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機能光回路研究室は光ファイバと光の専門家を育てます

理工学部電気電子通信工学科

大学院総合理工学研究科

研究の概要機能光回路研究室で進めていること
光ファイバを利用した各種の光源装置、部品、計測技術等の研究を進めています。特にファイバレーザーの開発を目的して、応用技術まで見据えた研究を進めています

ファイバレーザ

光ファイバ通信を行う上で、光ファイバの損失や分岐損失などを補償するために、光を増幅する光ファイバを利用した光増幅技術が開発されました。現在、この技術は、光ファイバアンプあるいはErドープファイバアンプ(EDFA)と呼ばれ、今日のインターネット環境を支えるために不可欠な役割を担っています。
光を増幅するファイバを用いて、例えばファイバをリング状に接続してファイバ内に光を閉じ込めれば、レーザーを作ることができます。それがファイバレーザーです。
もとも、光ファイバは光を閉じ込めて伝えるための線路ですので、レーザーを発振させるために不可欠なレーザー共振器の作製が極めて容易で、卒業研究の学生でも簡単にレーザーを作ることができます。

ファイバレーザーの高出力化

コヒーレント共振器結合方式

単一のファイバレーザーから得られるレーザー出力は低いので、単一のファイバコアから得られる出力を高くするために、いくつかの技術が開発されています。
アイデアとして、複数のファイバレーザー出力を一つのファイバに合流させることができれば高出力化ができそうです。しかし、光は波なので、水道のパイプをY型のブランチで一本にまとて水量を増やす様に、簡単にレーザーの出力を高めることはできません。
そこで、複数のファイバレーザーが発生する光の位相関係を調整して、複数のレーザー共振器があたかも単一の共振器であるかのごとく振る舞わせ、それらの光出力を1本のファイバに結合させ、高出力化しようとするのがコヒーレント共振器結合です。
これまでも、コヒーレント共振器結合するファイバレーザーの数を増やして高出力化を進める研究を行ってきましたが、その過程でいくつもの問題点を発見しました。例えば、結合するファイバレーザーの数が4程度を越えると、時間軸上および偏波特性上の不安定性が生じ、実用的なレーザーの開発が難しいことがわかってきました。
現在、これらの問題を解決するための研究を展開しています。

コヒーレント加算方式

ファイバのコアは断面積が小さく、かつ導波路長が長いために非線形性が発現しやすく、大きな出力を得ることが困難です。そこで、単一のレーザー光を複数のファイバに分岐し、それぞれのファイバに設けた光増幅器により光強度を高め、出力近傍で再び単一のファイバに合波(加算)する技術を開発しています。波長1.55μmの光を合波するために必要な、ファイバ長を20nm程度で高精度に制御する高度な技術を、ファイバの特徴を生かしたアイデアで練りあげ、意外なほど簡便な手法で実現させています。

 コヒーレント共振器結合、コヒーレント加算による最新の成果を掲載する予定です。

波長多重方式

一般的な光ファイバは、石英系のガラスで作られています。ファイバに増幅能力を付与するため、希土類元素をドーピングすると、広くて連続した波長の増幅帯域を作り出すことができます。この特性を利用して、波長多重レーザーを開発しました。
光通信分野で用いられる波長合分波器(AWG:Arrayed Waveguide Grating:アレイ導波路回折格子)を利用して、多数のファイバレーザーをつなぎます。AWGを介して出力結合鏡を単一化することにより、ファイバレーザー各々が、接続されたAWG各ポートにとって最適な(ポートごとに異なる)波長で発振し、最終的に単一の合波ポートに波長の異なる発振出力が集合する方式を開発しました。
加工に用いる様な高出力化には、AWGではパワー耐力が不十分ですが、回折格子などを用いて同様の構成を実現すれば、単一ファイバ出力の高出力化が可能と考えています。

パルスファイバレーザー

光を増幅するためのファイバは、電気部品にたとえるとコンデンサの様に光のエネルギーを蓄積する能力を有しています。蓄積したエネルギーを短時間に放出させれば、その瞬間に高いエネルギーを持つ光パルスを発生させることができます。


