3Dで学ぶ電磁気学
C-3 ビオ・サバールの法則
この回で身につける
到達目標
- $d\vec\ell'\times(\vec r-\vec r')$ から微小磁界の向きを判定できる。
- 電流経路上の寄与を加えて有限直線電流の磁界を求められる。
- 有限長から無限長公式とアンペールの法則への接続を説明できる。
前提知識
- 位置ベクトルと差ベクトル
- 外積の大きさと向き
- 線積分を「小さな寄与の和」と見る考え方
学習の順序
- 1つの電流素片が作る $d\vec B$ を確かめる。
- C-3-1~C-3-5で素片、観測点、線分長を動かす。
- 積分結果と無限長極限を式で確認する。
電磁気学の理解実験
微小電流要素の寄与を、向きまで含めて足せるか
観察ポイント: 一つの $I\,d\vec\ell'$ と評価点 $P$ を選び、$\vec R=\vec r-\vec r'$、$d\vec\ell'\times\vec R$、$d\vec B$ の向きを順に描く。電流を逆向きにした場合も考える。
操作: 電流経路上の源点を動かし、$\vec r'$ と $d\vec B$ が変わる様子を見る。C-3-2では有限直線の端点を、C-3-5では端点角と積分値を結ぶ。
観察した後に、外積と重ね合わせで説明する
$d\vec B=\mu_0I(d\vec\ell'\times\vec R)/(4\pi R^3)$ は $d\vec\ell'$ と $\vec R$ の両方に垂直で、各源点の寄与は方向を保ったまま積分する。近い要素ほど強いが、向きが異なる寄与は単純な大きさの和にはならない。
別問題へ: 任意形状コイルを短い線分へ分割し、各線分のベクトル寄与を加える数値積分として第8回へつなぐ。
この回で、第5回の平行電流間力を導くための二つ目の柱がそろいます。一方の直線電流が作る $\vec B$ をビオ・サバールの法則で求め、第6回の $d\vec F=I\,d\vec\ell\times\vec B$ へ代入すると、第5回の $F/L=\mu_0I_1I_2/(2\pi d)$ が得られます。第7回を終えたら、第5回へ戻って引力・斥力の向きまで説明してください。
可視化 C-3-1
ビオ・サバールの法則は、電流が作る磁界を「小さな電流要素が作る寄与の和」として考える法則である。観測点を位置ベクトル $\vec{r}$、電流経路上の点を位置ベクトル $\vec{r}'$ で表し、その点の微小な電流要素を $d\vec{\ell}'$ とする。
電流経路全体が作る磁束密度は、電流経路 $C$ に沿ってこの寄与を足し合わせたものである。
ここで $\vec{R}=\vec{r}-\vec{r}'$ は、電流経路上の点から観測点へ向かうベクトルである。$d\vec{B}$ の向きは、$d\vec{\ell}'\times\vec{R}$ で決まる。外積では、2つのベクトルを同じ始点に移して考え、2本が張る面に垂直な向きが結果の向きになる。
下の図では、反時計回りの円形電流上で、まず $+x$ 側の一素片だけを見る。$P$ は円の中心を通る青い破線の $z$ 軸上にある。$d\vec\ell'$ は $+y$ 方向、$\vec R$ は内向き成分と $+z$ 成分を持つため、右手系では $d\vec B$ が外向き成分と $+z$ 成分を持つ。素片の位置と $P$ の高さを直接動かし、$d\vec B\perp d\vec\ell'$ と $d\vec B\perp\vec R$ がどこでも保たれることを確かめよう。
読み方: $P$ は円形電流の中心軸上にあります。円周上のどこでも $d\vec\ell'$ は接線方向、$\vec R$ は素片から $P$ へ向かいます。外積 $d\vec\ell'\times\vec R$ は両方に垂直です。軸方向成分はどの素片でも $+z$、横成分だけが円周位置とともに回転します。
可視化 C-3-2
有限長の直線電流でも、考え方は同じである。電流を短い線分に分割し、それぞれの $d\vec{\ell}'$ が評価点 $P$ に作る $d\vec{B}$ を足し合わせる。
ここでは電流を $z$ 軸上に置き、評価点を電流から距離 $\rho$ だけ離した位置に置く。スライダーで線分長、評価点の距離、注目する電流素片を変えながら、$\vec{R}=\vec{r}-\vec{r}'$ と $d\vec{\ell}'$ の外積で $d\vec{B}$ の向きが決まる様子を確認しよう。
円形電流と違い、$+z$ 向きの直線電流では、どの素片でも $d\vec\ell'\times\vec R$ は同じ $+y$ 方向を向く。したがって有限直線ではベクトルの向きをそろえたまま大きさを足せる。ただし端点側の素片ほど $P$ から遠く、寄与は小さい。
読み方: $d\vec\ell'$ は常に $+z$、$\vec R$ の電流に垂直な成分は常に $+x$ なので、全素片の $d\vec B$ は $+y$ を向きます。端点側では $|\vec R|$ が増えるため大きさだけが減り、同方向の寄与が積分されます。
可視化 C-3-3
積分を実行する前に、対称性で消える成分を見抜く練習をしよう。円形コイルの中心軸上の点 $P$ を考え、ループ上の素片を「点 $\vec{r}'$ の素片」と「ちょうど反対側 $-\vec{r}'$ の素片」のペアで組にする。
