3Dで学ぶ電磁気学

C-10 ベクトルポテンシャル

この回で身につける

到達目標

  • $\vec B=\nabla\times\vec A$ を成分で計算できる。
  • 異なるゲージの $\vec A$ が同じ $\vec B$ を作ることを説明できる。
  • $\nabla\cdot\vec B=0$、閉曲線積分、$A$-$\phi$ 法を関連付けられる。

前提知識

  • 勾配・発散・回転
  • 線積分とStokesの定理
  • 時間変化する電磁場の基本量

学習の順序

  1. ゲージを変えても何が不変か確かめる。
  2. C-10-1~C-10-4で $\vec A$ とcurlを比較する。
  3. 局所式と閉曲線積分の両方で説明する。

電磁気学の理解実験

$\vec A$ の矢印が変わっても、同じ $\vec B$ になり得るのはなぜか

観察ポイント: $\vec A$ へ $\nabla\psi$ を加えたとき、各点の $\vec A$、$\nabla\times\vec A$、閉路積分 $\oint_C\vec A\cdot d\vec\ell$ がどう変わるか。

操作: C-10-1〜C-10-3で異なるゲージの矢印を同じ視点から比較し、C-10-4でゲージ項を変えても磁束密度と閉路積分が保たれるかを見る。

観察した後に、curlとStokesの定理で説明する

$\vec A' =\vec A+\nabla\psi$ では $\nabla\times\vec A'=\vec B$ のままである。さらに $\oint_C\nabla\psi\cdot d\vec\ell=0$ なので、$\oint_C\vec A\cdot d\vec\ell=\int_S\vec B\cdot\vec n\,dS$ も変わらない。

別問題へ: 数値解析ではゲージ条件が一意性と線形方程式の解きやすさに関わるが、観測可能な $\vec B$ を変えてはならない。

可視化 C-10-1

同じ磁束密度 $\vec{B}=B_0\vec{e}_z$ を作るベクトルポテンシャルは一意ではない。たとえばランダウゲージでは

\[ \vec{A}_{\mathrm{L}} = B_0 x\,\vec{e}_y, \qquad \nabla\times\vec{A}_{\mathrm{L}} = B_0\vec{e}_z \]
\[ A_x=0,\qquad A_y=B_0x,\qquad A_z=0 \]

となる。下の図では、赤が $\vec{A}_{\mathrm{L}}$、青が同じ向きにそろう $\vec{B}$ を表している。$\vec{A}$ は $x$ に比例して $\vec{e}_y$ 方向へ伸びるが、その回転として現れる $\vec{B}$ は $+z$ 方向で一定になる。

対話型可視化。内容は直前の本文と数式でも説明しています。

可視化 C-10-2

同じ $\vec{B}=B_0\vec{e}_z$ は、対称ゲージでも表せる。

\[ \vec{A}_{\mathrm{S}} = \dfrac{B_0}{2} \left( -y\,\vec{e}_x + x\,\vec{e}_y \right), \qquad \nabla\times\vec{A}_{\mathrm{S}} = B_0\vec{e}_z \]
\[ \vec{A}_{\mathrm{S}} - \vec{A}_{\mathrm{L}} = \nabla\chi, \qquad \chi=-\dfrac{B_0xy}{2} \]

ランダウゲージと対称ゲージでは赤い $\vec{A}$ の形が違う。しかし $\nabla\times\vec{A}$ で得られる青い $\vec{B}$ は同じである。このように、ベクトルポテンシャルにはゲージの自由度がある。

対話型可視化。内容は直前の本文と数式でも説明しています。

可視化 C-10-3

磁束密度 $\vec{B}$ は、ベクトルポテンシャル $\vec{A}$ を用いて $\vec{B}=\nabla\times\vec{A}$ と表せる。ここでは、$+z$ 方向に流れる無限長直線電流を例に、ベクトルポテンシャルと磁束密度の対応を確認する。

円筒座標 $(r,\theta,z)$ では、ベクトルポテンシャルを $\vec{A}(r)=A_z(r)\vec{e}_z$ とおける。基準半径を $r_0$ とすると、$A_z(r)=\dfrac{\mu_0 I}{2\pi}\ln\dfrac{r_0}{r}$ と表せる。

このとき、磁束密度は $\vec{B}(r)=\nabla\times\vec{A}=B_\theta(r)\vec{e}_{\theta}$ であり、$B_\theta(r)=-\dfrac{\partial A_z}{\partial r}=\dfrac{\mu_0 I}{2\pi r}$ となる。つまり、$z$ 方向に向く $\vec{A}$ の半径方向の変化が、周方向に回る $\vec{B}$ を作る。

\[ \vec{A}(r) = \dfrac{\mu_0 I}{2\pi} \ln\dfrac{r_0}{r}\,\vec{e}_z \]
\[ \vec{B}(r) = \nabla\times\vec{A} = \dfrac{\mu_0 I}{2\pi r}\vec{e}_{\theta} \]

