学部で学ぶ電磁気学 第6章
6.1 磁化
この節では、磁化を、対応する式と操作できる3D教材を行き来しながら確かめます。
3Dで学ぶ電磁気学
第6章教材 磁性体・磁化・境界条件
学部で学ぶ電磁気学 第6章に対応
到達目標
- $\vec B$、$\vec H$、$\vec M$ の役割を分けられる。
- 形状による自己減磁界を説明できる。
- 透磁率境界で磁力線が曲がる理由を境界条件から説明できる。
- 磁極間の引力・斥力と距離二乗反比例を説明できる。
動かす量
- 磁化率 $\chi_m$ と反磁界係数 $N_d$
- 外部磁界 $H_0$
- 二媒質の透磁率比と入射角
見る順序
- 外部磁界と内部磁界を分ける。
- 磁化が作る束縛電流を見る。
- 境界の法線・接線成分を照合する。
- 磁極の符号と距離を変え、力の向きと大きさを確かめる。
電磁気学の理解実験
同じ材料でも、細長い形と薄い形で磁化しやすさが違うのはなぜか
確認: 材料の磁化率を固定したまま反磁界係数を大きくしたとき、$M$、$H$、$B$ がどう変化するか確かめます。
操作: 6.1〜6.6で材料と形状を分けて動かし、透磁率境界を横切る磁力線の向きを確認します。続いて6.7で磁極の符号と距離を変えます。
観察後に式で確認する
形状が作る自己減磁界 $-N_d\vec M$ により、内部磁界は外部磁界より小さくなります。材料定数だけでなく形状も磁化の大きさを決めます。
磁化は材料応答、自己減磁界は形状応答
SI単位系では、磁束密度、磁界、磁化を
で結びます。一様磁化した楕円体を外部磁界 $\vec H_0$ と同じ向きに置く単純モデルでは、形状に依存する反磁界係数 $N_d$ を使って
となります。細長い形では磁化方向の $N_d$ が小さく、薄板の厚さ方向では大きくなります。均一磁化 $\vec M$ は表面束縛電流 $\vec K_m=\vec M\times\vec n$ と等価に見なせ、最初のCanvasでは物体表面を回る電流として表示します。
可視化 6.1・6.2・6.6 回転楕円体の磁化・磁化電流・自己減磁界
一様磁化した回転楕円体では、磁化軸方向の反磁界係数 $N_z$ を形状から一意に定められます。縦横比 $c/a$ を変えると、物体の形、表面を回る $\vec K_m$、磁化と逆向きの $\vec H_{\mathrm d}$ が同時に変わります。
可視化 6.1・6.3・6.6 材料応答と反磁界係数を切り分ける
透磁率境界では $B_n$ と $H_t$ をつなぐ
表面自由電流がない二媒質の境界では、法線磁束密度と接線磁界が連続です。
$\theta_i$ を磁束密度 $\vec B_i$ と境界法線のなす角とすると、線形等方媒質では
です。高透磁率側では磁力線が境界に沿う向きへ曲がります。ただし、磁力線の本数を増やすだけでなく、$B_n$ と $H_t$ のどちらが連続かを区別することが重要です。
可視化 6.4 透磁率境界で曲がる磁力線
発展可視化 6.5 B入力とH入力のplay modelは同じ仮定ではない
Hysteresis modelをFEMへ入れるとき、入力を $B$ とするか $H$ とするかは単なる変数名の交換ではありません。play modelを一般化した入力 $x$、出力 $y$ で書くと
です。$p_k$ は幅 $\zeta_k$ を持つplay hysteron、$f_k$ は測定loopから同定するshape functionです。
- B入力: $x=B, y=H$。同じ $B$ 入力範囲のminor loopは、$H$ 方向へ平行移動すると同じ形になるという H軸方向congruency を組み込みます。未知量から $\vec B=\nabla\times\vec A$ を得る $A$-$\phi$ 系FEMと接続しやすい組合せです。
- H入力: $x=H, y=B$。同じ $H$ 入力範囲のminor loopは、$B$ 方向へ平行移動すると同じ形になるという B軸方向congruency を組み込みます。$\vec H$ を基本にする $T$-$\Omega$ 系FEMと接続しやすい組合せです。
