研究概要
はじめに
当研究室では、研究室名の通り「量子」「情報」「デバイス」の3つの分野を軸として、 理論から実装まで、教育と実用化の両面から革新的な研究を行っています。
⚛️ 量子
量子力学の原理を活用した次世代技術の理論研究と実証
💻 情報
量子情報処理システムとコンピュータビジョン技術の開発
⚙️ デバイス
超伝導量子デバイスやNMR装置など実用的な技術の開発
これら3つの分野を融合させた研究として、量子回路、量子デバイス開発、量子アニーリング応用、プロセスインフォマティクス、NMR技術の5つの領域を中心に展開し、 理論研究から実用システムの構築まで幅広いアプローチで量子技術の実用化と教育普及を目指しています。
1.量子回路
学習者向け量子回路設計・生成Webアプリケーション
研究背景
量子コンピューティングは21世紀の革新的技術として注目されていますが、その概念の抽象性により教育現場では理解が困難とされています。 特に量子状態の重ね合わせやもつれなどの量子力学的現象を直感的に把握することは、従来の教育手法では限界があります。 また、既存の量子回路シミュレータは研究者向けに設計されており、初学者には敷居が高いという問題があります。
こうした教育現場での課題を解決するため、当研究室では初学者から上級者まで対応した量子回路設計・生成Webアプリケーションの開発を行っています。 このアプリケーションでは、直感的なインターフェースを通じて量子回路の構築と動作確認が可能で、量子コンピューティングの理解を深めることができます。
ビジュアル回路エディタ
ドラッグ&ドロップで簡単に量子ゲートを配置し、回路を設計できるユーザーフレンドリーなインターフェース
リアルタイムシミュレーション
設計した量子回路の動作をリアルタイムで確認でき、量子状態の変化を視覚的に理解可能
複数量子ビットの量子状態の可視化
多量子ビット時の量子状態をより直感的に理解可能な、新たな可視化手法の模索
量子回路生成
特定の量子ゲートで目標とする量子状態へと遷移する量子回路を自動生成する機能の実装
2.量子デバイス
超伝導デバイスによる量子現象の探索と理解
研究背景
量子力学の特性を生かすことで、従来の技術では困難であった性能や機能を有したデバイスを実現できます。 このようなデバイスは量子デバイスと呼ばれ、センサーや通信などへ応用されつつあり、将来的にはさらに多方面にわたる活用が期待されています。 このような量子デバイスの動作を理解するには、量子物性現象に関する理解が不可欠です。また新たな量子デバイスの開発には、新奇な物性現象の探索も必要となります。
物性現象の探索や量子力学のより深い理解に目指し、当研究室では超伝導体を用いた量子デバイスを作製しています。 超伝導体はそれ自体が巨視的量子現象を示す物質であり、他の物質を組み合わせた複合ナノデバイスは多彩な量子物性現象を示します。 当研究室では実際にこのようなナノデバイスを作製し、多面的な測定を行うことによって、量子物性現象へアプローチしていきます。
デバイス作製・評価環境の構築
高真空下での成膜や低温・磁場下での微小信号測定といった量子デバイスの作製および評価を行う環境の構築
超伝導体/強誘電体デバイスにおける量子物性
超伝導体と強誘電体からなるナノデバイスの作製・測定と、それによる新奇物性現象の探索
3.量子アニーリング
時間割編成システムの開発
研究背景
大学や高校の時間割編成は、教員の希望、教室の制約、科目間の関係など多数の制約条件を同時に満たす必要がある複雑な組合せ最適化問題です。 従来の手動作成や一般的なアルゴリズムでは、規模が大きくなると解の質が悪化したり、現実的な時間内での求解が困難になります。 量子アニーリングは、こうした組合せ最適化問題に対して優位性を示す可能性があります。
この複雑な時間割編成問題を効率的に解決するため、当研究室ではアニーリングマシンを活用したシステムの開発を行っています。 従来の古典計算では困難な大規模な制約条件を持つ問題に対して、アニーリングマシンの優位性を実証するとともに、実用的なシステムの開発を目指しています。
問題モデリング
教員の希望や教室の配置、曜日や時限、科目等の情報をもとに最適な時間割編成となる制約を量子アニーリングで解ける形式で作成
量子アニーリング実装
D-Waveなどの量子アニーラやFixstars Amplifyなどのシミュレーテッドアニーリングマシンを用いた求解システム
4.プロセスインフォマティクス
機器映像からのデータ取得・解析システム
研究背景
製造業や研究現場では、多くの機器が重要なプロセスデータを表示していますが、これらのデータの多くは人間による目視確認や手動記録に依存しています。 この手法は人的エラーのリスクがあり、連続監視には限界があります。とくに近年のハイスループット実験においては、 自動化されたデータ取得システムの必要性が高まっています。コンピュータビジョン技術の発達により、これらの課題を解決する技術基盤が整ってきました。
こうした人的作業に依存したデータ収集の課題を解決するため、当研究室では製造プロセスや実験装置のディスプレイや指針からリアルタイムで数値データを自動的に取得・解析するシステムの開発を行っています。 コンピュータビジョンと機械学習技術を組み合わせることで、人間の目視確認に依存していた作業の自動化を実現します。
画像認識・数値読取
機器のディスプレイや計器から数値データを自動読取
リアルタイム監視
製造プロセスの状態をリアルタイムで監視・記録
データ解析・最適化
取得したデータの分析による特性値の抽出と異常値の検出
5.NMR(核磁気共鳴)
教育向け安価な卓上型組立式NMR装置の開発
研究背景
NMR(核磁気共鳴)は化学や物理学において重要な分析手法ですが、従来の装置は数千万円と高価で、多くの教育機関では導入が困難です。 また、装置の原理が学生にとってブラックボックス化しており、理論と実践の結びつきが理解しにくいという教育上の課題があります。 手頃な価格で組み立て式の教育用NMR装置があれば、学生が原理を深く理解しながら実践的な学習ができる環境を提供できます。
この教育現場でのNMR装置の課題を解決するため、当研究室では高校や大学等での教育現場で活用できる、安価で組み立て可能な卓上型NMR装置の開発を行っています。 従来の高価な装置に代わって、学生が直接触れて学習できる教育ツールとして設計し、原理の理解と実践を両立させることを目指しています。
低コスト設計
教育機関でも導入しやすい価格帯での装置開発
組立式教材
学習者自身が組み立てることで原理を理解