3Dで学ぶ電磁気学
A-4 円筒座標・球座標の単位ベクトル
この回で身につける
到達目標
- 円筒座標と球座標の三つの単位ベクトルを右手系で描ける。
- 観測点を動かしたとき、局所基底がどのように回転するか説明できる。
- 尺度因子から線素、面積要素、体積要素を組み立てられる。
前提知識
- 直交座標の単位ベクトル
- 内積、外積、右手系
- 円弧長 $r\,d\theta$
学習の順序
- 点 $P$ を動かす前に基底の向きを確かめる。
- 円筒座標と球座標の三脚を別々に操作する。
- 矢印の変化を線素と尺度因子の式へ戻す。
電磁気学の理解実験
座標を変えると、物理ベクトルまで別物になるか
観察ポイント: 円筒座標で $r,z$ を固定して $\theta$ だけ増やすと、$\vec e_r,\vec e_\theta,\vec e_z$ のどれが回転するか。球座標では極に近づくと方位方向の微小長さがどうなるか。
操作: 点 $P$ を動かし、基底の向きと尺度因子 $r$、$r\sin\vartheta$ を同時に読む。三脚が常に右手系で直交することも確かめる。
観察した後に、線素で説明する
座標基底は場所とともに回るが、物理ベクトルそのものは座標表示に依存しない。円筒座標の線素は $d\vec\ell=\vec e_rdr+\vec e_\theta r\,d\theta+\vec e_zdz$、球座標の方位方向は $r\sin\vartheta\,d\varphi$ である。
別問題へ: 点電荷には球座標、直線電流には円筒座標を選び、対称性によって残る成分を先に判定する。
直交座標の $\vec{e}_x,\vec{e}_y,\vec{e}_z$ は場所を変えても向きが変わらない。一方、円筒座標と球座標の単位ベクトルは、観測点 $P$ の位置に合わせて回転する。ここでは、三つの単位ベクトルを点 $P$ の中心に置き、角度を動かしながら右手系と尺度因子を確認する。
本教材の円筒座標は、これまでの表記を保って $(r,\theta,z)$ とする。球座標では円筒座標の $\theta$ と混同しないよう、極角を $\vartheta$、方位角を $\varphi$ と書く。教科書の球座標 $(r,\theta,\varphi)$ では、本教材の $\vartheta$ が教科書の $\theta$ に対応する。
可視化 A-4-1 円筒座標の $\vec{e}_r,\vec{e}_\theta,\vec{e}_z$
円筒座標では、$\theta$ を $+z$ 軸側から見て反時計回りに測る。$\vec{e}_r$ は $z$ 軸から外へ向かい、$\vec{e}_\theta$ は $r$ 一定の円に接し、$\vec{e}_z$ は高さが増える向きである。
三つの微小移動を足すと、円筒座標の線素が得られる。角度を $d\theta$ だけ変えた実際の移動距離が $r\,d\theta$ になることが、尺度因子 $r$ の意味である。
$\theta$ だけを変えたとき、どの基底が回転し、どの基底が変わらないかを先に考える。
$r,\theta,z$ を動かし、点 $P$ と三つの矢印の向きを別々に追う。
$\vec{e}_r\times\vec{e}_\theta=\vec{e}_z$ と内積ゼロを、表示された直交三脚で確かめる。
可視化 A-4-2 球座標の $\vec{e}_r,\vec{e}_\vartheta,\vec{e}_\varphi$
球座標では、極角 $\vartheta$ を $+z$ 軸から下向きに測り、方位角 $\varphi$ を $+z$ 軸側から見て反時計回りに測る。$\vec{e}_r$ は球面の法線、$\vec{e}_\vartheta$ は子午線の接線、$\vec{e}_\varphi$ は緯線の接線である。
球面上では、極角方向の移動距離は $r\,d\vartheta$、方位角方向の移動距離は緯線の半径 $r\sin\vartheta$ を使って $r\sin\vartheta\,d\varphi$ となる。極では $\sin\vartheta=0$ なので、方位角を変えても同じ点に留まる。
$\vartheta$ を $0$ に近づけたとき、緯線と $\vec{e}_\varphi$ の位置関係がどう見えるか考える。
$r,\vartheta,\varphi$ を動かし、球面の法線、子午線接線、緯線接線を見分ける。
$r\sin\vartheta$ が緯線半径になることを、球面上の円と線素の式へ戻して説明する。
円筒座標と球座標を混同しないために
円筒座標の $\vec{e}_z$ はどこでも同じ向きだが、球座標の三基底はすべて位置とともに回転する。また、同じ方位角の位置では、円筒座標の $\vec{e}_\theta$ と球座標の $\vec{e}_\varphi$ は同じ接線方向を向く。
尺度因子を掛け合わせれば面積要素と体積要素も得られる。Canvasで $r$ や $\vartheta$ を動かしたとき、円周や緯線の大きさが変わる様子と次式を対応させよう。
例題と理解確認
数値例題
円筒座標で $r=2.0\,\mathrm{m}$、$dr=0.10\,\mathrm{m}$、$d\theta=0.050\,\mathrm{rad}$、$dz=0.20\,\mathrm{m}$ の微小移動を考える。
角度増分 $d\theta$ は無次元だが、実際の周方向移動には尺度因子 $r$ を掛ける必要がある。
よくある誤解
- 円筒座標の $\vec e_r$ と球座標の $\vec e_r$ は、記号が同じでも一般には同じ向きではない。
- $d\theta$ や $d\varphi$ は距離ではない。実距離へ直すには $r$ や $r\sin\vartheta$ を掛ける。
- 軸上や極で座標基底が一意に決まらないことは、物理場そのものが発散することを意味しない。
確認問題
- 円筒座標で $\vec e_r\times\vec e_\theta$ はどの向きか。
- $r=2.0\,\mathrm{m}$ の円周上で $d\theta=0.10\,\mathrm{rad}$ だけ進むときの移動距離を求めよ。
- 球座標で $r=3.0\,\mathrm{m}$、$\vartheta=30^\circ$、$d\varphi=0.020\,\mathrm{rad}$ のとき、方位角方向の移動距離を求めよ。
問1のヒントを見る
ヒント: $+z$ 側から見た反時計回りを正の $\theta$ とする。
解答: $\vec e_r\times\vec e_\theta=\vec e_z$ である。
問2のヒントを見る
ヒント: 円弧長は $r\,d\theta$。
解答: $(2.0)(0.10)=0.20\,\mathrm{m}$。
問3のヒントを見る
ヒント: 緯線の半径は $r\sin\vartheta$。
解答: $(3.0)\sin30^\circ(0.020)=0.030\,\mathrm{m}$。
今回のまとめ
- 曲線座標の単位ベクトルは観測点とともに向きを変える。
- 右手系と直交性は、Canvasの三脚と外積・内積の式の両方で確認できる。
- 尺度因子は座標増分を物理的な長さ、面積、体積へ変換する。