3Dで学ぶ電磁気学

F-8 幾何代数で見る内積・外積・電磁場

幾何代数(geometric algebra, GA)は、内積と外積を一つの幾何積へまとめます。電磁気学で頻出する「大きさを測る内積」と「向きの付いた面を作る外積」を、同じ3D図の中で分解して確かめます。

到達目標$\vec a\vec b=\vec a\cdot\vec b+\vec a\wedge\vec b$ を、角度と有向面の変化として説明する。
前提知識ベクトルの内積・外積、右手系、微分形式の0-formから3-form。
学習の順序二つのベクトルを動かす → スカラー部とバイベクトル部を分ける → twisted formを別型にしない条件を確かめる。

まず30秒でつかむ

二つのベクトル $\vec a,\vec b$ を掛けると、平行成分の情報はスカラー $\vec a\cdot\vec b$ に、二つが張る有向面の情報はバイベクトル $\vec a\wedge\vec b$ に入ります。幾何積はこの二つを捨てずに同時に持ちます。

\[ \vec a\vec b =\underbrace{\vec a\cdot\vec b}_{\text{grade 0}} +\underbrace{\vec a\wedge\vec b}_{\text{grade 2}} \]
\[ \vec a\cdot\vec b=|\vec a|\,|\vec b|\cos\theta, \qquad |\vec a\wedge\vec b|=|\vec a|\,|\vec b|\sin\theta \]

単位ベクトルなら、スカラー部とバイベクトル部の大きさは

\[ (\vec a\cdot\vec b)^2+|\vec a\wedge\vec b|^2=1 \]

を満たします。Canvasではこの恒等式を数値でも確認します。

可視化 F-8-1 幾何積をスカラーと有向面へ分ける

着眼点

$\theta=0$ と $\theta=90^\circ$ で、内積と有向面のどちらが消えるかを確かめます。

操作

角度、面の方位、向きを動かします。橙の平行四辺形が $\vec a\wedge\vec b$、紫の矢印がその3次元双対です。

説明

向きを反転すると内積は変わらず、有向面と双対ベクトルの符号だけが反転します。

幾何積を計算します。
対話型可視化。内容は直前の本文と数式でも説明しています。

バイベクトルは「回転軸」より先にある

三次元の擬スカラーを $I=\vec e_x\vec e_y\vec e_z$ とすると、$I^2=-1$ です。有向面は $I$ を使って通常の外積ベクトルへ双対化できます。

\[ \vec a\times\vec b =(\vec a\wedge\vec b)I^{-1}, \qquad I^{-1}=-I \]

外積ベクトルは有向面に垂直な矢印として便利ですが、元の幾何学的対象は $\vec a$ と $\vec b$ が張る平面と向きを持つバイベクトルです。Canvasを回転すると、橙の面と紫の双対矢印が同じ情報を別の姿で表していることが分かります。

微分形式との対応は「同一」ではない

幾何代数の $k$-vector と微分形式の $k$-form は、計量を使ってベクトルと共変ベクトルを同一視すれば成分を対応させられます。しかし、両者の役割は同一ではありません。

見るもの幾何代数微分形式
局所の幾何積スカラー、ベクトル、バイベクトルを同じ代数で掛ける外積で次数を上げる
積分blade値の線素・面素と組み合わせられる曲線・面・体積への積分が定義の中心
計量幾何積に内積が組み込まれる外微分 $d$ から独立し、Hodge starへ入る
向きと密度擬スカラーと双対で表すstraight/twisted formを区別して向き反転を追う

幾何代数では twisted を別の型にしなくてよい

結論: 三次元ユークリッド空間で、各計算領域を右手系に固定する本教材では、twisted form専用のデータ型は持ちません。向きの情報は単位擬スカラー $I$ に保持し、向きを反転する写像をまたぐときだけ $\det(Q)$ の符号を一度入れます。

本教材では、各計算領域で右手系を一つ選び、その向きを表す単位擬スカラー

\[ I=\vec e_x\vec e_y\vec e_z, \qquad I^2=-1 \]

を使います。微分形式では twisted form を orientation bundle の値を持つ別の形式として区別しますが、三次元幾何代数では、向きに依存する量を $I$ を含むmultivectorとして同じ代数の中へ置けます。たとえば $W$ が通常のmultivectorなら、向き反転で余分な符号を受け取る量を $IW$ と書けば、直交変換 $Q$ に対して

\[ \underline Q(I)=\det(Q)I, \qquad \underline Q(IW)=\det(Q)I\,\underline Q(W) \]

となり、twisted formが担っていた parity は $I$ の符号へ入ります。したがって、右手系を使う各領域の内部では twisted という別のデータ型を持たず、普通のmultivectorだけで計算できます

計量と右手系の $I$ を選んだ後、本教材で用いる対応は次のようになります。twisted $p$-formを同じ次数の別型として保持する代わりに、$I$ による双対化を通してgrade $3-p$のmultivectorへ置きます。このため、構成関係で結ばれる量を同じgradeへそろえられます。