2 つの素片が作る $d\vec{B}$ と $d\vec{B}'$ は、どちらも軸から同じ角度だけ傾いている。軸に垂直な成分は互いに逆向きで打ち消し合い、軸方向の成分だけが生き残る。ループ全体はこのようなペアの集まりなので、積分するまでもなく「軸上の $\vec{B}$ は軸方向を向く」ことがわかる。残った軸方向成分だけを足し合わせると、次の閉じた式が得られる。
ここで $a$ はループ半径である。中心 $z=0$ で最大値 $B_z(0)=\mu_0 I/(2a)$ をとり、遠方では $1/z^3$ で減衰する。この $1/z^3$ は磁気双極子の遠方場の減衰であり、コイルを遠くから見ると 1 つの「磁気モーメント」に見えることを先取りしている。
下の図では、スライダーで観測点の高さ $z$ と素片ペアの位置を動かせる。ペアの $d\vec{B}$(水色)の横成分が打ち消し合い、和(青)が常に軸方向を向くこと、そしてグラフ上で素片和の数値計算(赤点)が閉形式の曲線に乗ることを確かめよう。
読み方: 対向素片の横成分は等大逆向きなのでゼロ、軸成分は等大同方向なので加算されます。このペアが円周全体を作るため、合成磁界は軸方向だけです。赤点と青曲線の一致は、素片和と閉形式が同じ量を計算していることを示します。
可視化 C-3-4
可視化 C-3-2 の有限長直線の結果に戻り、線分をどんどん長くしてみよう。$\phi_1,\phi_2\to 0$ となって $\cos\phi_1+\cos\phi_2\to 2$ に近づくので、磁束密度は次の値に収束する。
これが無限に長い直線電流の磁場で、距離 $\rho$ に反比例する。下のグラフで、$L$ を伸ばすと $|\vec{B}|$ がこの漸近値(赤の破線)に飽和していく様子を確認しよう。
この式にはもうひとつ大事な読み方がある。値が「電流からの距離 $\rho$」だけで決まるので、半径 $\rho$ の円周上のどこでも $|\vec{B}|$ は同じであり、向きは右ねじの向きに円周に沿う。そこで $\vec{B}$ を円周に沿って一周積分すると
となり、半径 $\rho$ によらず、囲んだ電流 $I$ だけで決まる。ビオ・サバールの法則から出発して素片を足し合わせた結果が、この美しい形にまとまる——これが次回(第10回)のアンペールの法則である。
読み方: 対称な有限直線では $B/B_\infty=(L/\rho)/\sqrt{(L/\rho)^2+4}$ です。長さを伸ばすほど寄与は増えますが、遠い素片ほど弱いため比は1を越えず、無限長公式へ下側から近づきます。
可視化 C-3-5 講義演習:有限直線電流の端点角
観測点を線分から遠ざけると、端点角と $|\vec H|$ はどう変化するか。
距離 $l$ を変え、端点を結ぶ線、角度、磁界ベクトルを同時に見る。
距離因子 $1/l$ と $(\cos\phi_1+\cos\phi_2)$ の双方で変化を説明する。
観測点 $P$ を動かし、端点 $A,B$ から見込む角と有限長公式の対応を確認します。
例題と理解確認
数値例題
長さ $L=0.20\,\mathrm{m}$、電流 $I=5.0\,\mathrm{A}$ の直線導体の中点から、垂直距離 $\rho=0.020\,\mathrm{m}$ にある点の磁束密度を求める。両端を見込む角は $\alpha=\tan^{-1}(L/(2\rho))=\tan^{-1}5$ である。
同じ距離にある無限長電流の値 $5.00\times10^{-5}\,\mathrm{T}$ に近いが、有限長なので少し小さい。
よくある誤解
- $\vec R$ は原点から観測点へのベクトルではなく、電流素片 $\vec r'$ から観測点 $\vec r$ への差 $\vec r-\vec r'$ である。
- 電流経路の各点で $d\vec B$ の向きと大きさは異なるため、スカラーだけを足してはいけない。
- 有限長公式で端点角を落とすと、無限長電流の公式をどこでも使う誤りになる。
確認問題
- 電流の向きだけを反転すると、観測点の $\vec B$ はどう変わるか。
- 無限長直線電流からの距離を2倍にすると、磁束密度の大きさは何倍になるか。
- 対称な有限直線電流で $L\to\infty$ とすると、有限長公式はどの式へ近づくか。
問1のヒントを見る
ヒント: ビオ・サバールの式は電流 $I$ に比例する。
解答: 大きさは同じで向きが反転する。
問2のヒントを見る
ヒント: 無限長電流では $B\propto1/\rho$。
解答: 2分の1になる。
問3のヒントを見る
ヒント: $L/(2\rho)\to\infty$ なら $\alpha\to\pi/2$。
解答: $\sin\alpha\to1$ なので、$B=\mu_0I/(2\pi\rho)$ へ近づく。
今回のまとめ
- 微小寄与は $d\vec\ell'\times(\vec r-\vec r')/|\vec r-\vec r'|^3$ で決まる。
- 電流経路全体の磁界は、向きを持つ微小寄与の線積分である。
- 有限長公式の端点角を極限へ送ると無限長直線電流の式を得る。