ノイズライクパルス

フェムト秒領域の単パルス(下記参照下さい)が、集団になって発生する新しいパルスレーザーです。
集団となっているパルスの包絡線はナノ秒領域です。その内部はフェムト秒のパルスで構成されているので、広いスペクトルを持っています。
一方で、時間幅が広いので、同一のエネルギーを発生させるために必要なパルスの最大出力が低く抑えられるなどの特徴が有ります。
また、機能光回路研究室では、この光パルスを高い安定性で長時間にわたり連続発振させる技術を開発しました。


         ノイズライクパルスの原理図


       高速なオシロスコープで測定した時間波形
       (図の時間幅は1.3ナノ秒。20ナノ秒程度まで作り出せます)

スーパーコンティニウム光

上記のノイズライクパルスは、非線形な光学効果を生じやすい特長を持ちます。その性質を利用して、ノイズライクパルスを非線形性の高い光ファイバに伝搬させることで、従来技術では得られなかった広い波長域を持つ高安定な光源の開発に成功しました。
白熱電球から得られる光は波長域が広くかつ平坦ですが、フィラメントの表面積あたりの光パワーが低いため、高い出力を利用することはできません。
開発した光源から得られた波長は、1200nmから2100nmと広範囲であるとともにとても安定で、1時間経過後も標準偏差が0.01デシベル(0.23%程度)であり、光を利用した高精度な測定を短時間で実現することが可能になります。
レーの特長は、スペクトル幅の狭さ(線幅の狭さ)が特徴ですが、この光源はレーザーでありながら広いスペクトルと高出力を光ファイバの狭いコアから得ることができます。(コアの直系は10μm程度)


      開発したスーパーコンティニウム光のスペクトル
      1400nmと1900nm付近は空気中の水による吸収

なお、この光源は株式会社オプトクエスト社様から製品としてリリースされています。

短パルスレーザー

増幅用光ファイバと通常の光ファイバをリング状に接続し、リングの中を光が巡回できる様にします。ファイバリングの波長分散を調整し、大きな光パルスが発生するとその瞬間に生じる非線形な屈折率の変化を利用して短パルスを発生させています。
現在、波長1550nm帯において、パルス幅100fs (100フェムト秒:10兆分の1秒)前後の極めて短い時間幅の光パルス発生を安定的に得られています。100fsは、電磁波である光が20回程度しか振動しない、とても短い時間です。この技術をベースに、以下の研究を進めています。

パルス制御技術の開発
 開発したパルスレーザーは、パルス幅の制御が可能であり、ファイバを利用したパルス幅可変のレーザー開発を
 進めています。

安定なパルスレーザーの開発
 広い温度範囲、宅配便輸送、長時間の運用に耐えられる、高安定なレーザー装置の開発に成功しています

フェムト秒パルスのコヒーレント加算
 非線形性により高出力化が困難なファイバ中の短パルスを、一旦二本のファイバに分岐して増幅した後、光の干渉
 を利用して再び一つのファイバに合波します。10nm程度の高いファイバ長の制御技術を開発しました。



   パルス幅130フェムト秒の極短光パルスの自己相関波形 (青い線はsech2型近似波形)


高出力パルス光源

増幅用光ファイバ中に、通常のパルスレーザーよりも長い時間蓄積させた光を、1ns(1ナノ秒:10億分の1秒)程度の短い時間で取り出すことによってパルスの瞬間的なパワーを高める研究を行っています。これまでに、ピークパワーとして10kWの出力を得ることに成功しています。
光ファイバの中で光が伝わる直径は10μm (1/100mm)程度しかないので、このようなパワーがファイバ中を伝搬すると、複数の非線形効果が発生し、光の伝搬を妨げます。それらを解決し、小さなコアから輝度(単位面積あたりの出力)の高いレーザーを得るための研究を進めています。
一方、狭いコアから得られる横単一モードの出力なので、直径10μm以下に集光することが可能となり、10kWのピーク出力を持つパルスを集光すると、概ね13GW/cm2の極めて高い輝度を得ることが可能となります。
このレーザーの加工応用に関して、下記の「加工などの応用技術」に記載しております。


