3Dで学ぶ電磁気学
A-3 点電荷と電気力線
この回で身につける
到達目標
- 点電荷の位置を平行移動した電位と電界を書ける。
- 複数の点電荷が作る電位と電界を重ね合わせで求められる。
- Gauss面上の局所的な電界と、閉曲面を貫く全電気力線束を区別できる。
前提知識
- 点電荷の電位 $V\propto1/r$
- 電界 $\vec E=-\nabla V$
- ベクトルの和と対称性
学習の順序
- 電荷を動かしたとき場全体がどう動くか確かめる。
- 正負2電荷と同符号2電荷を同じ視点で比較する。
- 球形Gauss面を広げ、面上の $|\vec E|$ と全電気力線束を比較する。
電磁気学の理解実験
$V=0$ の点では、必ず $\vec E=\vec0$ か
観察ポイント: $y=+d$ に $+q$、$y=-d$ に $-q$ を置いたとき、原点の電位と電界を別々に確かめる。同符号2電荷の場合とも比較する。
操作: 電荷間隔を変え、等電位面の値と電気力線の接線方向を同時に追う。中点だけでなく、十分遠い点で場がどう見えるかも確認する。
観察した後に、重ね合わせで説明する
異符号・同じ大きさなら原点でスカラー電位は打ち消され $V=0$ になるが、電界は両方とも $+q$ から $-q$ へ向くため加算される。同符号なら逆に原点で $\vec E=\vec0$ でも $V\ne0$ である。
別問題へ: 対称性だけでゼロを判断せず、スカラー和 $V=\sum V_k$ とベクトル和 $\vec E=\sum\vec E_k$ を別々に評価する。
2電荷の中点で、正負の組合せと同符号の組合せのどちらが $V=0$、どちらが $\vec E=\vec0$ になるか確かめる。
A-3-1で電荷位置を動かし、A-3-2とA-3-3では等電位面と電気力線を同じ方向から見比べる。
電位はスカラー和、電界はベクトル和であることを使い、中点で起こる打消しの違いを説明する。
可視化 A-3-1
点電荷を $y$ 方向にずらし、$\vec{r}^{\prime}=(0,a,0)$ に置いた場合について考えよう。
電位は
で与えられる。電界は $\vec{E}=-\nabla V$ であり、正電荷のまわりでは電荷から外側へ向く。ここで重要なのは、$V$ と $\vec E$ が電荷や観測点の絶対座標ではなく、電荷から観測点への相対ベクトル
だけで決まることである。
電気力線は、各点で電界 $\vec{E}=-\nabla V$ の向きに接する曲線である。正電荷から出て、負電荷へ入る向きに描くと、電界の向きが直感的に読み取りやすくなる。線が密に見えるところほど電界が強い。ただし、描く本数自体は表現上の選択であり、一本ごとに決まった電荷量が流れているわけではない。
基準配置を $\vec r_0^{\prime}$、観測点を $\vec P_0$ とする。電荷と観測点を同じ並進ベクトル $a\vec e_y$ だけ動かせば、相対ベクトルは変わらない。
したがって $V(\vec P)$、$|\vec E(\vec P)|$、$\vec E$ の方向はすべて不変である。一方、観測点を空間に固定して電荷だけを動かすと $\vec R$ が変わり、電位と電界も変わる。下の図で二つの観測規則を比較しよう。
絶対座標ではなく、$\vec R=\vec P-\vec r^{\prime}$ が変わるかを図を動かして確かめてください。
灰色の基準配置と色付きの移動後配置を比較する。シアンの8本と紫の $\vec E(P)$ は、電界が空間の各測定点にあることを示す代表標本である。$Q$ と $P$ を一緒に動かせば $\vec R$ は変わらず、$P$ を固定すれば $\vec R$ が変わる。
