学部で学ぶ電磁気学 第7章

7.5 磁界のエネルギーと磁気力

この節では、磁界のエネルギーと磁気力を、対応する式と操作できる3D教材を行き来しながら確かめます。

磁界のエネルギーと磁気力の3D教材を見る

3Dで学ぶ電磁気学

第7章教材 変圧器起電力・速度起電力・インダクタンス・磁界のエネルギー

学部で学ぶ電磁気学 第7章2〜5節に対応

到達目標

  • 変圧器起電力と速度起電力を同じFaradayの法則から説明できる。
  • 巻数比と誘導電圧比を磁束鎖交数から説明できる。
  • 形状と材料からインダクタンスを見積もり、磁気エネルギーとギャップ吸引力を結び付けられる。

動かす量

  • 一次・二次巻数と周波数
  • ソレノイドの長さ・半径・透磁率
  • 磁気回路のギャップと電流

見る順序

  1. 動く導体で速度起電力を作る。
  2. 磁束から二つの変圧器電圧を作る。
  3. 磁束鎖交数から $L$ を作り、エネルギー勾配を力へ変える。

電磁気学の理解実験

同じ磁束を共有する二つのコイルで、何が巻数に比例するか

確認: 二次巻数を2倍にしたとき、二次電圧、磁束、周波数がそれぞれどう変わるか確かめます。

操作: 変圧器、ソレノイド、ギャップ付磁気回路の順に、磁束・鎖交数・エネルギー・力を追います。

観察後に式で確認する

誘導電圧は磁束そのものではなく磁束鎖交数 $N\mathit{\Phi}$ の時間変化です。力はエネルギーの値だけでなく、形状を変えたときの勾配から決まります。

速度起電力は動く導体中のLorentz力として見える

一様磁界 $\vec B$ の中を速度 $\vec v$ で動く導体では、電荷 $q$ は

\[ \vec F=q\vec v\times\vec B \]

を受けます。長さ $\ell$ の導体棒が $\vec v\perp\vec B$ を保って動くとき、棒の両端に生じる速度起電力の大きさは

\[ |\mathcal E|=\left|\int_{\text{棒}}(\vec v\times\vec B)\cdot d\vec\ell\right| =B\ell|v| \]

です。一方、棒、レール、抵抗で囲む回路の面積を $S=\ell x$ と見ると

\[ \Phi_B=B\ell x, \qquad \mathcal E=-\dfrac{d\Phi_B}{dt} \]

となり、同じ起電力とLenzの法則による向きが得られます。

可視化 7.2 動く棒・磁束変化・速度起電力

力の向き

$\vec v$ と $\vec B$ から $\vec v\times\vec B$ を右手系で求め、棒のどちら側が正になるかを見る。

回路を一周

緑の電流矢印を追い、磁束の増加を妨げる向きか確認する。

二つの式を照合

$B\ell v$ と $-d(B\ell x)/dt$ が同じ大きさになることを数値で確かめる。

磁束密度 $\vec B$可動棒と速度 $\vec v$正電荷に働く $q\vec v\times\vec B$誘導電流磁束を数える回路面

対話型可視化。内容は直前の本文と数式でも説明しています。

棒の位置 $x$ はその瞬間の磁束 $\Phi_B$ を変えますが、$B,\ell,v$ が同じなら起電力 $B\ell v$ は位置に依存しません。速度の符号を反転すると、棒中の電荷分離と回路電流の向きがともに反転します。図では摩擦、自己インダクタンス、レールと棒の接触抵抗を無視しています。

変圧器は同じ磁束の時間変化を二つの巻線で読む

漏れ磁束と巻線抵抗を無視した理想変圧器では、一次・二次巻線が同じ鉄心磁束 $\mathit{\Phi}(t)$ を共有します。

\[ e_1(t)=-N_1\dfrac{d\mathit{\Phi}}{dt}, \qquad e_2(t)=-N_2\dfrac{d\mathit{\Phi}}{dt}, \qquad \dfrac{e_2}{e_1}=\dfrac{N_2}{N_1} \]

正弦磁束 $\mathit{\Phi}=\mathit{\Phi}_0\sin\omega t$ なら、実効値は

\[ E_1=\dfrac{\omega N_1\mathit{\Phi}_0}{\sqrt2}, \qquad E_2=\dfrac{\omega N_2\mathit{\Phi}_0}{\sqrt2} \]

