3Dで学ぶ電磁気学
D-2 表皮効果・交流抵抗・SIBC
この回で身につける
到達目標
- 表皮効果を磁気拡散として説明できる。
- 電流密度の偏りから交流抵抗を求められる。
- SIBCが導体内部を何へ置き換えるか説明できる。
前提知識
- Ampereの法則
- Faradayの法則
- 局所オーム則
- 複素振幅
見る順序
- 丸線の半径と周波数を動かす。
- 損失積分から交流抵抗を読む。
- 体積導体をSIBCへ置き換える。
電磁気学の理解実験
周波数を上げると、なぜ同じ銅線の抵抗が増えるのか
観察ポイント: 周波数を100倍にしたとき、電流が流れる断面、中心の電流密度、交流抵抗がどう変わるかを確かめる。
操作: 材料、周波数、線半径、位相を動かし、長い丸線の内部に分布する電流密度ベクトル、可動断面、半径方向グラフを同じ状態で見る。
観察後に式で確認する
周波数を100倍にすると表皮深さは $1/10$ になります。電流が表面近くの狭い領域へ移ると、同じ全電流を流すために局所的な $|\vec J|$ が増え、Joule損失と交流抵抗が増えます。
表皮効果は磁気拡散である
変位電流を無視できる良導体で、時間依存を $e^{j\omega t}$ とします。Ampereの法則、Faradayの法則、局所オーム則を組み合わせると、
から、導体内の場は拡散方程式
に従います。表皮深さ $\delta$ は振幅が表面値の $1/e$ になる深さです。電流が互いに押し合って表面へ逃げるのではなく、時間変化する磁界が誘導電界を作り、導体内部の電流分布を変える現象です。
丸線ではBessel関数になる
半径 $a$ の十分長い丸線へ軸方向電流を流します。軸対称な電流密度 $\underline J_z(r)$ は、
を満たし、表面値を $\underline J_s=\underline J_z(a)$ とすれば、
です。$I_0$ は第1種変形Bessel関数です。可視化はBessel関数の形だけを描くのではなく、この半径方向境界値問題を複素有限差分で解き直します。極端に $a/\delta$ が大きい領域では、数値丸めを避けるため同じ解の高周波漸近形へ切り替えます。そのため、低周波の一様分布から高周波の表面集中まで連続して追えます。
ここで扱うのは<strong>十分長い丸線の中央部</strong>です。3D図の両端は電流が出入りする端子ではなく、無限に続く丸線から切り出した観察窓です。固定した183個の観測点で $\vec J(\vec r,t)$ を示すので、ベクトルが一つのベクトルの関数、すなわち位置 $\vec r$ ごとに異なることを空間分布として追えます。周波数を変えても観測点を増減させず、矢印長だけを共通尺度で変えます。
可視化 D-2-1 丸線の電流密度と交流抵抗
赤/青:$\vec J(\vec r,t)$ の正/負 紫:同じ3D空間内を動く断面 青緑:周回磁界 $\vec H_\phi$ 橙:観測点 $P$
次のグラフは別の断面図ではありません。上の3D空間に埋め込まれた紫の断面と同じ状態から、半径方向の複素振幅 $|\underline J_z(r)|$ と観測点 $P$ を読み出したものです。
電流密度から交流抵抗を求める
丸線を流れる全電流と単位長さ当たりの時間平均Joule損失は、
です。したがって、ピーク値の複素振幅を用いると、
となります。Canvasの $R_{\mathrm{ac}}/R_{\mathrm{dc}}$ は表示した電流密度を数値積分して求めています。$\delta\ll a$ の極限だけなら、電流が流れる有効断面積を $2\pi a\delta$ と近似して、
と見積もれます。ただし低周波ではこの漸近式を使わず、$R'_{\mathrm{ac}}/R'_{\mathrm{dc}}\to1$ としなければなりません。
SIBCは導体内部を表面の関係式へ畳み込む
良導体の内部を細かくメッシュ分割する代わりに、導体表面だけで接線電界と接線磁界を結ぶのが表面インピーダンス境界条件(Surface Impedance Boundary Condition; SIBC)です。導体から外部へ向く単位法線を $\vec n$ とすると、ここで用いる符号規約では、
です。表面から導体へ入る時間平均電力密度は、
となります。つまりSIBCは、導体内部の指数減衰、位相遅れ、Joule損失を、表面上の複素係数 $Z_s$ へまとめたモデルです。
局所平板近似を使うには、導体厚さ $t$ と表面の曲率半径 $R_c$ が表皮深さより十分大きいことが必要です。
片側から浸透する指数分布を厚さ $t$ で打ち切ったとき、そこまでに含まれる損失の割合は
です。これは有限厚導体の厳密解ではなく、SIBCを使える厚さかを読むための片側浸透モデルです。$t/\delta$ が小さい場合や、両面から場が入る薄板、角部、強い近接効果では体積導体を解く必要があります。
可視化 D-2-2 体積導体とSIBCの使い分け
例題と理解確認
数値例題
半径 $a=2\,\mathrm{mm}$ の銅線を $f=10\,\mathrm{kHz}$ で使う。$\sigma=5.8\times10^7\,\mathrm{S/m}$、$\mu=\mu_0$ とする。
中心の電流密度はすでに表面より小さく、直流抵抗だけで損失を見積もると過小評価になります。
よくある誤解
- 表皮深さより内側の電流が突然0になるわけではありません。
- 表皮効果だけでは、隣接導体が作る磁界による近接効果を表せません。
- 磁性導体の $\mu$ は実際には周波数・磁界強度・損失に依存します。Canvasの磁性導体は線形例示値です。
確認問題
- 周波数を4倍にすると $\delta$ は何倍になるか。
- 線半径を2倍にし、ほかを一定にすると $a/\delta$ はどうなるか。
- 同じ全電流でも $R_{\mathrm{ac}}$ が増える理由を、$\vec J$ とJoule損失の積分から説明せよ。
- $t/\delta$ が小さい薄板へ半無限導体のSIBCをそのまま使えない理由を説明せよ。
ヒントを見る
ヒント: $\delta\propto f^{-1/2}$、$P'\propto\int|\vec J|^2dS$、$\eta_t=1-e^{-2t/\delta}$ を使います。
解答: 1. $1/2$です。2. $a/\delta$ は2倍です。3. 電流が狭い表面層へ集中すると、同じ断面積分 $I$ を保つため局所的な $|\vec J|$ が増え、二乗積分で決まる損失が増えるためです。4. 裏面へ到達する場と両面の相互作用を無視できず、局所的な半無限導体の指数解へ畳み込めないためです。