてどう変わるかを比較してください。

可視化 F-1-5 Jacobianを半径方向に走査する

円筒座標と球座標の体積Jacobianを、同じ半径軸上で比較します。

\[ \sqrt{|g|}_{\mathrm{cyl}}=r \]
\[ \sqrt{|g|}_{\mathrm{sph}}=r^2\sin\theta \]

可視化 F-1-6 修士演習:Jacobianを求積して曲線セルの体積を得る

最初のイメージ。 地球儀の経線と緯線で囲まれた一区画を思い浮かべてください。座標上では同じ幅の長方形でも、赤道付近と極付近では実際の面積が違います。3次元では、その「座標の小箱が物理空間でどれだけ膨らむか」を表す倍率が $\sqrt{|g|}=|\det\boldsymbol J|$ です。Canvas左の曲線セルが物理空間の小箱、色付きの点が体積を数える求積点、右の曲線が分割を細かくしたときの体積誤差です。

ここまでは $\sqrt{|g|}$ を一点で読んできました。有限要素では、曲線要素の各求積点でJacobianを評価し、足し合わせて要素積分を作ります。座標写像のJacobian行列と計量は

\[ \boldsymbol J(\vec q) =\dfrac{\partial\vec x}{\partial\vec q}, \qquad \boldsymbol g(\vec q)=\boldsymbol J^{\mathsf T}\boldsymbol J, \qquad \sqrt{|g|}=|\det\boldsymbol J| \]

です。各座標方向を $N$ 分割し、セル中心で合成中点則を使うと

\[ V_N =\sum_{i,j,k=0}^{N-1} \sqrt{|g(\vec q_{ijk})|}\, \Delta q^1\Delta q^2\Delta q^3 \]

となります。このCanvasは見かけの収束曲線を描くのではなく、操作のたびに $N^3$ 個の求積点で上式を再計算します。比較する厳密体積は、円筒座標セルでは

\[ V_{\mathrm{cyl}} =\dfrac{r_1^2-r_0^2}{2} (\theta_1-\theta_0)(z_1-z_0) \]

球座標セルでは

\[ V_{\mathrm{sph}} =\dfrac{r_1^3-r_0^3}{3} \bigl(\cos\theta_0-\cos\theta_1\bigr) (\phi_1-\phi_0) \]

です。円筒座標のJacobian $r$ は各座標について高々一次なので中点則だけで厳密になります。一方、球座標の $r^2\sin\theta$ では分割数を増やす意味が見えます。計量行列、曲線セル、求積誤差を同じ操作で対応させてください。

動かして確かめる順序。 まず球座標のまま、極角 $\theta_c$ を極へ近づけたときにセルがどちらへ縮むかを図を動かして動かします。次に $N=1$ と $N=16$ を比べ、求積点を増やすと誤差が減ることを右の曲線で確認します。座標系を円筒座標へ切り替えると、中点則が $N=1$ から厳密になる理由を $\sqrt{|g|}=r$ の一次性で説明してください。最後に中心半径 $r_c$ を変え、座標幅が同じでも実体積が変わることを、左のセル・計量行列・数値体積の三つで照合します。

理解の確認

1. 円筒座標で同じ $d\theta$ が、半径 $r$ によって異なる長さになるのはなぜでしょうか。

2. 球座標の方位角方向の尺度因子が $r\sin\theta$ になることを、緯線の半径から説明してください。

3. Maxwell方程式の外微分 $d$ と、計量・材料を含むHodge starは、それぞれ何を担うでしょうか。

4. 円筒座標で $E^{\flat}$ の $d\theta$ 成分に $r$ が付くのはなぜでしょうか。

5. $\vec B=C\vec e_r/r^2$ の球面磁束が半径に依存しないことを、場の減衰と面積の増加に分けて説明してください。

6. 球座標の極で $\phi$ が定まらないことと、物理場が発散することはなぜ別問題でしょうか。

7. $\star dr$ が $dr$ に直交する面積形式になることを、円筒座標と球座標で確かめてください。