学部で学ぶ電磁気学 第2章
2.7 導体系の静電エネルギー
この節では、導体系の静電エネルギーを、対応する式と操作できる3D教材を行き来しながら確かめます。
3Dで学ぶ電磁気学
第2章教材 静電容量と静電エネルギー
この回で身につける
到達目標
- 静電容量を電荷と電位差の比例係数として説明できる。
- 平行平板・同軸円筒・同心球の静電容量を形状から求められる。
- 電圧一定と電荷一定で、蓄積エネルギーの変化が異なることを説明できる。
- 電極に働く力を、仮想変位に対する蓄積エネルギーの勾配から求められる。
- 同じ状態なら拘束の取り方によらず力が一致することを説明できる。
前提知識
- Gaussの法則
- 電位差の線積分
- 誘電体の材料則
- 仕事とエネルギーの関係
学習の順序
- 対称性から電界を求める。
- 線積分で電位差を求める。
- $C=Q/\Delta V$ とエネルギーへ進む。
- 仮想変位でエネルギーを微分し、力を求める。
電磁気学の理解実験
静電容量は、電圧を上げると増えるのか
観察ポイント: 電極形状と材料を固定し、電圧だけを2倍にしたときの $C$、$Q$、$W$ を確かめる。
操作: 三つの電極形状を切り替え、寸法・誘電率・電圧を変えて、形状が決める量と励磁が決める量を分ける。
観察した後に、定義とエネルギーで説明する
線形誘電体では $C=Q/\Delta V$ は形状と $\varepsilon$ で決まり、電圧には依存しない。電圧一定なら $Q=C\Delta V$、$W=C(\Delta V)^2/2$ である。
別問題へ: 電源を外して電荷一定にした後で電極間隔を変える場合は $W=Q^2/(2C)$ を使う。
静電容量は
で定義されます。代表的な理想電極では
です。蓄積エネルギーは
であり、場のエネルギー密度を積分しても同じ値になります。
可視化 2.6 形状・材料・励磁を分ける
電極を近づける、対向面積を増やす、誘電率を増やす操作で $C$ がどう変わるかを確かめる。
平行平板、同軸円筒、同心球を切り替え、$C$、$Q$、$W$ の数値を比較する。
まずGaussの法則で場を求め、電位差を積分し、最後に $C=Q/\Delta V$ を使う。
紫の破線は、有限な極板の端で外へ回り込む電界の模式表示です。線の本数や膨らみ方は形を伝えるための描画であって、電磁界解析の結果ではありません。切り替えても $C$、$Q$、$W$ は端効果を無視した理想式 $C=\varepsilon S/d$ のままで変わりません。実際の端効果を数値で見積もるには、極板形状、材料、周囲境界を含む解析が必要です。
電極に働く力は、エネルギーの勾配から求める
電極に働く力は、電荷と電界を一つずつ足し上げなくても、蓄積エネルギーを幾何の変数で微分すれば求められます。極板を仮想的に $\delta d$ だけ動かし、そのときの仕事の収支を書きます。
電源を外して電荷 $Q$ を一定にした孤立系では、外へ出ていく機械的仕事はすべて蓄積エネルギーの減少で賄われます。
一方、電源につないで電圧 $\Delta V$ を一定にすると、電池が $\delta W_{\mathrm{batt}}=\Delta V\,\delta Q$ の仕事を供給します。線形誘電体では、そのうち半分だけが場のエネルギーになります。
符号が逆になるのは、電池が仕事をするかどうかの違いであり、力そのものが変わるからではありません。実際、両方の式へ $Q=C\Delta V=\varepsilon S\Delta V/d$ を代入すると、同じ状態では同じ力になります。
負号は、極板が互いに引き合う向きを表します。この力は、極板表面の単位面積あたりの引張り
と一致します。面に働く応力としての見方は、F編の電磁力とG-4の節点力へつながります。
可視化 2.7〜2.8 静電力はエネルギーの勾配
極板間隔 $d$ を動かし、電界、エネルギー密度、極板間の体積、力がどう連動するかを見てください。電荷一定と電圧一定を切り替え、$d$、$S$、$\varepsilon_r$ と保持量を動かして、$W$ の傾きと $F$ の値を同じ位置で読みます。電荷一定は $F=-\partial W/\partial d$、電圧一定は $F=+\partial W/\partial d$ で、差は電池の仕事です。拘束を切り替えても状態は動かないので、$F$ の数値は変わらず、$W$ の傾きだけが逆符号になります。
