3Dで学ぶ電磁気学
C-12 単線電流と往復導線の磁気シールドはいつ効くか
無限に長い電流を、内半径 $a$、外半径 $b$、比透磁率 $\mu_r$ の同心円筒殻で囲みます。高透磁率材料を置けば、外部磁界はいつでも小さくなるでしょうか。単線電流と往復導線を切り替え、外部磁界を決めている成分の違いを確かめます。
すぐ動かして確かめる
1. 中心の単線に電流 $I$ を流し、$\mu_r$ を1から1000へ増やすと、円筒殻の外側の $\vec H$ は減るでしょうか。
2. $+I$ と $-I$ の往復導線では、外側のAmpere経路が囲む合計電流は0です。この場合も外部磁界は材料に無関係でしょうか。
単線 Ampere循環が残るため外部磁界は減らない
円筒殻の外側に半径 $r>b$ の円形経路を取ると、材質によらず全電流 $I$ を囲みます。
円筒殻内部では $\vec B=\mu_0\mu_r\vec H$ が大きくなりますが、外部は真空なので
です。高透磁率殻は磁束を材料内部へ集めても、単線が作る大域的な循環を消せません。
往復導線 双極子成分は円筒殻で減衰できる
$z$ 方向へ流れる $+I$ と $-I$ を $x=\pm s$ に置きます。外側の閉路が囲む合計電流は0なので、単線にあった対数的な $n=0$ 成分は消えます。遠方場は双極子 $n=1$ を先頭とする奇数次の円筒調和成分です。
円筒境界で $A_z$ と接線磁界を連続にすると、殻の外へ出る第 $n$ 調和成分の振幅比は
したがって、主要な双極子成分については $T_1<1\qquad(\mu_r>1, a<b)$ です。
殻を厚くする、または $\mu_r$ を増やすと、主要な双極子成分 $T_1$ が小さくなります。
可視化 C-12-1 単線と往復導線の外部磁界を比較する
点 $P=(5.8,0)$ では、殻なしの同じ電流配置を基準として
を表示します。単線では $R_P=1$ のままです。往復導線では包絡電流が0でも、$\oint_C\vec H\cdot d\vec\ell=0$ は経路上の局所磁界がすべて0という意味ではありません。既定値 $a=2.8,\ b=4.0,\ s=1.0,\ \mu_r=100$ では、主要な遠方双極子成分は $T_1=0.0741$、有限距離の点 $P$ では高次成分も含むため $R_P=0.0732$ です。灰色矢印を殻なしの長さ1とし、赤矢印をこの比に比例させています。
観察後の説明を開く
単線: $\mu_r$ を変えても外部評価点の磁界強度 $\vec H$ は変わりません。外部では $\displaystyle\vec H=\frac{I}{2\pi r}\vec e_\theta$ なので、表示する磁力線の向きと外部評価値 $H/H_0$ は透磁率に依存しません。磁性体内部の $\vec B$ の集中は、外部シールド効果とは別の材料応答として扱います。外部の磁力線と $\displaystyle\oint\vec H\cdot d\vec\ell=I$ を基準にします。
往復導線: 外側で包絡電流は0ですが、これは経路積分の正負が相殺する条件であり、経路上の $\vec H$ が点ごとに0という条件ではありません。外部に残る双極子・高次成分は境界条件で振幅が変わります。$T_1$ は主要な遠方双極子成分の係数、$R_P=H(P)/H_0(P)$ は有限距離の局所比なので厳密には別量です。
この結論の適用範囲
この教材は、無限長、線形・等方・同心円筒、磁気飽和なしの2次元静磁場モデルです。「磁気シールドは単線に一切効かない」という一般論ではありません。有限長端部、偏心、開口、導電性殻の渦電流、周波数依存、材料の飽和がある問題は、3次元または時間調和解析で別に評価します。
自己確認
1. 単線の外部磁界を0にしたい場合、受動的な同心円筒殻だけでなく、どのような源の変更が必要ですか。
2. 往復導線の間隔 $2s$ を小さくすると、遠方の双極子磁界はどう変わりますか。
3. $a\to b$ として殻厚を0へ近づけたとき、$T_1$ は何へ近づきますか。
自己確認の解答
1. 外側の閉路が囲む合計電流を0にする戻り導体、同軸戻り、または逆向きの補償電流が必要です。
2. 双極子モーメントはおおむね $Is$ に比例するので小さくなり、外部磁界も減ります。
3. $(a/b)^2\to1$ なので $T_1\to1$ です。透磁率が大きくても厚さ0の殻はシールドしません。