2026年のCOMPUMAG投稿論文では、無方向性電磁鋼板の実測minor loopを比較し、H軸方向にはcongruencyがあり、B軸方向にはincongruencyがあることを定量的に示しています。その結果、B入力play modelはH軸方向congruencyとB軸方向incongruencyを同時に再現し、H入力play modelより測定loopを高精度に表現しました。これは「B入力なら常に正しい」という一般則ではなく、対象材料のloop familyがどちらのcongruencyを持つかを測定し、数値定式化と整合するmodelを選ぶべきだという結論です。
Canvasは論文の実測値を転載したものではありません。三つの同形minor loopを $H$ 方向へ移動した正規化教材データです。中央loopを基準に、H方向平行移動を許すB入力modelと、B方向平行移動だけを許すH入力modelを比較します。
を表示し、どちらの平行移動でloop familyが重なるかを数値でも判定します。
動かして確かめる順序。 動作点のずれを0にすると二つのmodel差は見えません。ずれを増やすと、H方向へ位置合わせする中央panelではloopが重なり続けますが、B方向だけで位置合わせする右panelでは横ずれが残ります。次にhysteresis幅を変え、loop面積とcongruencyの判定が別の性質であることを確認してください。最後に、FEMの未知量だけでmodelを選ばず、実測材料のminor-loop familyを先に調べる理由を説明してください。
可視化 6.7 磁気に関するクーロンの法則
磁化した物体の端に現れる正負の磁極を、磁極強さ $m_1,m_2$ を持つ点として近似します。真空中で磁極1が距離 $d$ の磁極2へ作る磁界と、磁極2に働く力は
となります。同符号なら斥力、異符号なら引力です。距離を変え、力が $1/d^2$ に従うことを3Dの方向と規格化した数値の両方で確認します。ここで磁極は磁化分布を理解するための等価モデルであり、単独の磁極を実在粒子として扱う図ではありません。
例題と理解確認
$\chi_m=19$、$N_d=0.10$ の楕円体を $H_0=300\,\mathrm{A/m}$ に置くと、
です。同じ材料でも $N_d$ を大きくすると磁化は小さくなります。
よくある誤解
- $\vec B$ と $\vec H$ は同じ量ではありません。材料応答 $\vec M$ を介して結ばれます。
- 透磁率が大きいだけで、あらゆる形状が同じように磁化されるわけではありません。
- 境界で連続なのは一般に $B_n$ と $H_t$ であり、$\vec B$ 全体や $\vec H$ 全体ではありません。
確認問題
- $N_d\to0$ と $N_d\to1$ で内部磁界がどう変わるか。
- $\mu_2/\mu_1=4$、$\theta_1=30^\circ$ のとき $\theta_2$ を求めよ。
- 一様磁化した物体の表面束縛電流の向きを $\vec M\times\vec n$ から説明せよ。
問1のヒントを見る
ヒント: $H=H_0/(1+N_d\chi_m)$ を使います。
解答: $N_d\to0$ では $H\to H_0$ となり、$N_d$ が大きいほど自己減磁界が強くなって内部磁界 $H$ は小さくなります。
問2のヒントを見る
ヒント: $\tan\theta_2=(\mu_2/\mu_1)\tan\theta_1$ を使います。
解答: $\theta_2=\tan^{-1}(4\tan30^\circ)\simeq66.6^\circ$ です。
問3のヒントを見る
ヒント: 表面の各点で外向き法線 $\vec n$ と磁化 $\vec M$ の外積を取ります。
解答: $\vec K_m=\vec M\times\vec n$ が表面電流の向きを与え、全体として磁化軸を回るソレノイド状の電流になります。
今回のまとめ
- $\vec B$、$\vec H$、$\vec M$ は異なる量であり、材料応答と形状による自己減磁界を分けて考える。
- 表面自由電流のない透磁率境界では $B_n$ と $H_t$ が連続し、その条件から磁力線の曲がり方が決まる。
- 等価磁極モデルでは、同符号は斥力、異符号は引力で、力の大きさは距離の二乗に反比例する。
- hysteresis modelはFEMの未知量だけで選ばず、実測minor-loop familyのcongruencyと数値定式化の両方に整合させる。