です。3D図では口形鉄心の左脚に一次巻線、右脚に二次巻線を一筆書きの連続導線として実数どおり巻き、表示巻数と理想式に使う巻数を厳密に一致させます。鉄心内部を閉じる緑の閉曲線は共通磁束 $\mathit{\Phi}(t)$ の経路を読む代表線で、本数や太さは磁束の値ではありません。瞬時値と向きは位相スライダー、固定位置の方向マーカー、下の従属グラフで読みます。「内部磁路を透視」を押すと、同じ物理状態のまま鉄心が半透明になり、二つの巻線を貫く同じ磁束経路を観察できます。「フリンジ場」をONにすると、鉄心外へ膨らむ漏れ・フリンジ磁束の模式線を同じ図へ重ねます。この表示は空間像を比較するための定性的な補助であり、理想変圧器の $E_2/E_1=N_2/N_1$ の計算には含めません。定量的な漏れ磁束は巻線配置、鉄心形状、透磁率、周囲境界を含む電磁界解析が必要です。

下の従属グラフは断面図ではなく、上の3Dと同じ $N_1,N_2,\mathit{\Phi}_0$ を保った同一状態の波形です。横軸は位相 $\omega t$ [°]、縦軸は $\mathit{\Phi}/\mathit{\Phi}_0$ と $e/(\omega N_1\mathit{\Phi}_0)$ の正規化値です。$e_1,e_2$ を同じ $N_1$ 側の尺度で描くため、二つの電圧曲線の振幅比がそのまま巻数比 $N_2/N_1$ になります。磁束が最大の瞬間に誘導電圧が0になる90°の位相差も、この同一状態から読めます。

可視化 7.2 巻数比と誘導電圧

鉄心と二つの巻線を斜めから見る視点
鉄心の外観、上下ヨーク、左右脚を読む表示 理想変圧器の共通鉄心磁束だけを表示

濃青:口形鉄心(上下ヨークと左右脚) 赤:一筆書きの一次巻線と端子 青:一筆書きの二次巻線と端子 緑:鉄心内部を閉じる共通磁束 $\mathit{\Phi}(t)$ の代表経路(本数は磁束の値ではない) 紫:ON時だけ重ねる漏れ・フリンジ場の模式線(定量計算には不使用)

対話型可視化。内容は直前の本文と数式でも説明しています。 対話型可視化。内容は直前の本文と数式でも説明しています。

インダクタンスは磁束鎖交数と電流の比

線形磁気回路では、磁束鎖交数 $\lambda=N\mathit{\Phi}$ と電流 $I$ の比をインダクタンスと定義します。

\[ \lambda=LI, \qquad L=\dfrac{N\mathit{\Phi}}{I} \]

長さ $\ell$、断面積 $S$、巻数 $N$ の十分長いソレノイドでは、端部効果を無視すると

\[ B\simeq\mu\dfrac{N}{\ell}I, \qquad L\simeq\mu\dfrac{N^2S}{\ell}, \qquad W_m=\dfrac12LI^2 \]

です。ここで $S=\pi a^2$、$\mathit{\Phi}=BS$、$\lambda=N\mathit{\Phi}$ です。巻数は磁界を強めるだけでなく、鎖交数にももう一度掛かるため $L\propto N^2$ となります。

3D図では4~24巻を一筆書きの連続導線として実数どおり表示します。巻数を変えると、巻線数、固定45点の理想内部磁束密度、断面 $S$ を貫く磁束 $\mathit{\Phi}$、鎖交磁束 $\lambda$ が同じ状態で変わります。水色の閉曲線は有限コイルなら磁束線が端部で外へ回って閉じることを読む代表線であり、下の長ソレノイド近似の $B,L$ には用いません。本数や太さを磁束の値として読まないでください。

下の従属グラフは、同じ長さ、半径、透磁率、電流を保って巻数だけを変えた比較です。横軸は3Dに実際に表示する巻数 $N$、縦軸は $N=24$ の値で正規化した相対値です。$B,\mathit{\Phi}$ の直線と、$\lambda,L$ の二次曲線を、現在の巻数マーカーで結びます。

可視化 7.3〜7.4 ソレノイドの形状とインダクタンス

一筆書き巻線と閉じた磁束線を斜めから見る視点
有限コイルで閉じる代表磁束線を表示(形を読む模式線)

銅色:一筆書きの実巻線と電流方向 青:長ソレノイド近似の固定45点 $\vec B(\vec r)$ 水色:端部で閉じる代表磁束線(定量値には不使用) 橙:同じ場が貫く断面 $S=\pi a^2$

対話型可視化。内容は直前の本文と数式でも説明しています。 対話型可視化。内容は直前の本文と数式でも説明しています。

ギャップに蓄えたエネルギーの勾配が吸引力になる

断面積 $S$、鉄心長 $\ell_c$、ギャップ $g$ の線形磁気回路では、磁気抵抗とインダクタンスを

\[ \mathcal R_m=\dfrac{\ell_c}{\mu_0\mu_rS}+\dfrac{g}{\mu_0S}, \qquad \mathit{\Phi}=\dfrac{NI}{\mathcal R_m}, \qquad L=\dfrac{N^2}{\mathcal R_m} \]