読み方: シアンの8本は同じ半径にある代表測定点を始点とし、同じ長さで電荷から放射状に向きます。紫の $\vec E(P)$ を合わせた移動後9点と、灰色の基準 $\vec E_0$ を比較してください。「$P$ も同じだけ移動」では、電荷と観測点を結ぶ橙の $\vec R$ が基準配置と同じです。そのため、代表等電位面の半径、$V/(kQ/d)$、$|\vec E|/(kQ/d^2)$、電界方向がすべて一致します。
標本の意味: 10本は連続な電界から選んだ代表ベクトルです。電界が10点だけに存在することや、矢印本数が電気力線束を表すことを意味しません。
比較: 「$P$ を空間に固定」へ切り替えると、電荷だけが動くので $\vec R=(1.2d,-a,0.5d)$ となります。$|a|$ を増すと $|\vec R|$ が大きくなり、$V\propto1/|\vec R|$、$|\vec E|\propto1/|\vec R|^2$ に従って小さくなります。
可視化 A-3-2
正負で大きさの等しい2つの点電荷を、$x=0,\ z=0$ 上で $y$ 方向に離して、正電荷を $\vec{r}_{+}^{\prime}=(0,d,0)$、負電荷を $\vec{r}_{-}^{\prime}=(0,-d,0)$ においた。
で与えられる。中点 $\vec r=\vec0$ では正負の電位が打ち消し合って $V(\vec0)=0$ になるが、両方の電界は $-y$ 方向を向くため加算される。
ここで、正負の電荷から等距離にある垂直二等分面を考える。この面上の点 $P=(\rho,0,0)$ では、正負の電位は大きさが等しく符号が反対なので、$\rho$ によらず $V(P)=0$ になる。一方、二つの電界の $x$ 成分は打ち消し合い、$y$ 成分はどちらも $+Q$ から $-Q$ へ向くので加算される。
下の二図は、同じ電荷、同じ垂直二等分面、同じ観測点 $P$ を共有する。左では電位の打消し、右では電界ベクトルの加算を見る。まず「$V=0$ なら $\vec E=\vec0$ か」を確認し、操作後に $P$ を動かして両図が同時に変わることを確かめよう。
電位はスカラー和、電界はベクトル和として別々に図を動かして確かめてください。
電位:正負の値が打ち消す
電界:二つの $-y$ 成分が加わる
読み方: 緑の面では電位の値がゼロです。しかし面を横切ると電位は正から負へ変化するため、$\vec E=-\nabla V$ は面に垂直に $+Q$ から $-Q$ へ向きます。$\rho/d$ を大きくすると $V=0$ は保たれますが、電荷から遠ざかるので $|\vec E|$ は小さくなります。
A-3-3との対比: 正負2電荷では $V=0$ でも $\vec E\ne\vec0$。同符号2電荷では中点で $\vec E=\vec0$ でも $V\ne0$ です。
可視化 A-3-3
同じ符号で大きさの等しい2つの点電荷を、$x=0,\ z=0$ 上で $y$ 方向に離して、$\vec{r}_1^{\prime}=(0,d,0)$ と $\vec{r}_2^{\prime}=(0,-d,0)$ においた。
で与えられる。中点では二つの電界が逆向きで打ち消し合う一方、電位は同符号なので加算される。
垂直二等分面上の点 $P=(\rho,0,0)$ では、二つの電荷までの距離が等しい。したがって電位は常に正のまま加算される。一方、電界の $y$ 成分は相殺し、$x$ 成分は加算されるので、中点 $\rho=0$ だけで合成電界がゼロになる。
下の二図は、同じ電荷、同じ垂直二等分面、同じ観測点 $P$ を共有する。まず中点での $V$ と $\vec E$ を確認し、操作後に $P$ を中点から外して、正の電位が残ったまま外向き電界が現れることを確かめよう。
電位はスカラー和、電界はベクトル和として別々に図を動かして確かめてください。
電位:二つの正の値が加わる
電界:中点では逆向き成分が打ち消す
読み方: 中点では $V_1$ と $V_2$ はどちらも正なので加算されます。電界は大きさが等しく逆向きなので相殺されます。$P$ を中点から外すと、$y$ 成分の相殺は保たれますが、$x$ 成分が同じ向きに加わるため外向きの $\vec E$ が現れます。