微分形式での分類幾何代数で保持するgrade代表的な物理量
straight 0-formgrade 0電位 $V$
straight 1-formgrade 1電界 $E$、磁気ベクトルポテンシャル $A$
straight 2-formgrade 2磁束密度 $B$
twisted 0-formgrade 3磁気スカラーポテンシャル $I\Phi_m$
twisted 1-formgrade 2磁界 $H$、磁化 $M$
twisted 2-formgrade 1電束密度 $D$、電流密度 $J$
twisted 3-formgrade 0選んだ体積要素に対する電荷密度・エネルギー密度の係数

ここでgrade 0へ置いたエネルギー密度の係数は、全エネルギーそのものではありません。全エネルギーは、係数と向き付き体積要素を組み合わせて領域積分した実数です。

ただし、向きの情報そのものが消えるわけではありません。鏡映やKelvin変換のように $\det(Q)<0$ となる写像をまたぐときは、$I$ の符号を一度だけ反映します。たとえばバイベクトル $B$ の双対を固定した右手系で軸性ベクトル $\vec b_{\mathrm{ax}}=BI^{-1}$ と表示すると、

\[ B'=\underline Q(B), \qquad \vec b_{\mathrm{ax}}' =B'I^{-1} =\det(Q)\,Q(\vec b_{\mathrm{ax}}) \]

です。$\det(Q)=-1$ のときだけ現れる負号が、微分形式で twisted と呼んで追跡する符号に対応します。

定式化領域内向きを反転する写像をまたぐとき
微分形式straight formとtwisted formを別に持つtwisted formのpullbackに向きの符号が入る
幾何代数同じmultivector代数で計算し、parityを $I$ に含める$\underline Q(I)=\det(Q)I$ を使って符号を入れる
本教材のFEM運用外部領域も変換領域も右手系、材料定数は正領域を結ぶ写像でだけ $\det(Q)$ の符号表を参照する

この意味で「幾何代数なら twisted は不要」です。これは、向き反転を無視してよいという意味ではなく、別の形式束として常時持つ代わりに、擬スカラー $I$ の変換則へ集約できるという意味です。向き付け不可能な空間(non-orientable manifold)を一つの大域的 $I$ で扱うことはできませんが、本教材で扱う右手系の外部領域・Kelvin変換領域にはこの整理を採用します。

可視化 F-8-2 向き反転の符号を擬スカラー $I$ が引き受ける

Canvasで切り替える変換は、向きを保つ回転と、向きを反転する鏡映です。擬スカラーの像は

\[ I'=\underline Q(I)=\det(Q)I \]

であり、固定した右手系の $I$ でバイベクトルを双対化した軸性ベクトルは

\[ \vec b_{\mathrm{ax}}' =B'I^{-1} =\det(Q)Q\!\left(BI^{-1}\right) \]

となります。左側の変換前と右側の変換後を比較してください。水色の $Q(BI^{-1})$ は双対を極性ベクトルのように変換した比較対象、紫の $B'I^{-1}$ は変換後のバイベクトルを固定した右手系で双対化した実際の軸性ベクトルです。鏡映では両者が逆向きになり、その差が式の $\det(Q)$ です。

着眼点

回転 $\det(Q)=+1$ と鏡映 $\det(Q)=-1$ で、$I$ と双対ベクトルのどちらに符号が現れるか確かめます。

操作

変換を切り替え、バイベクトル面の傾きを動かします。回転では右側の水色と紫が同方向、鏡映では逆方向になることを確かめます。

説明

鏡映では $I'=-I$ です。座標軸は右手系に固定したまま、$I$ を通した双対化が必要な負号を保持します。

向きと双対の符号を計算します。
対話型可視化。内容は直前の本文と数式でも説明しています。
変換前の $B$ と $BI^{-1}$ 変換後の $B'$ 比較用の $Q(BI^{-1})$ 固定右手系での $B'I^{-1}$

電磁気学で何が見やすくなるか

数値例題

$|\vec a|=2$、$|\vec b|=3$、$\theta=60^\circ$ とします。

\[ \vec a\cdot\vec b=2\cdot3\cos60^\circ=3, \qquad |\vec a\wedge\vec b|=2\cdot3\sin60^\circ=3\sqrt3 \]

幾何積は「$3$」だけでも「$3\sqrt3$」だけでもなく、grade 0とgrade 2を同時に持つ多重ベクトルです。

よくある誤解

確認問題

ヒントを見る

$\theta=90^\circ$ では $\cos\theta=0$ です。

解答を見る

内積が0になり、幾何積は純粋なバイベクトルになります。

ヒントを見る

向き反転で $\sin\theta$ の符号だけを追います。

解答を見る

有向面と双対ベクトルは反転しますが、$\cos\theta$ で決まる内積は変わりません。

ヒントを見る

計量を使う演算と、計量から独立な演算を分けます。

解答を見る

幾何積は計量を含みます。微分形式の外微分 $d$ は計量に依存せず、計量・材料はHodge starへ分離されます。

今回のまとめ

幾何積は内積と有向面を一つに保ち、外積を「面の双対」として理解させます。右手系を選んだ各領域では、twisted formを別の型として持たず、向きのparityを擬スカラー $I$ へ集約できます。微分形式は外微分、pullback、積分領域、離散複体を整理する言葉として併用します。

参考

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