と近似できます。電流一定でギャップを変えるとき、吸引力の大きさは磁気共エネルギー $W'_m=L I^2/2$ の形状微分から

\[ |F_g|=-\left.\dfrac{\partial W'_m}{\partial g}\right|_I =\dfrac{B_g^2S}{2\mu_0} \]

となります。3D可視化は漏れ磁束とフリンジングを無視する一様空隙・線形磁気回路の一次近似です。空隙の矢印を有限要素解析結果のように見せるのではなく、この近似で仮定した一様な $\vec B_g$ を、空隙体積内の固定45点に表示します。ギャップを狭くすると磁束、インダクタンス、吸引力が同時に増え、空隙の体積は小さくなることを同じ空間で確認します。

この磁気回路では、コイルを巻く左側の鉄心脚と、磁束を右側の極へ導く上ヨーク・下ヨークがC形の鉄心を作ります。右側では上極と下極が空隙 $g$ を挟んで向かい合います。ヨークは単なる支持枠ではなく、脚・極とともに低磁気抵抗の閉じた磁路を作る部分です。

同じ磁束密度 $B$ でも磁気エネルギー密度は

\[ w_m=\dfrac{B^2}{2\mu} \]

なので、透磁率の大きい鉄心より空隙に集中します。可視化の橙色体積は温度ではなく、磁気エネルギーを蓄える領域です。一筆書きのコイル、閉じた磁束経路、空隙中のベクトル場、上下の極に働く力を一つの3Dモデルで追います。

可視化 7.5 ギャップ・磁界のエネルギー・磁気力

磁気回路全体を斜めから見る視点
鉄心の外観、上下ヨーク、脚、極を読む表示

濃青:鉄心脚・上ヨーク・下ヨーク・極 緑:ヨーク内部を閉じる磁束経路 青:空隙の $\vec B_g(\vec r)$ 橙:磁気エネルギーを蓄える空隙体積 赤:上下の極に働く $\vec F_g$ 紫:観測点 $P$

対話型可視化。内容は直前の本文と数式でも説明しています。

次の曲線は断面図ではなく、上の3Dモデルと同じ $N,I,\mu_r$ を保ったまま $g$ だけを掃引した従属グラフです。横軸はギャップ $g$ [mm]、縦軸は各曲線の最大値を1とした相対値です。$B_g$、$|F_g|$、$W'_m$ は単位が異なるため、それぞれの最大値で正規化し、減り方の違いだけを比較します。

対話型可視化。内容は直前の本文と数式でも説明しています。

例題と理解確認

$N_1=200$、$N_2=50$ の理想変圧器で一次電圧が $100\,\mathrm{V}$ なら、

\[ \dfrac{E_2}{E_1}=\dfrac{50}{200}=0.25, \qquad E_2=25\,\mathrm{V} \]

です。これは負荷電流や巻線損失を無視した電圧比です。

よくある誤解

確認問題

  1. $\vec v=+v\vec e_x$、$\vec B=+B\vec e_z$ のとき、正電荷が棒中で受ける力の向きを答えよ。
  2. 巻数を2倍にし、他を固定するとソレノイドの $L$ と $W_m$ は何倍か。
  3. 理想変圧器で周波数を2倍にし磁束振幅を半分にすると誘導電圧はどうなるか。
  4. ギャップが鉄心より磁気エネルギー密度を持ちやすい理由を説明せよ。
問1のヒントを見る

ヒント: $\vec e_x\times\vec e_z=-\vec e_y$ です。

解答: 正電荷は $-y$ 方向の力を受け、可動棒の $-y$ 側が正になります。

問1のヒントを見る

ヒント: 長いソレノイド近似では $L\propto N^2$、一定電流では $W_m=LI^2/2$ です。

解答: 巻数を2倍にすると $L$ は4倍となり、同じ電流での $W_m$ も4倍です。

問2のヒントを見る

ヒント: 正弦磁束による誘導電圧は $E\propto f\mathit{\Phi}_0$ です。

解答: 周波数2倍と磁束振幅 $1/2$ が相殺するので、誘導電圧は変わりません。

問3のヒントを見る

ヒント: 同じ $B$ に対する線形媒質の磁気エネルギー密度は $w_m=B^2/(2\mu)$ です。

解答: 鉄心より透磁率の小さい空隙では、同じ $B$ に対するエネルギー密度が大きくなるため、エネルギーがギャップへ集中します。

今回のまとめ

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