下の図では、緑が直線電流、赤が5つの高さの面に描いた $\vec{A}=A_z\vec{e}_z$、青が $\vec{B}=B_\theta\vec{e}_{\theta}$ の磁束線を表している。赤の矢印長と、青い磁束線上の矢印長は、それぞれの大きさの対数値に比例させている。

対話型可視化。内容は直前の本文と数式でも説明しています。

磁界解析では、Zoltan Cendesらが実用化を進めた有限要素法でも $\vec A$ が主要な未知量として使われます。$\vec A$ は補助的な計算量にとどまらず、閉曲線に沿う積分が磁束と量子力学的な位相差へ結び付きます。

\[ \oint_C\vec A\cdot d\vec l =\int_S(\nabla\times\vec A)\cdot d\vec S =\int_S\vec B\cdot d\vec S =\mathit{\Phi}_B \]
\[ \Delta\varphi=\dfrac{q}{\hbar}\oint_C\vec A\cdot d\vec l =\dfrac{q}{\hbar}\mathit{\Phi}_B \]

ゲージ変換で $\vec A$ 自体は変わっても、閉曲線積分と観測される位相差は変わりません。

可視化 C-10-4 講義演習:$\vec A$、ゲージ、$A$-$\phi$ 法をつなぐ

着眼点

$\vec A$ に勾配を加えたとき、$\vec A$、$\vec B$、閉曲線積分のどれが変わるか。

操作

ゲージ、3つのcurl、div curl、$A$-$\phi$ 法を切り替える。

説明

$\nabla\times\nabla\chi=0$ とStokesの定理で、不変量を局所・積分の両面から説明する。

勾配場を加えてベクトルポテンシャルの矢印を変え、磁束密度が変わらないことを確認します。講義演習の3つの $\vec A$ を切り替えて $\nabla\times\vec A$ を比較し、隣接セルの磁束が相殺して $\nabla\cdot(\nabla\times\vec A)=0$ となることも確かめます。

\[ \vec A'=\vec A+\nabla\chi \]
\[ \nabla\times\vec A'=\nabla\times\vec A=\vec B \]
\[ \vec A_1= \begin{bmatrix}-B_0y\\0\\0\end{bmatrix},\quad \vec A_2= \begin{bmatrix}-B_0y/2\\B_0x/2\\0\end{bmatrix},\quad \vec A_3= \begin{bmatrix}(-B_0y+B_0x)/2\\(B_0x+B_0y)/2\\B_0z/2\end{bmatrix} \]
\[ \nabla\times\vec A_1 =\nabla\times\vec A_2 =\nabla\times\vec A_3 =B_0\vec e_z, \qquad \nabla\cdot(\nabla\times\vec A)=0 \]

時間変化する導体系では、ベクトルポテンシャルと電気スカラーポテンシャルを併用する $A$-$\phi$ 法で電界と電流密度を表します。

\[ \vec E=-\dfrac{\partial\vec A}{\partial t}-\nabla\phi, \qquad \vec J=\sigma\vec E \]
\[ \nabla\times\left(\nu\nabla\times\vec A\right) =\vec J_s+\sigma\left(-\dfrac{\partial\vec A}{\partial t}-\nabla\phi\right) \]
対話型可視化。内容は直前の本文と数式でも説明しています。

例題と理解確認

数値例題

一様磁場 $\vec B=B_0\vec e_z$ に対し、$\vec A=(0,B_0x,0)$ を選ぶ。さらに $\chi=\lambda xy$ を加えたゲージ変換を考える。

\[ \vec A'=\vec A+\nabla\chi =(\lambda y,\,B_0x+\lambda x,\,0) \]
\[ \nabla\times\vec A' =\left(0,0,\dfrac{\partial A'_y}{\partial x}-\dfrac{\partial A'_x}{\partial y}\right) =(0,0,B_0) \]

$\lambda$ を変えると $\vec A'$ の矢印は変わるが、$\vec B$ は変わらない。

よくある誤解

確認問題

  1. $\vec A'=\vec A+\nabla\chi$ で $\vec B$ が変わらない理由を答えよ。
  2. $\vec B=\nabla\times\vec A$ と置くと $\nabla\cdot\vec B=0$ が自動的に満たされるのはなぜか。
  3. 時間変化する導体問題で、$\vec E$ を $\vec A$ と $\phi$ から表せ。
問1のヒントを見る

ヒント: 勾配の回転を計算する。

解答: $\nabla\times\nabla\chi=\vec0$ なので、$\nabla\times\vec A'=\nabla\times\vec A=\vec B$ となる。

問2のヒントを見る

ヒント: 発散と回転の恒等式を使う。

解答: 十分滑らかな場では $\nabla\cdot(\nabla\times\vec A)=0$ が恒等的に成り立つためである。

問3のヒントを見る

ヒント: 誘導電界と静電的な電界を足す。

解答: $\vec E=-\partial\vec A/\partial t-\nabla\phi$。導体では $\vec J=\sigma\vec E$ へつながる。

今回のまとめ