3Dで学ぶ電磁気学
D-1 誘導から表皮効果・誘導加熱へ
この回で身につける
到達目標
- 磁束と誘導起電力の位相差を説明できる。
- 周波数と材料定数から表皮深さを計算できる。
- 表面インピーダンスと導体へ流入する電力を結び付けられる。
前提知識
- Faradayの法則
- 局所オーム則
- 複素振幅とPoyntingベクトル
学習の順序
- 時間波形の位相を動かす。
- 導体内の振幅と位相を見る。
- 表面から入る電力と発熱を照合する。
電磁気学の理解実験
周波数を100倍にすると、電流と発熱は導体のどこへ移るか
観察ポイント: 表皮深さ $\delta$、表面抵抗 $R_s$、導体表面付近の発熱密度がどう変わるかを確かめる。
操作: 各Canvasで周波数、材料、位相、導体寸法を動かし、波形・ベクトル・深さ方向分布を同時に見る。
観察後に式で確認する
$\delta\propto f^{-1/2}$ なので周波数を100倍にすると表皮深さは $1/10$ になります。良導体では $R_s\propto f^{1/2}$ なので、同じ表面磁界なら単位面積当たりの平均損失は10倍になります。
可視化 D-1-1 磁束の時間変化と誘導電界
面積 $S$ の1ターンコイルを一様な磁束密度が貫く場合、
です。正の周回方向を $+z$ 側から見て反時計回りに取ります。磁束が最大の瞬間には変化率が0なので起電力も0になり、磁束が0を横切る瞬間に起電力の大きさが最大になります。円形経路 $C$ の半径を $r$ とすると、一様磁界を仮定した表示範囲内では
となり、誘導電界は1本の矢印ではなく、位置ごとに値を返すベクトル場 $\vec r\mapsto\vec E(\vec r,t)$ です。3D図では固定した4つの半径に閉じた流線と8個ずつの方向矢印を置きます。矢印は空間内を周回する粒子ではなく、その場所の電界方向を示し、磁束が最大となる瞬間には全32個が同時に消えます。
固定25点の $\vec B(t)$ が同時に伸び、0になり、反転する様子を見る。
位相を進め、従属グラフの $\mathit{\Phi}_B$ と橙色の接線の傾きを照合する。
正面図で閉じた $\vec E(\vec r,t)$ の向きを見て、$e=-d\mathit{\Phi}_B/dt$ の負号を説明する。
表示の読み方: 3D図では、青い矢印長を $0.1$~$100\,\mathrm{mT}$、水色の太さ・明るさを $10^{-4}$~$80\,\mathrm{V/m}$ の全状態共通の対数尺度で示します。正確な $B(t)$ と $E_\phi(a)$ は数値欄で読みます。灰色の円は比較する固定経路で、電界が0の瞬間にも位置だけを残します。再生速度は高周波の実時間ではなく、位相関係を観察するための学習用速度です。モデルは表示範囲内で一様な軸方向磁界を仮定し、その磁界を作る外部回路や放射は解いていません。
可視化 D-1-2 導体内への拡散と表皮深さ
良導体を半無限平板と近似し、表面 $x=0$ で $z$ 方向の時間調和磁界を与えます。表面から導体内部へ測った深さを $x$ とすると、
です。3D図が示すのは複素ベクトルそのものではなく、選んだ時刻の瞬時値
です。したがって、振幅は $e^{-x/\delta}$ で減衰し、位相は深さ $x/\delta$ [rad] だけ遅れます。$x=\delta$ では振幅が表面値の $1/e$、位相遅れが1 rad(約 $57.3^\circ$)になります。ある時刻に表面の矢印が上向きでも、深部では位相遅れによって下向きになり得ます。
81個の固定測定点で、表面から深くなるほど矢印が短くなる様子を見る。
位相を連続して動かし、深部の矢印が表面より遅れて0を通過し、反転する様子を見る。
周波数や材料を変え、紫の $x=\delta$ 面と従属グラフが同時に移ることを照合する。
表示の読み方: 測定点は場の標本であり、その本数は磁界の強さではありません。矢印長は全状態共通の線形尺度で $|H/H_0|$ に対応し、非常に小さい $|H/H_0|<0.012$ だけは点を残して矢印を非表示にします。青い半透明層と2Dの青線は振幅包絡 $e^{-x/\delta}$、青/橙の矢印と赤線は瞬時値です。表示する直方体は半無限導体から切り出した観察窓で、右端 $x=d$ を物理的な裏面境界として解いてはいません。再生速度は実際の高周波時間ではなく、位相遅れを観察するための学習用速度です。
動かした後に説明してみる