灰:極板 赤:固定位置の電界標本 $\vec E$ 黄:エネルギー密度 $u_{\mathrm e}$ の領域(色の濃さが密度、箱の大きさが体積 $Sd$) 橙:極板に働く力 $\vec F$ 青緑:外部回路(電池または開放) 破線:仮想変位 $\delta d$ 左下の赤橙 $x$・緑 $y$・青 $z$ は右手系の向きを示す目印です。2.8では仮想変位・エネルギー勾配・力へ注目できるよう、標本点を減らして表示します。
保持しない側のスライダーは、いま計算された従属量を表示します。電源を外したまま極板を広げると端子電圧が上がることが、そのまま読み取れます。極板間隔は面積に対して拡大して表示しており、実寸比ではありません。端効果は無視した理想平行平板です。
例題と理解確認
数値例題
$S=100\,\mathrm{cm^2}$、$d=1.0\,\mathrm{mm}$、$\varepsilon_r=4$ の平行平板へ $100\,\mathrm V$ を加える。
よくある誤解
- 線形誘電体の静電容量は印加電圧で変わらない。
- 同じ式 $W$ でも、変形時に電圧一定か電荷一定かでエネルギー変化の向きが変わる。
- 力は常に $F=-\partial W/\partial d$ で求まるわけではない。電圧一定では電池が仕事をするため $F=+\partial W/\partial d$ になる。
- エネルギー変化の符号が逆でも、力そのものは拘束の取り方によらない。同じ状態なら同じ力である。
- 電荷一定で極板を離しても電界は変わらない。変わるのは端子電圧と、場が占める体積である。
- 平行平板式は端効果を無視した近似であり、極板端では電界が回り込む。
確認問題
- 形状を固定して電圧を2倍にすると、$C$、$Q$、$W$ は何倍になるか。
- 電圧一定で間隔を2倍にすると $W$ は半分になる。それでも極板が引き合うのはなぜか。
- 電荷一定で平行平板間隔を2倍にしたとき、$C$、$W$、および極板に働く力 $F$ はどう変わるか。同じ状態を電圧一定として読み直すと $F$ は変わるか。
問1のヒントを見る
ヒント: $C$ は形状と材料、$Q=C\Delta V$、$W=C(\Delta V)^2/2$。
解答: $C$ は1倍、$Q$ は2倍、$W$ は4倍である。
問2のヒントを見る
ヒント: 電池が供給した仕事 $\Delta V\,\delta Q$ の行き先を二つに分ける。
解答: 間隔を広げると $Q$ が減り、電池は負の仕事を受け取る。その半分が場のエネルギーの減少、残り半分が外から加えるべき機械的仕事に対応するため、極板は依然として引き合う。したがって $F=+\partial W/\partial d$ であり、その値は負である。
問3のヒントを見る
ヒント: $C\propto1/d$ と $W=Q^2/(2C)$。力は $F=-\partial W/\partial d$ を使い、最後に $Q=C\Delta V$ を代入して比べる。
解答: $C$ は半分、$W$ は2倍になる。一方 $F=-Q^2/(2\varepsilon S)$ は $d$ を含まないので変わらない。同じ状態を電圧一定として読み直しても $F=-\varepsilon S(\Delta V)^2/(2d^2)$ は同じ値になる。拘束は「その後どう動かすか」の条件であり、いまの力を変えない。
今回のまとめ
- 静電容量は形状と誘電率が決める比例係数である。
- 対称性、Gaussの法則、電位差の順に使えば代表形状の $C$ を導ける。
- エネルギー変化は、電圧一定か電荷一定かを明記して読む。
- 力は仮想変位に対するエネルギーの勾配で求める。電荷一定は $-\partial W/\partial d$、電圧一定は $+\partial W/\partial d$ である。
- 同じ状態なら力は一致し、その大きさは表面のエネルギー密度 $u_{\mathrm e}=\sigma^2/(2\varepsilon)$ に極板面積を掛けた値になる。