A-3-2との対比: 正負2電荷では $V=0$ でも $\vec E\ne\vec0$。同符号2電荷では中点で $V>0$ でも $\vec E=\vec0$。スカラーの相殺とベクトルの相殺を入れ替えて考えないことが要点です。
可視化 A-3-4 Gaussの法則:局所的な電界と全電気力線束
『工科の物理3 電磁気学』1.5節に沿って、まず真空中の電界 $\vec E$ でGaussの法則を読みます。原点の点電荷 $Q$ を中心とする半径 $R$ の球面をGauss面に選ぶと、球対称性から、球面上では $\vec E$ が法線方向を向き、その大きさはどこでも同じです。
球を大きくすると $|\vec E|$ は $1/R^2$ で小さくなりますが、面積は $R^2$ で大きくなるため、積分した全電気力線束は変わりません。
半径と電荷を動かし、面を横切る矢印が短くなっても、数値表示の全電気力線束が $Q/\varepsilon_0$ に一致することを確認してください。この簡単な積への置換は球対称だから使えます。Gaussの積分法則そのものは任意の閉曲面で成立しますが、対称性がなければ $|\vec E|$ を積分の外へ出せません。誘電体を学んだ後は $\vec D=\varepsilon\vec E$ を導入し、自由電荷に対して $\oint_S\vec D\cdot\vec n\,dS=Q_{\mathrm{free}}$ と読み替えます。
例題と理解確認
数値例題
$Q=1.0\,\mathrm{nC}$ の正電荷を $(0,d,0)$、同じ大きさの負電荷を $(0,-d,0)$ に置き、$d=0.050\,\mathrm{m}$ とする。中点の電位と電界を求める。
電位はゼロでも、その周囲で電位が変化しているため電界はゼロにならない。
よくある誤解
- 電位がゼロの点で電界もゼロとは限らない。電界は電位の値ではなく空間変化で決まる。
- 電気力線は試験電荷の時間軌跡ではない。各点で電界に接するように描いた幾何学的な曲線である。
- 同じ点で電界の向きは一意なので、正則な点で二本の電気力線が交差することはない。
確認問題
- 点電荷を原点から $\vec r^{\prime}$ へ移したとき、分母の距離をどのように書くか。
- 正負2電荷と同符号2電荷の中点では、電位と電界のどちらがゼロになるかをそれぞれ答えよ。
- 点電荷を囲む球形Gauss面の半径を2倍にすると、面上の $|\vec E|$ と全電気力線束はそれぞれ何倍になるか。
問1のヒントを見る
ヒント: 観測点から電荷位置までの相対ベクトルを作る。
解答: 距離は $|\vec r-\vec r^{\prime}|$ と書く。
問2のヒントを見る
ヒント: 電位は符号付きのスカラー和、電界は方向を持つベクトル和である。
解答: 正負2電荷では $V=0$ だが $\vec E\ne\vec0$、同符号2電荷では $V\ne0$ だが $\vec E=\vec0$ となる。
問3のヒントを見る
ヒント: $|\vec E|\propto1/R^2$ と球面積 $S_R\propto R^2$ を別々に評価する。
解答: $|\vec E|$ は $1/4$ 倍、全電気力線束 $\mathit{\Phi}_E=\oint_S\vec E\cdot\vec n\,dS=Q/\varepsilon_0$ は1倍のままである。
今回のまとめ
- 電荷位置を $\vec r^{\prime}$ へ移すと、場は相対ベクトル $\vec r-\vec r^{\prime}$ で表せる。
- 複数電荷の電位と電界は、それぞれスカラー和とベクトル和で重ね合わせる。
- Gauss面を広げると局所的な $|\vec E|$ は減るが、閉曲面を貫く全電気力線束は $Q/\varepsilon_0$ に等しい。