計測技術の開発

高出力レーザー計測

特に、産業用途で用いられる高いパワーを出力するレーザーのパワー測定には、光を熱に変えて、その熱エネルギーからレーザーのパワーを評価する方法が用いられています。
この技術は、光通信用の光パワー測定技術と比較すると、精度が低く、反応が遅いので、改善を行いたいと考えています。しかしながら、通信用の光測定技術は、高くても1W程度の光出力を測ることしか考えられていません。
そこで、高いパワーの光を安全に精度良く、かつ高い応答性を以て測定するパワー測定技術の開発を進めています。現在、プロトタイプとして数百ワット程度のパワーを精度良く減衰させるための光減衰器を開発し、半導体素子を用いて光を直接電気に変換し、光パワーを測定する技術にめどを付けております。
この技術は、レーザー装置の調整などを行う際に役立つものと考えています。

モードフィールド径の計測

光ファイバ特性には、コア径、クラッド径、コアとクラッドの比屈折率差(屈折率差から求めます)、遮断波長、開口数等多くの項目があります。コア径や比屈折率差を直接測定するには大変大がかりな装置が必要となりますが、開口数と遮断波長は比較的容易に測定でき、これらから規格化周波数も概ね計算できます。さらに、光ファイバ出射端面における光の広がり径の指標であるモードフィールド径を測定できれば、コア径を予想することが可能となり、光ファイバの特性に関する重要な指標を得ることができます。
現在、通信波長域で使用可能な赤外領域の拡大光学系を作製し、赤外線ビジコンを組み合わせることで光のパワー分布の近視野像を測定し、モードフィールド径を計算する測定装置ならびに、ファイバから離れた位置における光パワー分布を評価して、その結果からモードフィールド径を計算により求める方法の2種類を試作し、利用しています。


レーザー加工などのレーザー応用技術

高出力ナノ秒パルスレーザーによる加工

数kW以上のピークパワーを持つナノ秒のパルス光源をレンズで集光すると、輝度が数GW/cm2と極めて高くなります。これを用いて金属などを加工すると、ナノ秒という比較的長いパルスのレーザーでも、直径10μm程度の微細な穴を精密に、深く、かつ周辺への熱影響が少ない状態で加工できます。しかも、本パルスレーザーが発生している平均パワーは100mWとわずかです。この技術の応用を検討しています。
このレーザーを利用すると、下の写真に示す様な興味深い加工が可能となります。左の写真は、ステンレスの穴開け加工の結果です。加工周辺部において溶融などの熱影響がほとんど発生してない加工となっています。右の写真は厚さ54μmのタングステン薄板に穴開け加工を行い、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したものです。穴径の5倍程度の深穴加工となっています。〈三菱電線工業(株)において実施した研究成果です〉
         
      SUSへの加工(レーザー照射側)   タングステン薄膜への高アスペクト比加工

材料改質

大阪大学接合科学研究所スマートビームプロセスセンターの阿部准教授、塚本准教授と共に、レーザーを用いた酸化チタン(TiO2)膜の電気伝導度制御を進めています。パルスレーザーを照射すると、レーザーの条件や雰囲気の状態によってTiO2の電気伝導度を制御できること、ならびのその原因が酸素欠陥に起因するらしいことがわかりつつあります。これにより、電流を流すチャネルの書き込みや、TiO2の機能制御などが可能になるものと考えています。


共同研究

現在、大阪大学レーザーエネルギー学研究センター様、大阪大学接合科学研究所様、レーザー技術総合研究所様と共同研究を進めております。
また、いくつかの企業様からも共同研究のお申し込みを頂き、予算ならびに機材などのご支援を頂いております。
心よりお礼申し上げます。
詳細は共同研究のページを御覧下さい。


バナースペース

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