3Dで学ぶ電磁気学

C-9 コイルが作る磁位

この回で身につける

到達目標

  • 電流のない領域で磁界を磁気スカラーポテンシャルから求められる。
  • 電流ループの磁位を有向立体角で表せる。
  • 切断面での跳びと複数コイルの重ね合わせを説明できる。

前提知識

  • 第12回の有向立体角
  • 保存場と勾配 $\vec H=-\nabla\phi_m$
  • 線形な重ね合わせ

学習の順序

  1. 電流をリンクする閉路で磁位の枝を確かめる。
  2. C-9-1で主値・連続化枝・循環を比較する。
  3. C-9-2で複数コイルの重ね合わせへ進む。

電磁気学の理解実験

電流のない場所で磁位を使えても、空間全体で一価にできるか

観察ポイント: 観測点を電流ループと一度リンクする閉路に沿って一周させると、同じ場所へ戻った磁位、磁界、アンペール循環はどうなるか。

操作: 観測点を閉路に沿って動かし、切断面の直前・直後・一周後で、主値、連続化した枝、循環を比較する。電流路そのものは電流のない領域に含めない。

観察した後に、切断面と循環で説明する

電流のない単連結領域では $\nabla\times\vec H=0$ から $\vec H=-\nabla\phi_m$ と書ける。しかしループを一周する経路を縮められない領域では磁位は多価で、選んだ切断面を横切ると $I$ だけ跳ぶ。勾配から得る $\vec H$ は切断の選択に依存しない。

別問題へ: 「curlがゼロなら必ず大域的な単一値ポテンシャルがある」とせず、領域の穴とAmpère循環を確認する。

可視化 C-9-1 多価磁位の枝とアンペール循環

電流が流れていない局所領域では、磁界を

\[ \vec H=-\nabla\phi_m, \qquad \phi_m(P)=\dfrac{I}{4\pi}\Omega(P) \]

と書ける。しかし、電流ループ $C$ と一度リンクする閉路上では、$\nabla\times\vec H=\vec0$ でも磁位を大域的な一価関数にはできない。

半径 $a$ の電流ループを $z=0$ に置き、ループ上の点 $(a,0,0)$ を囲む半径 $b=0.48a$ の観測閉路を

\[ \vec\gamma(s) = \left( a+b\cos 2\pi\left(s+\dfrac14\right), 0, b\sin 2\pi\left(s+\dfrac14\right) \right), \qquad 0\le s\le1 \]

とする。この閉路は電流を一度リンクし、$s=s_c=0.25$ でループが張る切断面 $S$ を一度だけ横切る。主値の規格化磁位 $\Psi_{\mathrm p}=\phi_{m,\mathrm p}/I=\Omega_{\mathrm p}/(4\pi)$ は切断面で $+1$ 跳ぶ。一方、跳びの後で1を引いた連続化枝

\[ \Psi_{\mathrm u}(s) = \begin{cases} \Psi_{\mathrm p}(s), & s\lt s_c,\\ \Psi_{\mathrm p}(s)-1, & s\gt s_c \end{cases} \]

は一周後に1だけ減る。したがって

\[ \dfrac1I\oint_\gamma\vec H\cdot d\vec\ell = -\left[\Psi_{\mathrm u}(1)-\Psi_{\mathrm u}(0)\right] =1 \]

となる。切断面で跳ぶのは選んだ磁位の枝であり、物理場 $\vec H$ ではない。

s = 0.00
● 電流ループ$C,I$■ 切断面$S$━ 観測閉路$\gamma$━ 進んだ区間→ 連続な$\vec H$
対話型可視化。内容は直前の本文と数式でも説明しています。

主値・連続化枝・循環を同じ進行度で照合する

青は切断面で跳ぶ主値 $\Psi_{\mathrm p}$、橙は切断面を越えて連続に追跡した $\Psi_{\mathrm u}$、緑は $-\Delta\Psi_{\mathrm u}$、すなわち現在位置までの規格化循環を表す。$s=1$ では観測点は出発点と同じ場所へ戻るが、連続化した磁位は1だけ異なる。

━ 主値 $\Psi_{\mathrm p}$━ 連続化枝 $\Psi_{\mathrm u}$━ $\int_0^s\vec H\cdot d\vec\ell/I$-- 切断面 $s_c=0.25$
対話型可視化。内容は直前の本文と数式でも説明しています。

可視化 C-9-2 講義演習:立体角と2コイルの重ね合わせ

着眼点

観測点が張る面を横切ると磁位はどう跳び、同方向の2コイルではどこで強め合うか。

操作

単一・2コイルを切り替え、半間隔 $d$ と観測点 $(x,z)$ を動かす。

説明

有向立体角の符号と磁位の重ね合わせから、磁界を $-\nabla\phi_m$ で読む。

単一コイルでは観測点を表側から裏側へ通し、向き付き立体角と磁位の符号反転を追います。2コイルへ切り替えると、中心軸を共有して $x=\pm d$ に置いた同方向電流の円形コイルを磁気双極子近似し、観測点を動かしながら磁位と磁界を重ね合わせます。この近似は観測距離がコイル半径より十分大きい範囲で使います。

\[ d\Omega=\dfrac{\vec n\cdot\vec R}{R^3}\,dS \]
\[ \phi_m(P)=\dfrac{I}{4\pi}\Omega(P) \]
\[ \phi_m(x,z)=\dfrac{m}{4\pi} \sum_{\xi\in\{-d,+d\}} \dfrac{x-\xi}{\left[(x-\xi)^2+z^2\right]^{3/2}} \]
\[ \vec H(x,z)=-\nabla\phi_m(x,z) =\vec H_{-d}(x,z)+\vec H_{+d}(x,z) \]
対話型可視化。内容は直前の本文と数式でも説明しています。

例題と理解確認

数値例題

半径 $a$ の円形コイルを、軸上の $z=a$ から見る。$z>0$ 側で円板が張る有向立体角を

\[ \Omega(z)=2\pi\left(1-\dfrac{z}{\sqrt{z^2+a^2}}\right) \]

とすると、$z=a$ では $\Omega=2\pi(1-1/\sqrt2)\simeq1.84\,\mathrm{sr}$ である。したがって磁位は $\phi_m=I\Omega/(4\pi)\simeq0.146I$ となる。

よくある誤解

確認問題

  1. 磁気スカラーポテンシャルを使える局所条件を、$\nabla\times\vec H$ で答えよ。
  2. 電流ループの向きを反転すると、$\phi_m$ と $\vec H$ はどう変わるか。
  3. 観測点が選んだ張る面を横切るとき、磁位はどれだけ跳ぶか。
問1のヒントを見る

ヒント: 勾配場の回転は0である。

解答: 電流のない領域で $\nabla\times\vec H=\vec0$ となることが必要で、そこで $\vec H=-\nabla\phi_m$ と書ける。

問2のヒントを見る

ヒント: $\phi_m=I\Omega/(4\pi)$。

解答: 電流 $I$ の符号が反転するため、磁位も磁界も向きが反転する。

問3のヒントを見る

ヒント: 有向立体角は張る面を横切ると $4\pi$ 変化する。

解答: $\Delta\phi_m=I\Delta\Omega/(4\pi)=\pm I$ だけ跳ぶ。符号は面の向きと横切る向きで決まる。

今回のまとめ