位相を半周期進めたとき、81測定点の位置、各点の振幅、瞬時ベクトルの向きのうち、何が変わり何が変わらないでしょうか。また周波数を4倍にしたとき、紫の $x=\delta$ 面がどちらへ動くかを $\delta\propto f^{-1/2}$ から説明してください。
可視化 D-1-3 表面インピーダンスとPoynting流
良導体表面では、表面インピーダンスを
と書けます。表面磁界をピーク値 $H_0$ で与えたとき、導体へ流入する平均電力密度は
です。Canvasでは瞬時の $\vec E$ と $\vec H$、平均的に導体へ向かう $\langle\vec S\rangle$ を分けて表示します。
可視化 D-1-4 周期定常渦電流から誘導加熱へ
長い円柱ワークへ軸方向の時間調和磁界を加えると、磁界の変化を妨げる向きに周方向の渦電流が流れます。周期定常とは、同じ波形が周期ごとに繰り返すという意味です。直流の静的な定常電流ではなく、各位置の瞬時電流は向きと大きさを変え続けます。
半径 $a$ の一様な長い円柱に、表面磁界 $\underline H_s$ を与える軸対称解は
です。ここで $I_0,I_1$ は第1種変形Bessel関数です。3D図の緑の流線は、その各点で接線が瞬時渦電流に平行となる曲線
です。この軸対称モデルでは、半径 $r$ と高さ $z$ を固定した円が流線になります。半径4層、高さ3層の12本を同時に示し、線の太さと明るさを全状態共通の尺度で瞬時の $|\vec J|$ に対応させます。流線上の矢印は位置を移動せず、その場所で向きだけが時間に応じて反転します。したがって、流線は電線でも電子1個の軌跡でもありません。
観測点では
を入力位置 $\vec r_P$ と出力 $\vec J(\vec r_P,t)$ の組として示します。「局所ベクトル」を有効にすると、同じ場を固定120点のベクトル標本でも重ねられます。標本数は電流の大きさではありません。位相を半周期進めると渦電流の向きは反転しますが、橙色で示す周期平均発熱密度 $\overline q$ は変わりません。発熱密度は熱伝導方程式へ与える熱源であり、温度そのものではありません。
コイル電流と軸方向磁界の瞬時方向を見る。
位相を動かし、12本の閉じた流線上で向きが反転する様子を見る。必要なら120点の局所ベクトルを重ねる。
周波数を上げ、$\delta$、電流の表面集中、周期平均発熱の関係を照合する。
モデルの範囲: これは長い円柱、線形・一様・等方材料、軸方向に一様な表面磁界を仮定した軸対称の周期定常解です。3Dコイルは電流方向と実物配置を示すための模型であり、有限長コイルと円柱端部の三次元端効果は解いていません。高周波での変位電流、磁気飽和、温度上昇による物性変化、熱拡散もこの図の対象外です。
動かした後に説明してみる
位相を半周期進めたときに変わる量と変わらない量を分け、周波数を上げると渦電流と発熱が表面へ集まる理由を、$\delta$ と $\underline J_\phi(r)$ を使って説明してください。
例題と理解確認
数値例題
銅を $f=10\,\mathrm{kHz}$ で励磁する。$\sigma=5.8\times10^7\,\mathrm{S/m}$、$\mu=\mu_0$ とする。
よくある誤解
- 表皮深さは電流が突然0になる境界ではなく、振幅が表面値の $1/e$ になる深さである。
- D-1-4の流線は電線や電子1個の軌跡ではない。固定された矢印がその場で反転し、各点のベクトル場の向きを示す。
- 局所ベクトルの120という本数は空間標本数であり、電流密度の大きさではない。
- Canvasの赤色は温度ではなく、D-1-4では電磁場から計算した初期発熱密度である。
- 磁性導体の透磁率は実際には周波数・磁界強度・損失に依存する。ここでは線形な例示値を使う。
確認問題
- 周波数を4倍にしたとき、$\delta$ と $R_s$ は何倍になるか。
- $x=\delta$ で磁界振幅と発熱密度は表面値の何倍か。
- 誘導加熱のCanvasが温度分布を直接表していない理由を説明せよ。
ヒントを見る
ヒント: $\delta\propto f^{-1/2}$、$R_s\propto f^{1/2}$ と、振幅・電力密度の指数の違いを使います。
解答: 1. $\delta$ は $1/2$、$R_s$ は2倍です。2. 磁界振幅は $e^{-1}$、発熱密度は $e^{-2}$ です。3. 温度を得るには、この発熱密度を熱源として熱伝導方程式を時間積分する必要があるためです。